表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しの恋路応援前線!  作者: 赤いシャチホコ
第二章『夏』
54/160

50 まだ

もう50話なんですね〜

感慨深いです!


 プールバレーの最中、千波がボールを追いかけて捉えた後、脚を押さえたまま水中に倒れ込んでいくのが俺の目に映った。


 軽く水飛沫を上げて千波の全身が水中に呑まれ、鼓動が速くなるのを感じながら急いで千波の救出に向かう。

 水の抵抗を受け、ゆっくりとしか移動できないのがもどかしいとこれほど強く思ったことはない。

 地上であれば数秒で駆けつけれる距離をその倍以上の時間をかけて移動し、千波を掴んでとりあえず頭を水面に上げて呼吸ができるようにする。


 激しく咳き込みながらもしっかりと息を吸い込めている千波を見て一旦安堵する。良かった、大事は避けれた。

 千波の腰に手を回し、プールサイドまでどうにか移動し、碧にも手伝ってもらって千波を引き上げる。

 プールサイドに上がった千波は、多少は水を飲んでいたのかまだ咳き込みながら右脚を押さえている。顔が苦痛に歪んでいてかなり不安になる。


「どうする?どっかに救護室あったよな?」


 そう訊く碧に頷いて返す。


「ああ、行こう。……俺が連れてくから碧は杏実さんと遊んでてくれ」

「えっ、でも」

「いいからいいから。俺一人で十分だよ」


 自分の放ったボールを起点に起こった事だからなのか、碧が妙に渋るが丁重にそれを断る。これくらいは俺がやってあげないと。


 そんな様子を、杏実さんは心配そうに黙って見ていた。大丈夫だよ。それよりも杏実さんは今からの二人きりの時間で頑張って碧との距離を縮める方に尽力してほしい。

 そういった想いを込めて目配せをしたのだが、気づいてくれただろうか。だが、俺の目配せが通じたからかは分からないが何やら覚悟を決めたような表情をしているのでどうにかなると信じておこう。


 そんな想いを胸に、俺は千波を背中に背負って救護室を探した。

 初めは密着している千波のすべ肌や決して大きくは無い胸の柔らかい感触に心惑わされていたが、脚の痛みからなのか力強く俺に掴まる手に気づいてからは、早く安心させてあげたいという気持ちだけが俺を支配していた。






 飛んできたボールに一早く反応し、佑の方に送る。

 これも佑へのアピールへの一環。

 よし、しっかり出来た。そう思った瞬間、右脚に鋭い痛みが走った。


 ああ、体を騙し騙しやってきたツケが来ちゃったか……。

 そんな事を思いながら私の体は水中に倒れていった。



 最初に脚に違和感を覚えたのは、水泳勝負をした時だった。

 普段は表に出していないから意外だと言われる事も多いけど、私は中々な負けず嫌いだから、ハンデを貰った上で負けるのが嫌でつい無茶な泳ぎをしてしまった。

 その結果、泳いでいる最中は何ともなかったけど、泳ぎ終わってプールサイドに上がった時に一瞬だけ右脚に痛みを感じた。

 だけど、気になってしばらく手でさすった後は痛みが無くなったから気にしないことにした。


 しかし、お昼ご飯を食べた後に立ち上がった際に再び痛みはやってきた。

 思わずよろけると近くにいた佑にぶつかった。

 佑は今の様子を見ていたらしく、少し心配されたけど「ちょっと疲れただけ」と言うとそれ以上のことは訊いて来なかった。

 私はこの時点で既に脚に疲労が蓄積して攣りかけているということになんとなく気づいていた。だけどそんな事を言ってしまうと佑はプールで遊ぶのをここで切り上げてしまうだろうという予感があった。

 そんなのは嫌だった。私の怪我を理由に佑達の楽しい時間を奪いたくなかったし、何より私自身がもっとこの楽しい時間の中で過ごしていたかった。


 幸いにもこの後はたまに少し痛みを感じる事があるくらいで歩く分には問題無く、さらにウォータースライダーの待ち時間のうちに脚を休める事ができたので違和感もほとんど無くなっていた。あの痛みは一時的なものだったのだ、と思った。

 だから、碧君がプールバレーをしようと言った時は何も気にしないで参加を決めた。


 しかし、油断大敵とはよく言ったもので、また少し無茶な動きをして脚の痛みは再発、悪化。完全に脚を攣って佑に救出される体たらく。鋭い痛みに耐えられず、ずっと立ち上がれずにいると佑に背負われた。

 本当に自分が嫌になる。

 それなのに今も、佑に背負われた状態で、怪我したおかげで佑に密着する大義名分を得られてラッキー、なんて考えが頭の隅を陣取っている。

 こんな私が、佑に相応しいはずがない。


 そんな暗い感情と、佑が歩く振動が脚に響く痛みからおもわず佑の肩を掴む手が強くなった。






 救護室に着き、そこにいたスタッフに千波のことを診てもらうと、「ちょっと酷く脚を攣っただけ」と診断された。

 あの痛がりようから見ると肉離れくらいまでしているのではないかと思ってここまで急いで来たけど、攣っているだけなら先に脚を伸ばす応急処置をしてあげた方が良かったな。

 ちょっと千波は痛みに敏感なのかもしれない。


 救護スタッフさんの話によると水分をしっかり取ってしばらく休んでば、すぐに歩けるようになるそうだ。

 良かった、とその場で全身を伸ばしてから辺りを見渡しに行こうとするとスタッフさんに言われた。


「彼女さん、すごく表情が暗いので一緒にいてあげてくださいよ〜」


 思わず、「いやいや、()()そんなのじゃないですよ?!」と反論すると、すごく微笑ましい目で見られた。

読んでいただきありがとうございました!


「『まだ』そんなのじゃない」

佑は無意識に言ってるんですがねぇ………意味深


元々は『千波の怪我』ってサブタイトルの予定でしたが、せっかくの節目の話なので、と思って今のものに変えました


次回は碧&杏実サイドをお届け予定!


読んでみて少しでもいいなと思ってくれたら、感想やブックマーク、評価などいただけると嬉しいです!励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ