80 ごめん
学校祭編ラストです
よろしくお願いします
…………大喜に告白された。
本当に突然の事だったから驚いたけれど、それ以上に私の心にあったのは、大喜への申し訳なさだった。
どうして気付いてあげれなかったんだろう。幼馴染としてこれまでずっと一緒に進んできたのに。
私には『想い人』がいるから大喜の気持ちには応えてあげれないけど、もしも私が事前に大喜の気持ちに気付けていたら、それ相応の断り方があったはずなのに。理由も付けずにただ困惑と申し訳なさからの涙と共に一言断る事しかできなかった。
考えれば考えるほど申し訳なさが募り、いつまでも涙が止まらないせいで、佑君に碧君を引き留めてもらっているのに、私はトイレの洗面台の前から動けなかった。
十数分経ち、どうにか涙が止まったので、私は冷水で顔をざぶざぶと洗った後にハンカチで優しく拭いて教室へ向かった。
結構時間がかかってしまったので流石に佑君と碧君は帰ってしまったかな、と教室の中をちらっと覗いてみると、なんと碧君が一人スマホをいじっていた。
「……碧君」
教室に一歩踏み込み、小さく呟くと、碧君と私以外誰もいない教室に響き、碧君がぱっと顔を上げた。
「もうみんな帰ったのにまだ残ってたのか、杏実」
「……碧君こそ」
「いやー、佑と教室に残ってちょっと雑談してたんだけど、そろそろ帰ろうかって所で急に佑が腹が痛いって言い出してさ。一緒に帰るから待ってるんだよ」
私の小さな声に、碧君が肩をすくめながら答える。
そして、その発言から佑君が私のために策を尽くして碧君を引き留めてくれていた事が伺えた。遅かった私を、来ると信じていてくれたんだ。
「というか、杏実、目赤くない? 大丈夫?」
心の中から佑君に感謝を告げていると、碧君にそんな事を言われた。本当によく気付く人だ。
目が赤い理由に気付かれてはならない、とどうにか言葉を巧みに動かしてそれを受け流して、碧君に改めて向き直る。
佑君が私のことを信じてくれていたのだから、それに応えないと。
「私、碧君の事が───」
好きです、そう言おうとして、言葉に詰まった。
これは、照れや恥ずかしさからのものではないと直感的に思った。
そして、それを裏付けるように、頭に言葉が響く。
『杏実、好きだ。これからもずっと、そばにいたい』
ついさっき聞いた、大喜の言葉だ。
そして、気付いてしまった。
自分に向けられた想いにちゃんと向き合えてない私なんかには告白する資格は無い、心の奥に起こったそんな気持ちが、私の事を邪魔しているんだと。そして、今の私ではそれを乗り越えられないのだと。
急に言葉に詰まった私を訝しげに見る碧君に「ごめん、私帰るね」と早口で伝えると、私は教室を飛び出した。
ごめん、大喜。
ごめん、碧君。
ごめん、佑君。
こうして、各々の気持ちを揺さぶりながら、北燈高校の学校祭は本当に幕を下ろした。
読んでいただきありがとうございました
学校祭、終了です
たまにはビターエンドもいいじゃないか、という思いで書き切りました
今後の彼や彼女がどのように進んでいくのか、まだしばらく見守ってやってください




