74 文化祭とツーショット
文化祭開始の74話!!
初っ端からトバしていきますよ!
学校祭一日目、文化祭の日がやってきた。
楽しみゆえか、いつもより少し早く目覚めた俺は冷水で顔を洗い、今日からの学校祭のために団の色に合わせて作られた団シャツに着替える。
俺の団の色は赤なので、着替えてから鏡で見てみると胴体が真っ赤になっていて少々派手な装いになっていた。まあ一種の祭りなんだしこれくらいが丁度いいのか。
朝食を早々と済ますと、俺は自転車に乗って学校へ向かった。真っ赤なシャツを着て公道を走るのは少し恥ずかしかったが、道中には同じように団シャツをまとった人が他にも多くいて道路を青、緑、紫とカラフルに彩っていたので少し恥ずかしさも和らいだ。
学校に到着すると、俺は真っ直ぐに『展示』を行う二年二組の教室へと向かった。
教室に入ると既に到着していた先輩達から挨拶を投げかけられた。
「おはよう、佑! 今日は頑張ろうな!」
「おはようございます! 頑張りましょう!」
先輩の挨拶に元気良く返すと、そのまま教室の奥へ移動、貼り出されているシフト表を確認する。
俺達の『展示』の「鬼の集落再現」は基本的にはお客さんに自由に見て回ってもらう仕様だが、当然ながら説明をする人が必要だし、フォトスポットのようなものも作ってあるので撮影の係も要る。
なので、何人かを数時間毎に交代制で教室で働いてもらうことになっているのだ。
確認すると、俺は文化祭開始から二時間後までのシフトになっていた。一緒に担当する人はこの数週間で仲良くなった先輩だったので一安心。
一緒にシフトに入る先輩に挨拶していると、校内放送が入った。
『午前九時になりました。これより学校祭一日目、文化祭を開始します』
それが聞こえた瞬間、外から歓声が上がり、重なり合った足音が聞こえてくる。
外からの歓声を受け、しっかり自分の役目を果たさなければと気持ちが引き締まるのと同時にわくわくした気持ちが湧き上がる。
ついに始まるんだ、文化祭……!
文化祭が始まると、生徒や一般客が『展示』に一気に押し寄せてきた。
これは「見てもらう」タイプの展示なのであまり多くの人が入る想定はしておらず、あまりの客入りに一時的にではあるが入場制限をする羽目になってしまった。
これ……航先輩、もしかしなくてもこうなると知ってて俺に押し付けたな? 「何事も経験だ」と言いながら笑う航先輩の顔が頭に浮かんだ。
しばらく説明や撮影を続けていると、次第に客入りが落ち着いてきた。先輩曰く、『舞台』の開始は文化祭の開始の少し後らしく、ついさっき始まったのでそっちにお客さんが流れていったとの事だ。
そんな時だった。写真撮影を頼まれ、撮った写真をお客さんに見せていると、教室の外から聞き慣れた愛しい声が聞こえてきた。思わず鼓動が高まる。
そしてそのまま、俺の『想い人』───千波が姿を現した。いつも通りにポニーテールを揺らす彩陽さんも一緒だ。二人ともそれぞれ青と黄色の団シャツがよく似合っている。
教室に入ってきた千波はすぐに俺を見つけると、やや遠慮がちにこちらに手を振ってくれた。俺もそれに振り返すと、今入ってきたのが俺の知り合いだと察してくれた先輩が対応を替わってくれた。
「良かった、佑がいるタイミングで来れて」
対応に行くと、千波がそう話しかけてきた。
「来てくれてありがと。それにしても、ホントにいいタイミングだね。俺がここで対応してるのここ二時間だけなのに」
わざわざ足を運んでくれた事に感謝しつつも、ドンピシャすぎるタイミングに若干の疑問が残る。俺がシフトを知ったのがついさっきだから千波も知らないはずなんだが。
「あはは……運が良かっただけだよ。それより、ここ案内してよ。色々説明してくれるんでしょ?」
そう言って千波は彩陽さんの手を引いてずんずんと進んでいく。そうだな、俺も仕事を全うしなければ。
千波の後を追いかけ、飾ってあるものを一つ一つ説明していった。
一通り教室を回り、説明を終えると、千波の足はフォトスポットへと向かっていった。
「はい、撮って!」
元気良くスマホを渡され、可憐なポーズを取る二人を画面に収めてシャッターボタンを押す。
こうして改めて見ると、やっぱり二人とも美人だ。思わず目を惹かれるところがある。というか、周りで展示を見ていた人達もポーズを取る二人の事をちらちらと見ている気も……。
撮った写真がブレていない事を確認して千波にスマホを返すと、写真を覗き込んだ彩陽さんがこんな事を言い出した。
「うん、良いね! じゃあ次は佑君と千波ちゃんのツーショかな! ほらスマホ貸して!」
「「えっ?」」
驚いて声を漏らすとたまたま千波と声が揃った。
いやいや、確かに昨日の夜ツーショット撮りたいなぁなんて考えてたから願ったり叶ったりなんだけども! え、ホントに?
半ば無理矢理取り上げるように彩陽さんが千波のスマホを手に取ると、すぐにスマホを横向きに構える。
「ほらほら、寄って寄って!」
言われるがままにフォトスポットの中に押し込まれると、まだ動揺が治っていない様子の千波と目が合った。え、これなんか言った方がいいやつ? と慌てていると、「撮るよ〜!」という元気な声が聞こえてきた。
その声で千波も我に返ったのか、慌てて前を向いてピースサインを彩陽さんに向ける。それを見て俺もピースサインをすると、シャッターが押される直前に千波がこちら側に一歩寄り、少し肌が触れ合う。
そのままシャッターが押され、気づいた時には俺のスマホにその写真が送られてきていた。
写真を見ると、当然ながら俺と千波の腕の辺りが触れ合っていて、つい思ってしまう。
(これ…………カップルの距離感みたいだよな……。こんなの、マジで意識するぞ……?)
そんな事を思っているうちに、何となく顔が赤くなっている気がする千波は足早に教室を出ていってしまった。それを追いかけ、「じゃあね〜」とこれまた元気に言いながら彩陽さんも教室を後にした。
……嵐のようだった。
二人が出ていった後、そんな感想が浮かんだ。
そして、ちらりとスマホに目を落とすと、さっき撮ってもらったツーショットが表示されている。
本当にやばい。なんか、もう……にやけが止まらない。
あれくらいで浮かれるな俺! 仕事中だぞ! と言い聞かせ、自分を律しようとしたが、中々上手くいかなかった。
写真を見て思わず気恥ずかしくなって、私は思わず教室を出てきてしまった。本当に何やってるんだろ、私。撮影の直前に一歩佑の方に寄るなんて。
あんなのあからさますぎる。どう見てもカップルの距離感になっていて、もはや「好き」と言っているようなものにも思える。
と、ここで後ろから追いかけてきた彩陽ちゃんが私に声をかける。
「誘わなくて良かったの? シフト終わったら一緒に文化祭回ろうって」
「……そんな余裕無かった……誰かさんが急にツーショット撮りななんて言い出すから……。ばか。ありがと」
無理に私と佑の距離を近づけようとする彩陽ちゃんに軽く悪態をつくと同時に感謝を告げると、スマホに表示されているツーショットに目を落とし、大切にそれを胸に抱いた。
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