魂を濾す※
※一部不快な表現があります
いつからこうしているのだろう。
過去は深い霧の向こう。
そして未来も。
柄のついた目の粗いザルを手に、天を見上げます。
ミルクのように真っ白な天上から、とろりと雫が垂れてきました。
あれが魂です。
間も無く魂は、砂が崩れるようにざあっと流れ落ちてきます。
流れ落ちる魂は卵の白身のように不定形な一つの塊。
雫は長く伸びて天から切れることなく降りてきます。
きらきら内側から光を発する魂を、ザルで受け止め漉していきます。
とぷんとあふれてしまいそうなのをふるふる揺らしながら、どうにかこうにかこぼさないように。
私の仕事は魂を濾すこと。
伸びる雫を見逃してしまうと、垂れ落ちた魂は濾されることなくするすると地に染み入ってしまいます。
濾過されることなく染みた魂がどうなるのかは、私の知るところではありません。
けれどきっとそれは良いことではないのです。
魂の染み入る地は真っ白な雲のようでした。
天と同じ色をしていました。
天も地も、右も左も真っ白な場所で、日がな一日天を見上げ、魂が滑り落ちる兆しが現れるの待ちました。
一日、といってもここには終わりも始まりもありませんでした。
いつからかこうしていて、いつまでもこうしている。
境界はどこにも見えませんでした。
眠くなることも、疲れることもありませんでした。
濾す、といってもザルの中は魂が通る前と後に、何一つ変化がありませんでした。
目の粗いザルなのです。
網の目にはチリ一つかかることがありません。
ザルはいつまでもいつまでも光るように真新しいままでした。
なんのために魂を濾すのか。
考えることはありませんでした。
そもそもあまり考えることができないのです。
ただザルを向け、光る魂を漉していく。
それが全てでした。
その時私は垂れ落ちてくる魂の中に何かを見ました。
何か。
魂がザルを抜け落ちた後覗き込むと、目には指が引っかかっていました。
血の気のない真っ白な小指。
湯に浸かりすぎてふやけたみたいに皮膚には深いシワがうねっていました。
切り口は紙細工のようにところどころほぐれ、白い肉をひらひらさせています。
「これは」
耳に届く音。
これは私の声です。
私の声。
丸っこく、くぐもった私の声。
それから白い小指を指でつまみ、ひょいと腹のポケットに入れました。
ポケットがあったのか。
まざまざと私を見ました。
手を。
足元を。
体のどこかしこを。
地の白は雪のように溶けて地面に吸い込まれていきました。
足の指に砂が絡む。
見上げると天に立ち込めていたミルク色の雲が空色に溶けていきます。
私の時間は終わったのです。
ここは地獄だったのかしら。
長いとも短いともしれない白い時は、罰だったのかしら。
答えるものはありませんでした。
指をポケットに入れたまま、私は行かなくてはいけない。
どことは知れなくても。
この夢を見たのが子供の頃だったのか大人になってからだったのか。
いずれにしてもずっと前のことですが、わからなくなりました。




