目が覚めたけどまだ夢の中かもしれない
(……あっれぇ、明るい?)
ゆるゆると意識が浮き上がって来た。目を閉じていても瞼に明るさを感じる。まだ寝ていたい気持ちの方が強くて、そのままぼんやりしていた。ゆらゆらと何かに浮かんでいるような感覚がして、凄く気持ちがいい。寒くも熱くもなく、周りは静かで微かな水音が聞こえてきた。
どれくらいそうしていただろう。頭が考える事を拒否したように動かないが、さすがに周りが暗くなってきた。そろそろ動かないと日が暮れちまう。って……
(あれ? そう言えば俺、何してたんだっけ?)
目が覚めたんだから眠っていたのは間違いない。じゃ、寝る前に俺は何をしていたんだろう。そう思いながら記憶を辿ろうとするが、頭が思うように動かない。
(俺は、何を……)
マジでわからなくて表現のしようもない焦りと不安が背を這った。なんだろう、大事なことを忘れているような気がする。俺はさっきまで何をしていたんだ? それに……
(ここは、どこだ……?)
目を開けると、そこには果てしない青の世界が広がっていた。青は青でも緑がかった透明な青だ。そう、深い森の奥にひっそりとある、透明度の高い綺麗な湖のような……
(って、待てやコラ!)
ドクドクと心臓があり得ない速さで動くのを感じた。このまま口から飛び出して勝手に走り去ってしまいそうな勢いだ。いや、そんなことはないんだけど。じゃなくて……
(何で水ん中? は? 息が! って……息してる?!!)
あり得ないことに、俺は水の中なのに息苦しくなかった。マジで水ん中だよな? この色といい感触といい、どう考えても水の中だ。そこで俺は、息もせず……
(って、ほんとに息してるぅ?!!)
息苦しくない。水を飲んでいる感じも……ない? 恐る恐る息を吸い込んだけど、水も入ってきたのに苦しくないし、さりげなく空気を吸い込んだ感じが、する。いや、なんだろう。いつもの呼吸と感じが違う。違うけど、空気は取りこめているし、苦しくない。
「なんじゃコラ―――!!!」
喉に手を当てようとして、動かした手を見て俺は叫んだ。叫ばずにいられなかった。今叫ばずしていつ叫ぼうか。俺の、俺の手が……
(魔獣の手になってる?!!)
仕事柄もあって肌荒れがデフォルトでお世辞にも綺麗な手とは言い難かった俺の手だけど、今はそんな肌荒れレベルのもんじゃなかった。もっと別の物、そう、魔獣でも大型で長い鉤爪のあるやつの手だ。そりゃあ、魔獣の毒を浴びて左手は傷跡が残って残念な姿にはなったけれど、ちゃんと指は五本あって人間の形をしていた。なのに今は、両手とも人間の手じゃ、ない!
(ど、どうしちまったんだよ、俺……)
ゴクリと、思わず唾を飲み込んだ。こうなると身体も何か変化があるのかもしれない。しれないが……見るのが怖い。もし人外の姿に替わっていたら……俺はどうなる?
(だ、だが、確かめないことには……)
そうだ。確かめなきゃ、これからどうする事も出来ない。まだ心臓が落ち着かないが、俺は深呼吸を五回繰り返してから、ゆっくりと視線を下げた。無事人間でありますように、と過去最大級の真摯さで祈りながら。なのに……
(こ、この身体は……トカゲ? いや、もっと長いし……蛇でもないし、も、もしかして……)
もう一度、ゆっくりじっくり自分の身体を眺めたが、肌には固い鱗のようなものがびっしりと並び、水中でも光沢を放っていた。そして身体の形は人間のそれと大きく違っていた。これは、この身体は……
(まさか俺、ドラゴンになっちまったのか?)
手も、足も、胴体も、艶やかな鱗が水中でも光を反射していた。ついでに足の先には人間にはあり得ない尾らしきものまでついている。手足には鋭く長い鉤爪があって、顔に手を当てると人間ではあり得ない凹凸を感じた。
(ど、どうなっちまったんだよ、俺……)
ひとしきり驚いた後には、意識を失う前のことがゆるゆると思い出されてきた。そうだ、俺は異界に追放になって、レーレ川に落ちて、そこで背中に衝撃を受けて気を失って……
(もしかして、夢の中なのか?)
そうだ、これはきっと夢を見ているんだ。
(何だか凄く疲れた気がするし、もう一度寝れば元に戻っている筈!)
そう思った俺は、もう一度瞼を閉じた。今度はいい夢が見られるようにと願って。




