53 りんご飴
53話です!
よろしくお願いします!
プールからの帰り道に、その地域の夏祭りと丁度遭遇した。
改めて辺りを見渡してみると、街頭に告知ポスターが貼られていることに気づいた。恐らくずっと貼られていたと思われるが、朝にここを通った時はその存在に気づきすらしなかった。興味が無いって怖いな。
目の前に屋台が立ち並ぶこの状況下で、祭りなどのイベントのような楽しい事が大好きな杏実さんが黙っているはずがない。楽しい雰囲気を目の当たりにし、目を爛々と輝かせ、今にも人混みに紛れようとしている。
そして、痛みは和らいできたから大丈夫、と強がって一人で歩く千波がちゃんと後ろからついてきているかを確認するために振り向き、再び前を向いた時にはそこに杏実さんの姿は無かった。
杏実さんを止めれなかったらしい碧が手を前に伸ばした状態で固まっている。
杏実さんが人混みに吸われていくのは時間の問題だとは思っていたが、もういなくなっているとは。全く、俺の『推し』の勢いは凄まじいな。
碧は後ろから追いついた俺と千波に気がつくと、平謝りする。
「あー、ごめん。杏実行っちゃった」
「いや、大丈夫。なんとなくこうなる気はしてたし」
予想の範疇の行動だったため、俺は淡々と答える。
千波も何が起こったかを把握して苦笑を浮かべている。
とはいえ、杏実さんも女の子だ。こういう場で一人にするのは危険を感じる。実際、杏実さんは普通に可愛いから軟派集団に絡まれる可能性もある。
そういった危険を回避するのに一番手っ取り早いのは、男手をつけることだ。
だが、ゆっくりではあるが歩けているものの、まだ不安が残る千波から俺が離れるのは良くない気がするし、何より普通に心配で離れたくないので杏実さんの方に行けるのは必然的に碧だけとなる。
「悪い、碧。また杏実さんを頼んでいいか?」
「もちろん。任せといて」
自分の隙が杏実さんを先に行かせてしまった事に責任を感じているのか、碧は俺の頼みを快諾してくれた。頼りになるな。
なんて思っていると、碧が言葉を付け足す。
「千波はまだ速く動くのはキツそうだし、二人はゆっくり動いてくれればいいからね。見つけたら連絡する。ま、杏実はどうせ可愛いお菓子の屋台なんかの長い列に並んでるだろうからすぐ見つかるだろ」
「ははは、違いない」
「うん、杏実ちゃんだもんね」
碧の杏実さん観に同意すると、珍しく千波も声を出してそれに乗っかったところで碧とは別行動だ。
杏実さんが消えていった人混みに碧が飛び込むのを見送ってから呟く。
「それじゃ、碧もああ言ってくれたし、俺達はゆっくり行こうか」
「うん」
そうして、俺達も人混みを避けながら屋台が並んでいるエリアへと足を踏み入れた。
俺の斜め後ろをゆったりとした速さで歩く千波を定期的に確認しながら歩く俺の背中は、暑さとは別の理由で出てくる汗で湿ってきていた。
(やーばい。くっそ緊張してきた。『想い人』と二人きりで夏祭りとかどういうシチュエーションだよ!……下手をこくなよ、俺……!)
内心がそんな感じで大変なことになり、ボーッと歩いていると、不意に後ろから服を引っ張られた。
なんだ?と思い、振り返ると、千波の細い指が俺の服の裾をちょこんとつまんでいた。
「千波? どうかした?」
そう尋ねると、千波は一つの屋台を指差して言う。
「あそこ、寄っていい?」
千波が指を指したのは、りんご飴の屋台。
かなり空いていて、並んでいるのは三人ほど。すぐに買えるだろう。
「全然いいよ。千波、ああいうの好きなんだ。知らなかった」
「うん、夏祭りの時は結構な頻度で買うかも」
新たに知った千波の情報を脳にメモし、千波と一緒に屋台へと向かう。
予想通り、列に並ぶとすぐに千波の番がやってきて楽に買うことができた。
手にしたりんご飴を美しい笑顔で見つめた後、可愛らしく小さく齧り付く。
「うーん、美味しい!」
そう言って笑顔を弾けさせる千波を見て、ついこっちまで顔が緩んでしまう。
そんな幸せムードで再び道を進んでいると、急に人の数が増えた。すれ違う人の肩が当たる。どうやらメインの通りに入ったらしい。
碧からの連絡はまだ来ていない。恐らく思ったより人が多くて捜索が難航しているんだろう。
「わっ?!」
後ろから可愛らしい悲鳴が上がる。
パッと振り返ると、すれ違う人とぶつかったらしい千波がバランスを崩して転びかけていた。
咄嗟に手を伸ばし、千波の手を掴んで転倒を阻止する。
そして、そのまま手を繋いで人混みを進む。またさっきみたいなことがあると危ないからな。
「危ないから、手離さないでな」
ちらと千波の顔を見て声をかけると、咄嗟に顔を背けられた。
俺と繋いでいる手と反対の手に握っているりんご飴よりも、一緒見えた千波の顔が赤かったのは気のせいじゃない気がした。
読んでいただきありがとうございました!
また、二人ずつに分断したって思いました?俺もです。
神様がやれって言ったから仕方ないんです。
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