79 峰口大喜
新年一発目の更新!!
今年もよろしくお願いします!!
学校祭編クライマックス!
「ロキ、ボール捕るの上手いよね。野球やったら?」
俺の記憶を辿っていくと、いつもこの物心がついてすぐの頃に杏実が放った一言が現れる。
これは言わば俺の原点。
幼い頃、家が近かった俺と杏実はよくボール遊びをしていた。俺の父親が野球をしていたのでグローブなどの備品もあって、キャッチボールをすることが多かった。
杏実がめちゃくちゃな方向───それこそボールを投げる杏実自身の真後ろなんかに力任せに投げるボールを俺が頑張って捕りに行く図式だが、それが楽しかった。
そうやって杏実を甘やかした結果、杏実はボールを投げるのが下手なまま今日まで来てしまったので少し反省しているが。
とにかく、ボールを捕ると杏実が喜んでくれるのが嬉しくて、ただひたすらにキャッチボールをしていた。もしかすると、この時点でもう杏実に惹かれていたのかもしれないと今になって思う。
そして、杏実が言ってくれた「ボールを捕るのが上手い」という言葉を信じ、俺は野球の道を歩み始めた。
地元の少年野球クラブに入った俺は、初めはただがむしゃらに様々なポジションで頑張っていたが、高学年になると食べた物が全て成長に使われて身体が急激に大きくなり、監督からはキャッチャーを任されるようになった。試合にもコンスタントに出れるようになり、杏実や友人からよく応援されるようになった。
キャッチャーフライの処理に少し失敗し、怪我をしたのを杏実に手当てしてもらったのもいい思い出だ。
中学に進学すると、一年生のうちから野球部のレギュラーに定着した。
吹奏楽部に入った杏実から演奏による後押しを受けながら上級生に混ざってプレーし、活躍していくうちに女子から告白される事も起こるようになった。受けた告白はありがたく受け取りつつも、野球に集中したいからと全て断らせてもらった。
これも今だから思える事だが、野球に集中したいというのも方便で心の奥底には杏実が好きだからという理由も潜んでいたような気もする。
そして高校。
中学時代の活躍が評価され、近隣で一番野球に注力している北燈高校に推薦で入学した。
北燈高校がたまたま吹奏楽にも力を入れていたおかげで杏実も同じ高校に進んでくれたのは俺にとって大きかった。杏実の応援は力の源になる。
そして先日には、自分の中にずっと潜んでいた恋心というやつにも気づくことができた。
俺は気づいてしまったそれをじっと押し留めるなんて事はできないから、伝えるのだ。
「……杏実、ちょっといいか?」
体育祭を終え、浮き足立つ生徒の中から急ぎ足で移動する杏実を見つけ、声をかけた。
杏実は少し驚いた様子だったが、すぐに俺に向き直してくれた。
「ロキ、どうしたの?」
純粋な瞳で尋ねる杏実に、覚悟を決めて言葉を紡ぐ。
「伝えたい、ことがあるんだ」
彼女持ちの友人や先輩に相談すると、みんな揃って「まっすぐに気持ちを伝えれば良い」と言った。
だから、ただまっすぐ、まっすぐに伝えるのだ。
「杏実、好きだ。これからもずっと、そばにいたい」
九回裏、一打で逆転の場面で打席が回ってきた時よりもずっと緊張した。でも、伝えられた。
杏実の顔を見ると、そこには明らかに動揺が広がっていた。当然か。ずっとまるで兄妹か双子のように過ごしてきた相手に告白をされたのだ。
「本気だから」
もう一押し、と何も言えずに固まっている杏実に語りかけると、杏実の眦に雫が浮かんだ。そしてゆっくりと口を開き───
「……ごめん、ロキ。私、ロキの───大喜の気持ちに応えられないっ……」
優しい少女は、瞳を濡らしながら、困ったように、辛そうにそう言った。
「そう、か。……分かった」
俺の声を聞き、ハンカチで目元を拭うと杏実は俺に背を向ける。その背に、これだけは伝えなければともう一言かける。
「俺の告白聞いてくれてありがとう。……これからも友達、な」
「……うん」
杏実が少し駆け足でその場から立ち去るのを見てから、俺は空を見上げて近くの校舎の壁にもたれかかる。
「あ〜……だめだった、か」
真面目な話、俺の印象は杏実の中でまあまあ良い位置につけているはず。それでも振られたという事は、きっと杏実にも想いを寄せている相手がいるのだろうなと思った。
恋をするのが初めてなら、当然失恋も初めての経験。思っていたよりも、心にくる。
それでも、ちゃんと気持ちを伝えられたという達成感も僅かに存在する。
空を見つめる俺に吹きつけた残暑の生温い風は、鬱陶しくもどこか妙な清々しさももたらしていた。
こうして、峰口大喜の恋路は幕を閉じた。
一方には寂寥感と僅かな達成感を、もう一方には明確な動揺を与えながら。
新年早々から重要話でした!
いわゆる『名前回』ってやつです
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