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推しの恋路応援前線!  作者: 赤いシャチホコ
第一章『春』
31/160

29 図書館勉強とおにぎり

29話です!

よろしくお願いします!

 何も無い休日。本来ならばゆっくり寝て、友達と遊ぶなり、一人で本を読むなりしたいところだが、テスト期間の学生にそんな事をする余裕はなかった。

 適度に早起きし、朝食を終えると、二階の自室に篭もり、適宜休憩を挟みながら勉強をする。


 カリカリ、と俺のシャープペンシルがノートに文字を刻む音だけが聞こえ、少しずつテスト範囲の問題がすらすらと解けるようになってくる。中々順調だな、と思っていた矢先だった。

 どたどたどた、と複数の足音が一階から響く。時計を見ると、時刻は午前十一時。どうやら妹(中学二年)が休日部活から帰ってきたらしい───友達を連れて。

 妹は別に悪いやつではないのだが、テスト期間の兄を気遣う、という考えが抜けているところが惜しい。妹が友達と遊ぶ時は中々騒ぐため、同じ家にいる限りはその時間は集中力を著しく削がれ、勉強をする事は実質不可能になる。とはいえ、別にこういった事が起こるのは初めてではないし、今日起こるかもしれないという想定さえしていたので、問題はない。対策済みだ。

 俺は妹が友達を連れて帰ってきた事に気づいてから、素早く勉強用具を手提げ鞄に入れると、自転車に乗って少し離れたところにある図書館へと向かった。




 図書館の駐輪場には、それなりに自転車が並んでおり、北燈高校の認証シールを付けた自転車もいくつか停まっていた。俺と同じで静かな場所を求めてやってきたのだろうな、と思いながら図書館に入り、大きめの机が並んだ勉強用スペースに向かう。適当な席に腰掛けると、隣の席の子が少しだけこちらに視線を向ける。お隣失礼します、という思いを込めて会釈しようとそちらを向くと、隣の子の顔が驚きに染まる。その顔を見た俺も大いに驚く。

 隣の席の子───スラっとした体にショートヘアーで小さい頭をちょこんと乗せた女の子は、なんと俺の『想い人』であった。


 驚きからどうにか復活し、今度はこんなところで千波に会えたという喜びが湧き出す中、それを表に出さないように苦心しつつ、タイトなシャツとスキニージーンズに身を包んだ千波に小声で話しかける。


「千波もここ来てたんだ」

「うん、今日はたまたまお母さんがうっかり人を呼んじゃったから避難してきたの。佑もそんな感じ?」

「そうだね、俺も妹が友達と遊びだしたからこっち来た」


 俺の声に、愛しい声が言葉を返し、尋ね返してくれる事に喜びを感じながら俺も答えると、一旦ここで会話は途切れ、千波は勉強を再開する。

 その隣に座った俺もノートを開き、普段より早い胸の鼓動を感じながら勉強に取り組み始めた。



 しばらく勉強を続けていると、隣から柔らかな指に肩を叩かれる。


「ねぇ、ここってどういう事か分かる?」


 現代の国語の教科書を指差しながら、千波が俺に尋ねる。俺の得意教科は何を隠そう、現代の国語。千波もそれを知っていて俺を頼って尋ねてくれたはずだ。ならば、俺はその期待に応えねば。


「あー、そこはここの指示語をちゃんと理解できれば解けるよ。それで、ここの心情はこれと結びつくから───」


 すらすらと千波に解説をすると、賢い千波はすぐに俺が言っている事を理解し、正解に辿り着く。


「なるほど〜!流石は佑だね!教えてくれてありがと」


 千波のその言葉を受け、俺はとてつもない充足感に包まれる。千波からの感謝なんか貰えたのならここから先一週間くらいはやっていける気がする。


 そんな一幕を経て、俺達は勉強を続けた。家で勉強していた時は、一時間勉強して、少し休んで、また一時間勉強───というのを繰り返していたが、今は場所が図書館だからなのか、それとも隣に千波がいるからなのか、ずっと勉強し続ける事が出来ていて、俺がここに来てから時計の短針はぐるっと二周半して、気づけば午後二時になっている。

 すると、それまで勉強の手を止めなかった千波が突然ペンを机に置く。そして、俺の耳にそっと囁く。


「ねぇ、私ちょっとお腹空いちゃったんだけど……コンビニにでも行かない?」


 俺の耳元で千波が囁いたという事実にドキドキしつつ、答える。


「あ、いいね。確かに俺も朝ごはん食べてから大分時間経ってるからお腹空いてるし。じゃあそこのコンビニ行こっか」


 そう返した俺は机の上に広げた勉強用具を手提げ鞄にしまい、千波と二人で図書館を出た。




 機嫌が良さそうに軽やかにスキップをしながら進む千波を早足で追いかけ、図書館のすぐ近くのコンビニに到着する。


 お昼時を過ぎたコンビニの陳列棚に残っている商品はまばらだった。その残り少ない中から、数個のおにぎりと飲み物を手に取った俺達はレジで会計をし、コンビニの隣の小さな公園にやってきた。


 休日の昼間だと言うのに人の影一つ無い公園のベンチに並んで座った俺と千波はそれぞれさっき買ったおにぎりを食べながら雑談を楽しんだ。時期的にその内容は勉強方面に寄ってしまうが、それでも千波と他愛もない会話を交わすのは至福の一時であった。


 そんな会話を続ける中、俺が二つ目のおにぎりを口に運んだのを見た千波が急に話題を転換する。


「佑、そのおにぎり何味?」

「ん?ツナマヨ味だよ?」

「私、鮭味にしたんだけど、それも気になってたんだよね〜。一口貰っていい?」


 そう言った千波は俺の返事を聞く前に俺のおにぎりに口を伸ばす。

 俺のおにぎりを一口食べ、「やっぱこれも美味しい〜」なんて言っている千波を前に、俺は硬直していた。

 えっ?今何が起こった……?

 そう混乱している俺に千波が言う。


「佑のおにぎりちょっと貰っちゃったから私のをちょっとあげるね」


 そう言って千波が差し出すおにぎりに、頭が回っていなかった俺は反射的に口を伸ばした。

 口に含んだおにぎりは混乱のあまり、味がしなかった。




 おにぎりを食べ終えた俺は、混乱が冷めぬまま、暗くなる前に千波と共に帰った。

 千波の家の前に着き、千波が家に入ったのを確認した後、公園であった事を思い出しながら俺も家へと向かった。

 千波が俺のおにぎりを食べて、千波のおにぎりを俺が食べた、ただそれだけ。でもそれはまるで───


「カップルのやりとり………みたいじゃないか……」


 珍しく顔を紅くしながら俺が呟いたそれは誰の耳に届く事もなく帰路に溶けていった。

読んでいただきありがとうございました!


元々この話の最後に千波視点を入れようと思ってたんですが、思ったより佑パートの余韻がいい感じになったのでやめました

読んでみて少しでもいいなと思ってくれたら、感想やブックマーク、評価などいただけると嬉しいです!励みになります!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 図書館だからね、大きな声出すといけないからね。だから耳元でこそこそっと喋るなんてラブコメ展開ができるわけですよ微笑ましい、なんて思ってたら二人ともおにぎりで何やってんの……? 千波も積極的…
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