65 『展示』活動開始
学校祭編が動き始めました!
65話です!
よろしくお願いします!
学校祭準備が始まって二日目。
昨日は休み明け初日という事もあってか、パート分けをして同じパートになったクラスメイトと少し言葉を交わすだけで解散となった。なので、準備活動としては今日が実質初日だ。同じパートの先輩との顔合わせも今日が初めてなので非常に楽しみだ。
少し浮ついた足取りでいつも通り一年九組の教室に足を運ぶと、見知らぬ先輩が何人も教室を出入りしており、思わず足が止まった。
あれ? なんか間違えたか?
教室の扉の上のプレートが「一年九組」であることを確認した上で、困惑したまま教室の前に佇んでいると、後ろから聴き慣れた声に話しかけられた。
「佑君? ここで何してるの? 今日からここは『アート』の教室兼『応援』の休憩所だよ?」
振り返ると『推し』が不思議そうにこちらを見て立っていた。そして、俺は杏実さんの放った言葉をしっかりと咀嚼した上で、未だに頭に浮かんだ疑問が解消されてしなかった。
そんな俺を見かねてか、杏実さんが親切にも俺に教えてくれた。
「今日からしばらくは『応援』はグラウンド、『アート』はここ、『展示』は二年二組、『舞台』は三年七組と体育館での活動って昨日先生が言ってたけど……もしかして話聞いてなかった?」
うーむ。そんな話あったっけ。一ミリも覚えていないんだが。あー、そういえば昨日帰る前に舜太達と雑談を繰り広げていた時に先生が何か話してたような気がしなくもない。
ま、何はともあれ───
「ありがと、杏実さん。助かった」
「友達としてこれくらいは普通だよ。『展示』頑張ってね!」
「うん。杏実さんも頑張れ」
そんな会話を交わし、俺は駆け足で杏実さんに教えてもらった『展示』の活動場所である二年二組へと向かった。
幸いにも、習慣化している早め行動が功を奏して、二年二組に到着した時の時刻はまだ活動開始時間よりも前だった。少しギリギリになってしまったが、遅れなかったのでまあ良しとしよう。初日遅刻とか印象最悪だしな。
先輩の教室に入るとあって、少し緊張しながら扉を開けると、見慣れた顔に迎えられた。
「お、佑。おはよう」
「結構ギリだったな。まあ間に合ってるから問題ないけど」
そういって俺を迎えたのは、俺と同じく杏実さんの恋路を応援している舜太と直紀。『展示』のパートに進んだクラスメイトの中で今までまともな交流があったのはこの二人くらいなので、かなり頼りにするつもりだ。
二人に挨拶を返し、雑談が飛び交う教室の中に空いている席を探し、適当に荷物を置いて雑談をしようとすると、それまで騒がしかった教室が急に静まった。
何事かと思い、教室を見渡すと、教卓の前に一人の男子生徒が立っていた。状況から見て、教室が静まり返ったのはあの人が前に立ったことが理由だろう。
そのままそちらを見つめていると、口を開いて話し始めた。
「はい、ついさっき入ってきた三年生でこのパートのメンバーは全員揃いました。『展示』リーダーを務めさせてもらう深津航です。今日からしばらくの間よろしくお願いします!」
落ち着きがあり、それでいて内側に情熱のある声に思わず聞き入ってしまった。こんな良さそうな人の下でこれから活動していくんだ。そう思うと、今まで持っていたやる気がさらに大きく膨らんでいくのを感じた。
そして、航先輩はさらに話を続ける。
「聞いている人もいるかもしれませんが、うちの団のテーマは『鬼』です。なので、『展示』でも鬼をモチーフとした体験型のゲームみたいなのを作りたいと思ってます。まだ詳しいところが決まってないので、まずはアイデア出しをやっていきたいと思ってます」
『鬼』モチーフのゲームか。中々面白そうだな。鬼といえばやはり桃太郎が連想されるが、これも何か使えるだろうか。
「あと、もう一つ。僕が全体のリーダー兼三年のリーダーなんですけど、一、二年のそれぞれをまとめてくれる人を募集してます。直近で各パートから一学年につき一人ずつ出る会議とかもあるので、まずはそっちから決めて欲しいな、と思います。というわけで、一旦学年ごとで分かれて話し合ってください」
航先輩はそう言って話を切り上げた。
そして、俺達は言われるがままにとりあえず同じクラス同士で集まってみたのだが、誰も何も切り出さないまま沈黙が続いていた。
女子達は俯きがちにちらちらと隣の子の様子を伺っているし、普段軽口を叩いている舜太と直紀も黙りこくっており、全体から「リーダーとかめんどくさいからやりたくない」「誰かやれよ」という雰囲気が漂っている。
俺は、こんな空気がとても嫌いだ。こういった中で誰かに押し付けられて嫌々やるのも嫌だし、かと言って誰かに押し付けてやらせる、というのも嫌だ。胸が悪くなる。
それなら──────
「……俺が、やっていいか?」
続く沈黙の中で、俺はそう呟いていた。
破られた沈黙の中で誰かが声を発する。
「いいの? やってくれるの?」
俺はそれに大きく頷き、
「ああ、やる。……いや、やらせてくれ」
と宣言した。
誰かに押し付けられてやるのは嫌だ。「やらされてる」気がするから。でも自分からやると言い出すのは別だ。「自分でやってる」気がする。
あの重苦しい雰囲気の中で、俺が言い出すことが出来たのは、あの雰囲気から一刻も早く抜け出したいという気持ちの影響でもあるが、それだけではない。
あの千波の隣に立ちたい、なんて高望みをしているのならこれくらいはやれて当然だ、という想いに突き動かされたからでもあったのだ。
読んでいただきありがとうございました!
今話は久しぶりに自分の実体験をかなり参考にしています。まだ一年しか経ってないので記憶が新鮮でした。
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