果たし状?
ジリリリリリリ!チン!
「ん〜…」
ちゅっ
目覚ましの音が響いて、直ぐに止まる。
そして、唇に暖かくて柔らかな感触が広がった。
「ショウ、朝だよん」
「んあ…後五分…」
「んも〜!」
ちうううううっ!
首筋を吸われる感触に目が覚めて来る…って、
「のわ!遥!おま!」
バッと飛び起きた様とした俺の顔に弾力の有る物体がぼにょん!とぶつかった。
「もふ!」「にゃん!」
俺と遥の叫びが重なり、俺は再び枕に頭を落としてしまう。
「も〜、いきなり飛び起きないでよ!おっぱいが潰れたかと思ったじゃない」
「…ハァ?」
俺は寝ぼけ眼で状況を分析する。
…ああ、遥は俺の枕元に座って、屈み込む様にして俺の首筋にキスしてたのか…
んで、俺は飛び起きようとしたから屈み込んでいた遥のおっぱいに顔をぶつけた、と。
…やべえ、ただでさえ朝から元気なパーツが更に元気に…
「遥、今何時だ?」
俺の隣にゴソゴソと潜り込んできた遥に尋ねると、
「ん、まだ五時半だよ」
と言いながらピトっと抱き付いてくる。
「…あれ?目覚ましは六時に合わせといたはずだけどな?」
「だってぇ、六時に起きたんじゃ支度する時間しかないじゃない?」
俺の疑問に答える遥。
「…支度する時間以外に何をしようってむぐ」
再び唇に暖かくて柔らかい感触が広がる。
「ん…んふ」
少し笑いながら、遥の熱くて甘ったるい舌が俺の口に差し込まれて来る。
しばらくお互いの舌を味わった後、そっと唇を離す遥。
「えへへ…する事なんて決まってるでしょ…」
遥がふにゅう、としたアヒル口で笑いながら抱き付く。
「はいはい、遥様…」
俺は溜息をつきながらも、遥の細い腰を抱いて再び唇を合わせた。
「おはよー」
「ウス」
朝の挨拶があちこちで交わされている。
いつもの様に登校し、部活へ向かう遥と別れてから教室へ向かう途中、
「ショウくん!おはよう!」
と声を掛けられて振り向くと、そこに見覚えの有る女生徒が微笑みながら立っている。
「ああ、おはよう…あ!岬、だよな!」
挨拶を返しながら思い出した。
そうだ、俺と一緒に文化祭企画委員会で、西園学園との交流委員に選ばれた岬だ。
「ねえ、一瞬誰だか忘れてたでしょ?」
岬の言葉に少し慌てたが、
「ああ、悪い悪い。俺はどうも人の顔覚えるの苦手でさ」
と正直に答える。
「まあ、ショウくんの廻りには可愛いコが集まるから、
私みたいな地味なコなんて忘れちゃうんだろうけど?」
首を傾げながら悪戯っぽい表情で言う岬。
「いや、お前だって充分可愛いぜマジで」
「ふ〜ん、まあ一応ありがと!
でね、今日なんだけど、放課後の委員会の時間に西園学園に行く事になったの!
昨日、臨時委員会が有ったんだけどショウくんもう帰っちゃってたから…
っていうか、ショウくんのクラスの男子が殆ど居なかったよね」
…ああ、昨日は終業のベルと共に、ハイエナ共に追われながら弁当を抱えて飛び出したさ。
「…ハイエナ、って何なの?」
不審そうな表情で俺を見詰める岬の視線に慌てる俺。
また、口に出てたか…その内コレでエラい目に遭いそうな予感がするぜ…
「あ、ああ、なんでも無い。
じゃあ、委員会に出てから俺とお前で西園に行くのか」
「ううん、時間が勿体無いから私たちは委員会に出ずに行くの。
それに、西園学園まで行ってから、また帰ってくるのも大変だから
そのまま現地解散で帰宅して良いって岡田先生が言ってたわ」
なるほど、さすが由香里先生だな。
「了解!じゃあ、終業後に待ち合わせて行こうか。
なんか持ち物とかは有るのか?」
「うん、資料とか筆記用具とかだけど、私が用意するから大丈夫。
待ち合わせはどうしよう…?ショウくんは通学自転車だっけ?」
「ああ、岬はなんだい?」
微笑みながら唇に手をあてる岬。
この娘、けっこう大人っぽいんだな…
「私は電車よ。じゃあ、西園までは徒歩で行きましょ。そんなに遠くないしね」
「あ、もしお前がイヤじゃなければ、学校からちょっと離れたら俺の自転車の後ろに乗るか?
一応足を置けるようにステップみたいなハブガード付けてるんだ」
毎朝、遥を乗せて走ってるしな…
「いいわね!じゃあ、それで行きましょ。
じゃあ、午後四時に自転車置き場で待ち合わせで良い?」
「ああ、そうしよう。じゃあ、また放課後な」
にっこりと微笑み、手を振りながら廊下を去って行く岬を見送りつつ振り向く俺。
どす。
振り向いたとたんに誰かに軽くぶつかってしまう。
「あ、悪ぃ…のわあっ!?」
そこには、いつの間にか笑顔で青筋を立てている遥の姿が有った。
「ショウ…今日は岬ちゃんと仲良しなのぉ?」
遥の後ろには、見覚えの有る三人組が両拳を口元に当てて固唾を呑んで見守っている。
ってか、涼、おまえも一緒にそのポーズとってんじゃねえよ…
「あ、ああ遥か。岬とは文化祭企画委員会で一緒になってだな…」
「ほ〜お、それで放課後は仲良く自転車二人乗りでお出かけってワケぇ?」
…なんなんだこのデジャビュ…
「それはだな、西園学園に行くのに足が無い岬を乗せて行くだけであってだな…」
ピピクぅっ!と遥の額の青筋が数を増す。
ああ、この光景はついこの前見たばっかじゃんか…
「西園学園ですってぇ…?そうね〜、アソコは可愛いコ一杯居るもんね〜」
もうね、お前ね…
「ああ、詳しくはまた後で話すからっ!!」
必死で言う俺をジロッと一瞥し、
「…まあ、良いわ。今夜ゆっくり聞くから」
と後ろの三人に聞こえない様にぼそっと呟き、スタスタと歩き出す遥。
三人組が慌ててその後に続く。
っと、すれ違い様に涼が俺にすっと封筒を渡してきた。
「何だ?果たし状か?…って!」
封筒には、「ショウ様へ」とでっかく書いてある。
…ラブレターじゃねえんだからよ…
俺はがくう、と壁に手を突いて項垂れてしまう。
「ああ、今日も朝から疲れる日だなあもう…」
俺は帰りたい気持ちを必死で抑え、ふらふらと教室へ向かった。




