47 ウォータースライダー
47話です!
よろしくお願いします!
俺達が向かったウォータースライダーは、大型プール施設にあるような、ゴムボートに何人かで乗って滑っていくものでは無く、至って普通のもの。端的に言えば、曲がりくねった筒に水が流れていて、その中を人間が滑っていくだけだ。それが楽しいのだが。
俺達がウォータースライダーに着いた時、その場所は少し、いや、かなり混み合っていた。夏休みの昼下がりという一番人が集まる時間であることを考えると当然のことか。
とはいえ、予想していたよりも多くの人がウォータースライダーに並んでいるので、言い出しっぺの碧も困り顔だ。
「ただいま45分待ちでーす」
というスタッフさんの声が聞こえる。ここのプール施設には一ヶ所に三つのスライダーが設置されているので、回転率はかなり高いはずなんだが………。それでも45分待ちとは恐れ入る。
最早困り顔を通り越して苦笑いを浮かべている碧が振り返り、尋ねる。
「えーと………どうする、並ぶ? 今回はやめとく?」
それを聞き、俺は少し悩んだ。
これに乗るために45分待つのは少し勿体無いような気がする。その分他の所で遊べばいい。
でも、その気持ちと同時に、乗りたいという気持ちも普通にある。この四人でここに来れるのは最初で最後かもしれないのだから、色んな事を体験したいという思いも持っている。
そんな風に俺が悩んでいると、杏実さんが言う。
「並ぼうよ〜。せっかく来たんだから、私は乗りたい!お喋りしてれば45分なんてすぐだと思うし……どうかな?」
言い終わった後に、俺と碧に向かって上目遣いをする。う〜わ、あざと可愛い!
まあ、こんな事を思ってるのが千波にバレたら杏実さんに気があると思われて面倒な事になるといけないから心の奥底にしまっておく。
でも………良いよなぁ、上目遣い。千波にもやってもらいたいけど、千波の方が背が高いからあんまりそうなるシチュエーションが生まれないんだよなぁ。
というのは一旦置いといて。
杏実さんの素直な要望を聞いた千波も「うん、乗ろうよ」と言っている。
「じゃあ決まり!並ぼ!」
という碧の声と共に俺達は列の最後尾に足を運んだ。
列に並んでから、俺達は雑談を始めた。
朝にあったこういう雑談の時間には、共通の話題が乏しいと感じたが、よく考えなくても俺達は全員同じ学校に通っているのだから、学校の先生についての話題なんかを出してみると、どんどん話が広がっていった。午前のうちに碧と千波が意外と打ち解けたのも大きいかもしれない。
話を続けているうちに俺達の後ろにどんどん人が並び、俺達はどんどん前に進んで行った。
楽しく喋っているから実際よりも時間が経つのが早く感じているのもあるのかもしれないが、それも加味しても列の進みが早い気がする。スタッフさんが頑張ってくれているのだろう。ありがとうございます。
と、内心で見知らぬスタッフさんに感謝を告げて、またしばらく喋っていると気づけばウォータースライダー乗り場がすぐ前にまで迫っていた。体感30分くらい。大分早かったな。
ウォータースライダーの乗り口がある高台に着いて下を見ると、まあまあな高さがあることが分かった。多分15メートルくらいかな?
なんて思っていると、同じように下を見ていた杏実さんが足を震わせながらボソボソと呟いていた。
「え……え? ウォータースライダーってこんなに高かったっけ………。普通にちょっと怖い……」
そんな杏実さんを見かねてか、碧が声をかけた。
「大丈夫? やめとく?」
その言葉に、杏実さんは首をブンブンと横に振る。せっかく並んだからという気持ちと、碧に弱い所を見せたくないという気持ちがあるんだろう。
どう見ても虚勢がたっぷり籠ったような顔をしているが、その気持ちはよく分かるから、俺は口出ししないでおこう。
千波も、乗り口の前に来てからめっきりと口数が減った。もしかすると千波も少し怖がっているのかもしれない。もっとも、千波は本当にダメな時はちゃんとはっきりと言える子なので、あまり心配はしていない。
杏実さんと千波を見ているうちに、先頭にいた碧がスタッフさんに声をかけられた。
どうやら俺達の前の人が一人で来ていたらしいので、同時にあと二人滑れるがどうするか、という事のようだ。
ウォータースライダーは三つなので、当然乗り口も三つ。コースが違うだけでどれも距離はほぼ同じだし、到着地点も同じ。
なら二人ずつに分かれて乗れば別に問題無い。同じ判断を碧もしたようで、スタッフさんが碧の他にもう一人来るように促している。
そこで、俺はあくまでも自然に見えるように、残った三人の中で杏実さんが先頭になるように移動した。
すると、スタッフさんが碧の隣のスライダーに待機するように杏実さんを促す。
これで俺と千波、碧と杏実さんという俺的に理想的な組み合わせが完成した。
前に滑った人がスライダーから放り出されたのを確認した後、スタッフさんから滑る許可が出るや否や、碧がスライダーに吸い込まれていった。
そして、ゆっくりと滑る準備をしていた杏実さんも碧の高速スタートを見て、慌ててスライダーに飛び込むと「キャーっ!」という悲鳴がこだまする。
それを聞いた千波がふふっと笑う。どうやら杏実さんのおかげで千波もリラックスできたみたいだ。
曲がりくねった道の先で吐き出された碧の姿を見たスタッフさんが俺と千波、それともう一人知らない人をスタートの許可を出す。
そして、俺と千波は同時にスライダーの中に体を飛び込ませた。一瞬だけ隣からか細い悲鳴が聞こえたような気もするが、スライダーの疾走感にかき消される。
まあまあハイスピードの中、スライダー内の青い壁に包まれながら体を左右に振られてやっぱこういうの楽しいなと感じる。
そして、唐突に青い視界に白い光が差し込むと、急に体が宙に放られる。
ドボン!と豪快な音を立てて着水すると、同時に隣にも同じ音が響く。
水面から顔を出すと、同時に着水したらしい千波もまた同時に顔を上げたところで、思わず顔を見つめあって笑い声を上げた。
読んでいただきありがとうございました!
気づかないうちに3000PV & 10万字を突破してました!ありがとうございます!!
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