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推しの恋路応援前線!  作者: 赤いシャチホコ
第二章『夏』
67/160

58 祭囃子の中で

花火大会編絶賛進行中の58話!

よろしくお願いします!

 彩陽さんがぼそりと呟いた一言。


『やっぱ佑君、千波ちゃんのこと好きでしょ』


 俺にしか聞こえない大きさで放たれたそれは、俺の心をとんでもない勢いで揺り動かしていた。


(まだこの事は誰にも明言してないんだぞ……? なんでバレてるんだ?! 『やっぱ』ってことは、以前から知ってたのか?)


 そんな風に内心では感情がジェットコースター並に動いている中、それを表に出さないように必死で堪える。現状気づいているのは彩陽さんだけなのだから、その他の人に知られて被害を拡大する訳にはいかない。

 ニヤニヤと怪しい笑みを浮かべる彩陽さんをどうにかスルーし、全体に話題を振ることでこの空気を断ち切る。


「花火の打ち上げ開始までまだ時間あるけどどうする?」


 たくさんの出店が出てるからみんなで回ろうよ、という返答がやってくるだろうと思いながらとりあえずみんなに問いかけてみると、すぐに碧から返答がやってくる。


「ま、今やれるなら場所取りか出店巡りくらいか?」


 あ、そうか。花火を良い角度から見ることを考えると場所取りもいるのか。花火大会なんか滅多に来ないからそんな考えは頭をよぎりもしなかった。

 なんて考えていると、浴衣の裾を大きく揺らしながら杏実さんが手を挙げる。


「はい! 私、花火見るのに良い穴場知ってるよ! あんまり知られてない場所だから、場所取りとかは無くても大丈夫だと思う!」

「おっ、じゃあそれならみんなで出店回るか!」


 そんな碧の一言で、結局俺が初めに予想した通りの流れを辿る事になるのだった。




 多くの出店が立ち並ぶ道を、杏実さんと碧を先頭に歩き回る。前回プールに行った時の祭りで一人で先走って良くない目に遭った杏実さんはあれから反省をしたらしく、今日ははしゃいではいるもののしっかりと碧の隣を歩いている。

 その様子を少し観察すると、杏実さんの表情がころころと変わるのが見られた。こういうイベントの楽しさに引っ張られて碧と話すことに対する緊張はどこかにいったらしい。普段からこの調子が維持出来れば俺のサポート抜きで碧とやっていけると思うのだが……。まだ難易度が高いのだろうか。

 そこで一旦思考を区切り、前を歩いている二人から後ろを歩いている二人に意識を向け変える。

 前を歩いているのが杏実さんと碧なのだから、後ろを歩いている二人は当然ながら千波と彩陽さんである。

 前の二人はなんだか良い感じなので、俺が気にすべきはこっちだ。

 彩陽さんに俺の気持ちが見破られたのはもう仕方ないとして、彩陽さんが余計な行動に走らないか目を配っておく必要がある。それと並行して、千波に悟られないようにしながら千波の俺に対する感情が何なのかを看破しなければ。


 あの日、千波が寝言で言った『好き』という一言を受け、俺は何日も考えさせられた。無意識に放ったそれに込められていたのは『親愛』なのか、それとも『恋愛』なのか。もちろん、いくら考えても答えは出ない。他人の感情を読み解くのなんて不可能だ。分かったのは、千波が俺に対してどういう形であれ好意を持ってくれているということ。

 だから、千波と過ごす時に細かい仕草なんかをよく見るようにしようと決めた。それらから見えてくる何かがあるんじゃないかと思って。


 千波は今、彩陽さんと二人で談笑をしている。俺は今日はまだ千波とはほとんど言葉を交わしていない。浴衣が似合ってるか訊かれたくらいだ。

 ここから考えれるのは、俺と話すよりも同性の彩陽さんと話す方が楽しくて俺に構っている暇がないか、俺に対して恋愛感情を持っていて、話しかけるのが照れくさいかのどちらかだろう。

 後者は千波に対する俺の態度だ。千波も同じ感情を持っていると考えるのは流石に自意識過剰すぎるか。

 でも、今日俺が浴衣への感想を述べた時など、千波が顔を少し赤らめる事が稀にあった。そこから考えると、多少なり異性として認識してくれているのだろうか。


 そんなことを考え込みながら歩いていると、ずっと考えていた『想い人』の声が後ろから響いた。


「ねえ、佑」


 脳の大方をずっと支配していた女性(ひと)本人に急に声をかけられ、驚いて反応が一瞬遅れてしまう。


「うぉ……? 千波? あれ、彩陽さんは?」


 どうにか返事をし、同時に辺りを見回すと、黄色の浴衣の少女の姿が消えていた。


「彩陽ちゃんなら、そこで友達と会って喋ってる。すぐに追いつくから先に行っててだって」


 俺の問いにすぐに答えてくれた千波に、おっけーと一言呟いて前を向くと、知らぬ間に先行する杏実さんと碧との距離が広がっていた。考えに耽っているうちに離れてしまったようだ。でも、この人混みの中で少し離れてもすぐに見つけれたのは運が良かった。


「彩陽さんには悪いけど、あの二人を見失うと面倒だからちょっと急ごう」


 そう言って軽く駆け足で動き出そうとすると、服の裾をぐいと引っ張られ、前に行くのを止められる。


「ごめん、佑。私、浴衣だからあんまり速くは……」

「わわ、こっちこそごめん。全然、気回ってなかった」


 全く相手のことを考えれていない自分を心の中でボコボコに殴りながら、いつもより少し早歩きくらいに速さを調節して進む。

 進むにつれ、花火大会のメイン会場に近づいているのか人の数が増し、祭囃子などの喧騒も大きくなる。


「───く! ───すく!」


 そんなうるさい中を歩いていたせいで千波の声を拾うことが出来なかった。


「───すく! 佑!」


 何度も呼ばれるうちにようやく自分が呼ばれているのだと認識し、急いで後ろを振り返ると、俺に声を届けるために目一杯まで俺に近づいたらしい千波の顔がすぐ目の前にあった。ゼロ距離で目が合い、咄嗟に二人揃って目を背ける。


「ご、ごめん。どうした、千波……?」


 悪い事をしたわけでもないのになぜか謝りながら尋ねると、浴衣をおへその辺りで手で持った千波が顔を背けたまま言う。


「……帯、取れちゃった。結び直すからちょっと脇道に逸れていい?」


 少しはだけた浴衣から肌色が覗いていることに気づいてしまい、どぎまぎしながら千波の言葉に頷くと、俺達は一旦屋台通りの人混みから逸れた。

読んでいただきありがとうございました!


自分も慌てている時は千波の感情を捉えることを失念している佑です。


読んでみて少しでもいいなと思ってくれたら、感想やブックマーク、評価などいただけると嬉しいです!励みになります!

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