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嘘つき!!

眠れねぇな……今日はバイトも休んじまったし……

何より、遥とあんな大ゲンカをしちまうなんてな。

くそっ!ダメだ!

俺は布団から起き出して、Tシャツの上に革ジャンを羽織り、Gパンを履いてDT50のキーを持つ。

「走ってくるか……」

部屋から出ると、空には煌々とした満月が浮かび、青白く街を照らしていた。

DT50を自転車置き場から引き出し、アパートから表通りまで押して行き、軽いキックを踏み下す。

パラン!パパパパパパ……

ヘルメットとグローブを付ける間だけ暖気してから、俺は夜の街を走り出した。

海の方へと向かいながら軽く流していると、つい数時間前の苦い記憶がフラッシュバックする。

また……また、遥を泣かせちまうなんてな。

俺は苦い記憶を頭から追い出せないまま、DT50を急加速させた。




「ショウ!こんな時間まで何やってたのよ!」

亜由美の家の電話を借りてバイト先のバイク屋に休ませて欲しいとお願いし、

必死で自転車を漕いでアパートに帰りついた俺を待っていたのは

ユデダコもかくや、と言った風情で真っ赤になって玄関に仁王立ちしている遥だった。

「委員会の後、由香里先生に呼ばれて話してたんだ」

俺は、由香里先生から、とりあえず遥にはそう言っとけと言われた通りのセリフを返す。

だが、亜由美の件もあり、意識はしてなかったが不機嫌そうな返し方になってしまった様で、

「何よ、その言い方。まるであたしの事が鬱陶しいみたいな口ぶり!」

遥が棘の有る返事を返す。

遥の言い方に俺もイラッと来たが

「そうか?そんな積りは無かったんだけどな。気に障ったんならすまん」

と、一応謝る。が、

「ぜんっぜん心が篭ってないんだけど?」

大きな胸の前で両手を組み、フン!と鼻を鳴らしながら言い放つ遥の機嫌は直りそうも無い。

「じゃあ、どう謝れば良いってんだよ?」

いかんとは思いつつも、荒くなってくる自分の口調を抑える事が出来ず、

俺は遥の大きな黒い瞳を睨み返しながら吐き捨てた。

「!なにそれ?ケンカ売ってんの?」

臆する事無く俺をギン!と睨み返しながらずい、と迫る遥の肩に手を掛け

「お前が勝手にケンカ腰になってんだろうが。とにかく、風呂入るから」

熱い体を横に退かしつつ俺は玄関から部屋に上がり、制服を脱ぎ始めた。

「ちょっと、まだ話は済んでないわよ。

 ショウ、あんた今日の放課後どこに行ってたのよ!」

服を脱いでいる俺の背中で、初めて聞く遥の厳しい声が響く。

「だから、さっきも言ったろ?

 委員会が終わった後、由香里先生に呼ばれて話してたんだ。

 嘘だと思うんなら、明日由香里先生に聞いてみろよ」

俺は遥の厳しい調子に少々戸惑いながらも、さっきの答えを繰り返した。

「あたしの聞いているのはその後よ!

 由香里先生の話が終わった後、まっすぐ帰って来なかったでしょ!」

と、さすがに鈍い俺もようやく遥が何かに感づいている事に気付く。

これは、もしかして亜由美やチンピラ連中との一件を誰かに見られて、

そいつが遥に報告でもしやがったんじゃないか……?

「なんで黙ってるのよ!なんとか言いなさいよ!」

だが、あの件は遥には内緒にする様に由香里先生、まどかさん、そして何より

亜由美本人から頼まれているし、俺も亜由美とキスをしてしまった後ろめたさも有り、

絶対に言うワケにはいかない……

俺は黙ったまま、服を全部脱いで風呂場のドアを開けた。

「そう!言いたくないならあたしが言ってあげるわ!

 今日、バイトサボって亜由美の家に行ってたんでしょ!

 亜由美の家の近所に住んでるコが、わざわざ電話して来てくれたわ。

 別に亜由美の家に行くのは構わないわよ。でも、なんであたしに隠すの!?」

俺はドアを開けたまま、ピタリと固まってしまう。


ちっ!嫌な予想は当たりやがるぜ!誰だ、わざわざ電話までしやがって……!


「ああ、お前の言う通り、亜由美の家に行ってたんだ。

 だが、お前に隠そうとしたワケじゃない。

 大体、俺が帰って来た瞬間からお前は湯気噴いて怒ってんだから、話しようもないだろ!」

俺が遥に振り返って怒鳴ると、一瞬の静寂の後

「なに言ってんのよ!最初にあたしが何してたか聞いた時、

 由香里先生に呼ばれて話してた、って嘘ついたじゃない!

 たしかにあたしは怒ってたけど、なんでその時嘘ついたのよ!!」

遥が凄い大声で俺に向かって怒鳴り返した。

「あのなあ!あの時俺が”亜由美の家に行ってました”なんつったら、

 お前はどんな反応するか手に取るように解るだろうが!」

いかん、と理性がブレーキを掛けているのだが、俺は亜由美の事や暴走族の事など、

心に刺さっている心配事やストレスに負けて遥に向かって怒鳴ってしまう。

「……!!なによなによなにようっ!

 そんなの嘘つくことの理由になんかならないじゃない!

 今まではあたしがヒートしてたって嘘つかずに説明してくれたのに、何で今日は嘘つくの!?

 なにかやましい事でも有るんでしょ!?」

でっかい瞳に涙をたっぷりと溜めながら怒鳴る遥を見て、

遥の涙を止める為に行動するべきだ、と俺の理性は判断して命令を下す。のだが、

「うるさいよ!お前がしつこく絡むから鬱陶しくてつい誤魔化しちまったんだ!

 あんまりキーキー喚くんじゃないよ!」

実際に口を突いて出た言葉は、自分から見ても最低最悪のモノだった。

「…………!!

 っ!鬱陶しいですってぇ!?」

真っ赤だった顔色をあっという間に真っ青にした遥が、

怒りの余りか言葉を見つけられずに口をパクパクと開閉させた後、

「もういい!もうこんなのやだ!

 ショウなんか大ッキライ!!そんなに亜由美が良いなら亜由美と付き合えばいいじゃない!

 あたしの事なんかどうでも良いんで……っ!!」

ひぐ、と喉を鳴らした遥の瞳から、まさに川の様に涙が溢れ出した。

「ばかあっ!!!」

そして、玄関のドアをバーン!と勢い良く開けて裸足のまま走り出す。

「おい、遥!待てよ!!」

一瞬呆気に取られて見送った俺だったが、はっと我に返って遥の後を追おうとしたが、

「寒っ!って、俺素っ裸じゃんか!」

自分が風呂に入る寸前だった事を思い出し、ドアを閉めて室内に戻る。

「くそっ!何だってこんな事に……」

俺はとりあえず風呂に浸かりながら、数分前の自分のバカさ加減に呆れ果ててしまった……



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