足蒸し湯の先客<FA:萩尾滋さんから>
温泉地大好きです。
大分は別府に無料の足蒸し湯があるので立ち寄った。
足蒸し湯は一本足の円形テーブルを逆さにしたような形状で、周囲にぐるり椅子がおいてある。
テーブルの上にいくつもの扉がありそれを開いて足を突っ込んで蒸される仕組みだ。
蒸気は天井に伸びた一本足の柱から送られているんだろうか。
よくわからない。
家族三人で並んで腰掛け扉を持ち上げる。
開けると中で地面がうごめいたように見え蒸気の奥に目を凝らす。
隣の椅子に腰掛けた息子は、熱い熱いと叫んで蒸気に足指が触れるたびに空中で足をバタバタさせている。
白い靄の向こうに見えるなにか白いもの。
地面の砂の中に埋まっている。
背びれのような物がパタと動いて砂を跳ね上げ周囲の砂が盛り上がる。
これは先客。
錦鯉のようだ。
私は扉を静かに閉めて息子から一つ席を開けて腰掛ける。
こんなにも熱いのに蒸されて美味しくなってしまったりしないんだろうか。
少し心配になるが、先程の跳ね上げはきっと気持ち良さの現れなのではないかと解釈して隣の扉を開いた。
足を差し入れてみるとこちらの地面は石だった。




