閑話 それぞれの夏休み②
閑話シリーズが続きます!
峰口大喜の夏休み
峰口大喜の夏休みは忙しい。なぜなら、彼は夏の花形、高校球児だからだ。甲子園出場という夢を掲げ、毎日のように真剣に練習に取り組んでいる。
大喜は基本的に午前五時台には目を覚ます。もちろん毎日の朝練のためだ。
朝一番からご飯を大盛り二杯も食べ、エネルギー満タンとなった大喜は自転車に乗って学校に向かう。
登校中にたまたま会った野球部員と歓談しながら学校に着くと、それまでの和やかな雰囲気は消え、真剣な雰囲気となる。
公立の進学校ながら県大会の四回戦を突破し、ベスト8の懸かった五回戦を控えている北燈高校の練習は真剣そのもの。一切の妥協や浮つきは許されない。
特に、一年生ながらベンチ入りしている大喜の練習量はかなりのものだ。
控え投手とバッテリーを組むキャッチャーである大喜は試合に出ることもあるので、練習の強度や集中力は他の一年生と比べて桁違いだ。
「よし、今日の練習はここまでだ!明後日は大事な五回戦だから明日はオフだ!しっかりと休養を取るように!」
午後五時前、コーチの声で昼休憩を挟んだ練習が終わる。
「つっかれたー」
思わず大喜の口から声が漏れる。
そして、疲れた体をどうにか動かして家に帰ると、風呂に入り、夕食を喰らうと、ベッドに倒れ込む。
これが大喜の夏休みの基本的な生活だ。
そして二日後。試合当日。
朝一番の試合に向けて早起きして自転車を進める大喜に一つの影が近づく。
「おはよ、ロキ!」
声に驚いて振り返った大喜の先に、ミディアムヘアを揺らす幼馴染───杏実がいた。
「お、杏実、おはよう!」
「今日も吹奏楽部みんなで応援演奏しに行くからね!試合、頑張って!」
幼馴染からのエールを受け、大喜に力が漲る。
「おう、任せとけ!先発ではないけど、途中出場したら、絶対チームを勝たせてみせる!」
そんな宣言を最後に、学校に楽器を取りに行く杏実と別れて球場に直接向かう。
そんな大喜の胸にわずかに疑問が生じる。
(杏実と話すとなんかやる気湧くんだよな……あと、なんかどうにもいい格好見せたくなるし……なんでだ………?)
大喜はまだ、その気持ちの理由が心の底に潜む恋心だと知らない。
数時間後、球場。
北燈高校は甲子園出場経験もある高校を相手に互角の戦いを演じていた。
その様子を大喜はベンチからじっと見つめていた。
出番はやってくるのか。
そんな思いを抱える大喜についにその時が訪れる。
打ちつ打たれつの大熱戦の中、北燈高校のエースの疲れが見え始め、決定的な失点を喫してしまう。
その流れを切るために、監督が控え投手とその相方の大喜が呼ばれる。
「頼むぞ、流れを取り戻してくれ」
そんな言葉と共に送り出されると、すぐに大喜が流れを変える。
九回表、ツーアウト、ランナー一塁の状況での一球目。
ランナーが盗塁を試みたところを、大喜が自慢の肩を活かして阻止。これでスリーアウト。
球場が一気に沸き立つ。
「いいよ〜!ロキ!!」
応援席の杏実も思わずガッツポーズ。
そして、盛り上がる球場は九回裏、一点ビハインド。
北燈高校最後の攻撃。
先頭打者が出塁すると、次の打者は送りバント。
ワンアウト、ランナー二塁。
しかし、良い守備からの勢いのまま、北燈高校が攻めきるかと思われる中、相手も意地を見せて次の打者を打ち取る。
これでツーアウト、ランナー二塁。
最後の打者───大喜に全てが託される。
バッターボックスに立った大喜は応援席に目を送る。
全力で大喜のことを信じる杏実と目が合う。
大喜に、力が漲る。
初めてバッターボックスに立つ大喜が相手でも、相手は油断しないで全力投球。
それを、大喜は待っていましたと言わんばかりに打ち抜く。
「ここで決め切るのが、漢だろ!!」
心でそう叫ぶ大喜の打球はグングンと伸び、なんの偶然か北燈高校の応援席へ。
ツーランホームランでの逆転サヨナラ勝利。
沸き立つ応援席の杏実に向かって、大喜は全力でガッツポーズを見せてにかっと笑った。
読んでいただきありがとうございました!
杏実が大喜を「ロキ」と呼ぶ設定があるのに、二話以降で杏実が大喜を呼ぶシーンがなくて設定が死んでたので差し込みました!
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