ロードレーサー
私の乗る電車と、並走する緑の電車の窓が重なる。
わずかに相手の方がスピードが速い。
車両の位置が前方へとずれていく。
緑の電車が過ぎた後ろを、競技用自転車に乗った集団が列をなして追っている。
窓から見える集団は私の乗る車両の真横にピタリとついたかと思うと、カタツムリの歩みのようにじわじわ先へ進んでいく。
薄っぺらいロードレーサー。
流線型のヘルメット。
ゴムでできているかのようにぴったりと体に張り付く、色とりどりのユニフォーム。
線路内は普通ガタガタで、自転車で走ることなどできないのではないか?
線路を覗き込もうと窓に張り付くがよく見えない。
自転車に乗る人の動きに縦方向の揺れは見られない。
濡れた首。
窓を伝う雨のように頬を降り、風に弾ける汗。
青い空。
電車は緩やかに進路を別にし始める。
窓に写る彼らの姿が離れ、車体全体をそれから列をなす集団の姿を映し出す。
糸で張ったガーランドのように整然と、距離を均等に保って進む。
踏み込むリズムを共にする。
自転車の集団は瞬く間に遠景となり、私の乗った電車は確実な停車に向けて失速しはじめた。
窓の外では電車も自転車もいっしょくたの一つの動く点になって加速する。
フレームアウト。
扉が開くと青い草の匂いが入ってくる。
無人駅のホームに落ちる屋根の影が、穴を開けたように黒い。
今の出来事の不思議を車内の誰ともシェアすることなく目を閉じる。
目的地はまだずっと先だ。
大学の近く?にダムがあって、学生時代たまに自転車で出かけました。
だらだらと坂を登る私を颯爽と追い抜いて、そして降りてくるロードレーサーを思い出しました。
ダムには昔飼っていた動物たちのお墓があります。
なぜか蝉やカブトムシの頭がいっぱい転がっています。
働きだしてから車で訪ねた時、昔テントを張った場所は水没していました。




