84 ボウリング 後編
後編です!
どうぞ!
碧が放ったボールが全てのピンを吹き飛ばすと、俺達の近くにあるモニターに大きく『STRIKE!』と表示される。
それを見て碧が小さくガッツポーズすると、杏実さんが歓声を上げる。
「碧君すごい!! めっちゃ上手!」
「まあ中学時代に友達と結構ボウリングしてたしね」
杏実さんの歓声に少し照れ臭そうに碧が返すと、杏実さんはますます好奇の目を向ける。そうして碧のことをじっと見つめ──────動かない。
途中までは碧も笑顔で杏実さんの方を向いていたのだが、ずっと杏実さんが碧の方を見て動かないので流石に不安になってきたのか、表情には少し陰りが見える。
「えーと、杏実、どうかした?」
沈黙に耐えきれず碧が口を開くと、すぐに杏実さんが首を傾げながら不思議そうに言う。
「??? 碧君の第二投をじっと見ようと思って待ってるだけだけど……?」
「え、俺ストライクだったから二投目無いけど」
「え?」
あぁ、そうだ杏実さんボウリング初めてだったか。まさかここまで知らないとは思わなかったけど。妙な所が抜けてるんだよなぁ。
次は杏実の番だぞと碧に言われ、慌てて杏実さんがボールを取りに行き、勢いよくボールを放つと、そのボールはまたもやまっすぐにガターへ。
「ちょっと力みすぎじゃない? リラックスリラックス」
見かねた碧がアドバイスするが、あまり効果が無く、次の投球もガター。だが、さっきよりはガターに吸われていく位置が少し奥に移動しているような気がした。
その後は友香梨さんと俺が無難に投球を終え(今度はガターは回避した)、再び碧の番に。
真剣な表情で杏実さんが見つめる中、軽い助走からの綺麗なフォームで放たれたボールはしっかりとピンを捉える。しかし、先程の投球よりもやや左にズレたため右側に二本ピンが残っていた。
だが、流石に中学時代によくやっていたと言うだけはあって二投目でしっかりと残りを倒し、今度はスペアを獲得した。
さらに、もう一周回ってまた碧の投球順になると今度もスペアを獲得してみせた。
すると、その間未だにガターが続いていた杏実さんが碧に近づき、声をかける。
「えっと、碧君。良かったら、私に投げ方教えてくれない? どうしても上手くいかなくて」
少し顔を赤らめながら言い出した杏実さんに、碧はふっと柔らかい笑顔を向けて答える。
「いいよ。次は杏実さんの投げる番だよね。じゃあ、ボールを持って構えて。俺がサポートするから」
杏実さんは小さく頷くと、少し駆けてボールを取りに行き、ボウリングのレーンの前にまっすぐと立つ。
その脇に碧が立ち、ガラス細工でも触るようにそっと杏実さんの腕に手を添える。
そして、杏実さんにいつも通りに投げるように囁くと、言われた通りに小さく助走に入る。そこからそのままボールを投げようとすると、投げる瞬間に碧が杏実さんの腕にほんの少し力を込め、腕のブレを無くした上でまっすぐに押し出す。
すると放たれたボールはレーンの中央付近をころころと転がり、少し左側に移動した後に立ち並ぶピンに命中。一本倒れると倒れたピンが隣のピンも倒し、最終的に四本のピンが転がった。
もちろん、杏実さんが歓喜の声を上げたのは言うまでも無い。
「すごい! すごいよ碧君! 何したの?!」
興奮して杏実さんが尋ねると、苦笑しながら碧が答える。
「別に大したことはしてないよ。ただ、さっき投げてるのを見て、まっすぐ投げているつもりで腕が斜めに動いてるのが分かったからそれを矯正しただけ。あっちのモニターで自分の投球のリプレイ見れるから見てくるといいよ」
碧のアドバイスを受け、杏実さんがわくわくした足取りでモニターに向かい、それを操作してさっきの投球のリプレイを選ぶと、碧に腕を支えられた杏実さんの姿が映る。そしてこのタイミングになってようやく、碧の肌と直に触れ合っていたという事実に気付いたようだ。
無言でぷるぷると震えながら徐々に顔に赤みが現れてきた。
その様子を、友香梨さんと二人で微笑ましく眺めた。
それ以降もボウリングは続いていき、碧はやはり圧倒的な実力を見せた。もちろんプロボウラーとは違うので何度かに一回はミスが出るが、それでもかなりの高確率でスペアかストライクを獲得していた。
また、碧の補助を受けてからの杏実さんの成長は凄まじく、二ゲーム目の終盤にはついにスペアを獲得した。その時の喜びようと言ったら、本当に嬉しそうで、本当に可愛らしく、可能ならば保存して全世界にお届けしたいほどだった。
ボウリング場を出ると、初秋らしい少し涼しげな風がさっと吹いた。
それに合わせて碧が呟く。
「今日、楽しかったな」
それを聞き、全員が同調して頷く。
「また、こうやって遊ぼ!」
杏実さんが溌剌と言うと、今度もまた全員が頷いた。
読んでいただきありがとうございました!
今回、前回のボウリング回はここ最近では珍しく実体験を元にしたお話でした!
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