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推しの恋路応援前線!  作者: 赤いシャチホコ
第二章『夏』
38/160

35 水泳

35話です!

「夏と言えば」第一弾!!

よろしくお願いします!

 ダラダラと続く鬱屈とした梅雨。それが明けた途端、今度は太陽が猛威を振るい出す。

 七月が始まって数日経ち、気候はすっかりと夏へと移行していた。


 教室にはエアコンが完備されており、授業に支障が出る事は無いが、登下校時は太陽の下で行動をする事になるため、暑さは非常に厄介だ。ましてや、体育の授業なんてものは真昼間の最も太陽が照りつける時間に行われるため、たまったもんじゃない。

 もちろん、そんな事は先生も承知の上。無理に外で体育の授業を実施して生徒に熱中症なんかになってもらっても困るので、しっかりと対策を打ってくる。


 実際、昨日の夕方に「体育における水泳授業実施について」と書かれたプリントが配られた。


 水泳の実施については四月の段階から、何事もない限り夏に行うだろう、と言われていたので全員がきちんと事前に水着などの用具の準備はしていたため、早速今日から水泳が行われる事となった。


 当然ながら、水泳は好き嫌いが激しく分かれる競技のため、クラス内でも意見は二極化していて、狂喜乱舞している大喜(ひろき)のような奴もいれば、水泳の憂鬱さ故に朝から机に突っ伏している子もいる。

 俺は前者側(大喜ほどはしゃいではいないが)なので、少しわくわくしている。


 そして、俺の後ろの席に座っている『推し』はというと……見るからにテンションが低い。きっと水泳はあまり得意では無いのだろう。

 一応、「杏実さん、水泳は得意じゃ無い?」と尋ねてみた所、いつもより暗めのトーンで声が返ってきた。


「水泳ね……。カナヅチって訳では無いけど………ちょっと苦手かな」


 杏実さんがいう「ちょっと苦手」はどれほどなのか、と思っていると、杏実さんとは対照的にいつもよりやや浮かれ気味な気がする碧が近くを通ったので、杏実さんに尋ねた時とは少し聞き方を変えて尋ねてみる。


「碧は水泳得意?」

「もちろん。まあまあ泳ぐの速いよ、俺」


 そんな風に俺の質問に得意げに即レスポンスした碧。そんな彼を、俺の『推し』は普段の好意に羨望も加えた視線で見つめていた。




 数時間後、やってきた水泳の時間。

 休み時間の内に急いで更衣室に移動して水着に着替える。そして冷たいシャワーを浴びて、灼熱のプールサイドに出ると、そこはまさに夏の象徴。25メートルプールが悠々と広がっていた。


 俺達がプールサイドに広がり、準備体操をしていると、女子更衣室の扉が開く。

 そして、スクール水着を身に纏った女子が次々と出てくると、男子の大半が準備体操そっちのけで一気に色めき立つ。「あの子思ったより胸あるな……」やら、「あの子が水着着てるだけでもう……!」といったような、良い意味で言えば男子高校生らしい、悪く言えば不埒な発言が聞こえてくる。

 かくいう俺も、『推し』が水着を着て少し恥じらっている姿には目を奪われているので、あまり他人のことをとやかく言えないが。まあ、俺が最も想っている子はこの場にはいないので他の男子と比べれば落ち着いてるけどね。


 授業が始まってしまえば、妙なトラブルがあっても困るので男女はプールサイドの両側に分かれての実施となる。

 とはいえ、同じプールを共有しているため接点がゼロである訳ではない。男子は女子が泳ぐ様を遠目で見て盛り上がっているし、女子は女子で男子の身体を見て何やら盛り上がっている。そんな視線が俺に注がれている事には疑問しか出ないが。


 そんな事を思いながら、先生の指示通りクロールを泳ぎ終えると、同時に泳ぎ終えた碧に声をかけられる。


「佑、結構女子から見られてるよな」

「あ、やっぱり?なんでだろな」


 俺が率直に感想を述べるとプッと吹き出す。


「なんだよ、佑、気づいてないのかよ」

「何にだよ。俺なんか変?」


 なんとなくニヤニヤしている碧に疑問を投げかけると、さらにそれを強めながら答える。


「だって………佑、普段制服で隠れてて分かんないけど、身体引き締まってて細マッチョっぽい感じじゃん。それが今は露わになってるんだから女子もほっとかないっての」


 あー、そういえばそうだ。千波の隣に並べるような男になりたいと思って色々やってる一環で筋トレもちまちまとやってたんだった。

 そうして自分の事を思い返していると、隣からさらに碧が口を挟む。


「あと、今は佑も裸眼だしな。普段と違うとこ多すぎてマジで目を惹いてるぞ」


 ほー、それもあるのか。まあ、裸眼だと何も見えないから何か見る時は度入りのゴーグル付けるけどな。


 そんな会話を挟みつつ、何度もクロールを泳いでいるのだが……碧が速すぎる。俺もそこまで遅い訳では無いはずなのに、同時にスタートした時は一気に前に行かれるし、俺の方が先にスタートした時も気づいたら抜かれている。朝に話していた通り、本当に速いな、碧。

 そういえば、朝に話したといえば、杏実さんはどんな感じだろう。「ちょっと苦手」とは言ってたけど……。

 そう思い、ゴーグルを付け、女子の方へと少し目を向けると丁度杏実さんがクロールを泳いでいる所だった。しっかり手で水を搔けてるし、バタ足も大きく水飛沫を上げている。息継ぎも問題無い。

 やっぱり「ちょっと苦手」と言っていたのは謙遜だったのか?そう思って見ていると、少しずつ違和感が出てくる。

 あんなにしっかり泳げてるように見えるのに、どうにも進みが遅い。後からスタートした子にもどんどん追い抜かされていく。

 そんな様子を眺めていると、気づいたら後ろにやってきていた碧が杏実さんの泳ぎに対してコメントする。


「あー、あれ、バタ足が水飛沫が上がってるだけで全然水を搔けてない気がするな」


 なるほどね。ちょっと見ただけで気づくなんて流石だな。これが杏実さんが水泳を「ちょっと苦手」と思う原因か。ちょっと納得した。



 その後は、何事もないまま授業は進行し、今季初の水泳は終了した。

 さっさと着替え終えて教室に戻って喋っていた男子の下に遅れて女子が戻ってくる。

 髪が濡れているため、普段と違った髪型になっている子もいて中々新鮮なのだが、今はそれよりも杏実さんと碧が喋っているのを見守るのが最優先だ。


「あ、さっきの授業でちょっとだけ杏実の泳ぎを見させてもらったけど、なんで杏実の泳ぎが遅くなっちゃってるのか多分分かったよ」

「え、本当!?」

「うん。多分バタ足のやり方が良くないと思う。もうちょっと深く足を動かした方がいいよ」

「へぇ!分かった!次から意識してみるね」


 うん、杏実さんも普通に喋れてる。また杏実さんが必要以上にテンパってしまう可能性があるかもしれないと思ったけど、心配は要らなかったな。

 そう思い、少し二人から目を離して、本に目を落とした。その間に少し話が進んでいたらしい。

 唐突に杏実さんから「佑君も来る?」と声をかけられる。

「あ、ごめん。聞いてなかった。もう一回言ってくれる?」と返すと、もう一度杏実さんが要件を伝えてくれる。


「碧君がね、夏休みに四、五人くらいでプールに遊びに行きたいね、って言ってくれて!それに佑君も来るかな?って思って」


 へぇ、夏休みにプールか。普通に行きたいな。それに、こんなにワクワクした表情で話してくれる杏実さんを断れるはずがない。もちろん二つ返事でその話を受けた俺は、夏休みに一つ目の予定ができたのだった。

読んでいただきありがとうございました!


読んでみて少しでもいいなと思ってくれたら、感想やブックマーク、評価などいただけると嬉しいです!励みになります!

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