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推しの恋路応援前線!  作者: 赤いシャチホコ
第一章『春』
27/160

25 下校

25話です!


書いてるうちにちょっといつもより長くなっちゃった感が満載ですが、ここまで書きたかったんです…!よろしくお願いします!


 不審者騒動から一夜明け、訪れた朝。

 目覚めてから時計を見た俺はそのまま思考が停止する。

 ん?午前八時?いや、見間違いだろう。

 そう思い、枕元の眼鏡ケースから眼鏡を取り出し、それを掛けてから再び時計を見るが、時間は変わらない。というか、一分経過している。


 普段の起床時間を一時間超過している。どうやら俺は早朝から仕事に出ている両親と、中学校に通っている妹に見捨てられたらしい。いや、これはまずいぞ?

 高校まで自転車で十五分、始業時間は三十分後。朝食を諦め、急いで準備すれば間に合わないことはない。


 とりあえずリュックサックに荷物を詰め込み、急いで家を飛び出した。


 そして、家を飛び出して最初に目にしたものは。

 なぜか俺の家の塀にもたれかかっている千波の父親であった。


 家から出てきた俺を見た彼は俺に声をかける。


「ん、佑君。遅かったね」

「あのー、なんでいるんですか?今午前八時過ぎですけど、仕事とか無いんですか?」


 俺が尋ねるとすぐに千波の父親が答える。


「私は今日は半休なのだよ。そして佑君、君に一つお願いをしに来たのだ」

「俺、結構時間やばいので手短にお願いします!」


 自転車の鍵を開けて出発の準備をしながら大声を返す。すると、千波の父親は俺の要望通り要点をまとめて伝えてくれる。


「なに、昨日あんな事があったから、念には念を入れて今日くらいは娘と一緒に下校して貰いたいと思ってね。生憎今日は私も妻も仕事が遅くなりそうで娘を迎えに行くのが厳しそうなのだ」


 今聞いた感じだとそう難しい事を頼まれた訳では無さそうだ。とりあえず急いでいたのでよく考えずに了承の意を表明する。


「そんだけですか、分かりましたよ!じゃあ俺は学校行くので!」


 そう残して学校へと出発したのだが、思い返すと何かとんでもないことを頼まれたような気がする。

 今日いきなり千波と下校?……やばい、心の準備が……。




 遅刻すれすれで教室に駆け込んだ俺は、遅刻しなかった事に安堵しつつも、半日後に待っている千波との下校に頭を悩まされていた。

 一緒に下校するだけとはいえ、終始無言というのは気まず過ぎる。何かしらの話題を用意しなければ。

 やはり俺と千波の共通の友人であり、俺にとって接触が楽な杏実さんについての話でもしようか。いや、昨日のあの件の影響で休んでいるから何かしら新しいトピックを手に入れることができない。そもそも昨日あったあれを思い出させないようにするという観点からも杏実さん系の話題は良くない気がする。

 それならば、普通に最近のお互いの生活について話したりでもしようか。


 そんな事を考えているうちに授業が始まって、終わってを繰り返して、気がつくと放課後になっていた。


 その後の部活もやや上の空の状態で、しかし授業よりは集中して練習をし、終了すると、いよいよ下校の時間だ。

 早速千波と合流しよう、そう思ったのだが………。今日まだ顔を合わせていない千波と集合場所を決めてないという事に気づいた。千波の父親からも何も言われていないし……。

 最悪、二組の駐輪場で待っていれば合流できるが、ただ待っているだけというのはどうにも性に合わないので、吹奏楽部が活動していると思われる音楽室へと足を運んだ。



 運が良い事に、音楽室に俺が着いた時はまだ吹奏楽部が楽器の片付けをしている所だった。

 音楽室の外から少し辺りを見渡すと、窓閉め作業をしている千波を見つけることができた。


 これは吹奏楽部員でない俺が勝手に音楽室に入ったら何か言われるだろうか、と頭によぎったが、周りに先生などは見当たらなかったため、こっそりと侵入し、『想い人』の下へ足を動かす。


 千波の真後ろに到着したが、窓の固い鍵を閉めるのに集中している千波は俺に気がつかない。そんな千波を見ていると、俺の中に潜む悪戯心がくすぐられる。

 その衝動を抑えきれなかった俺は、人差し指を突き出した状態で肩を叩き、それに反応して振り向いた人の頬に、突き出されている人差し指が当たる、という小学生の時に流行った悪戯を千波に仕掛けていた。


 なにも警戒することなく振り向いた千波の頬に、俺の思惑通り人差し指が当たる。俺の指に、ふにっ、と柔らかい感触が広がる。


 なんだこれ、柔らかっっ!!と衝撃を受けていると、ワンテンポ遅れて千波が反応する。


「えっ!?佑?なんで…?」


 俺がここにいるという事と、急に頬をつつかれた事の二つの驚きからなのか、千波にしては珍しく顔が僅かに赤らんでいる。

 そんな千波の珍しい姿を直視できずに少し視線をずらしながら、千波の疑問に答える。


「いやー、今朝千波のお父さんに、「昨日あんなことがあったから今日くらいは一緒に帰って欲しい」って言われてね」

「もう、お父さん、ちょっと過保護すぎるよ……。でも、わかった。すぐに片付け終えて、鞄取ってくるからちょっと音楽室の外で待ってて」

「おっけー」


 千波が再び作業に戻るのを見ながら、俺は音楽室の外に歩いていった。




 肩を叩かれ、私は本当に心底驚いた。だって、振り向いた先に好きな人がいたのだから。しかも、どうやら悪戯をかけられていたようで私の頬には彼の指が突き立っている。

 状況を理解しきった途端に色んな感情が渦巻いて、顔が一気に熱を帯びてきたのを感じた。

 そんな中、佑から伝えられる事に、どうにか平静を保ちながら答え、音楽室の外で待っていてくれるように言うと、素直に従ってくれて安堵する。


 さっきまで行っていた鍵閉め作業をすぐに終えると、鞄を取る前に音楽室の外から見えない位置に移動した私は胸ポケットから手鏡を取り出して覗き込む。すると、そこには普段よりも明らかに紅潮した私の顔が映り込んでいた。

 え、嘘、こんなに私赤くなってたの……?うぅ、佑にバレてないよね?

 とにかく、こんな状態で佑の前に顔を出すわけにはいかないので、手で仰いでどうにか顔を冷まそうとすると、そんな私を見た先輩が声をかけてくる。


「あれ〜?千波ちゃん、顔真っ赤だね〜。何かあったの笑笑?」

「うっ、うるさいですっ」


 私をイジってくる先輩にどうにか反論して、顔を冷まし続けるも、結局、私の顔がいつも通りになったのは十数分後だった。


 鞄を持って音楽室を出ると、すぐに佑が待っているのが目に入った。


「ごめん、ちょっと先輩と話す事あって遅くなっちゃった」


 遅くなった事を謝罪するけど、もちろん、佑に顔を冷ますのに時間がかかった、なんて言うわけにもいかないから軽く嘘を交える事となってしまった。


「ん、いいよ。別に急いでる訳でもないし。じゃあ帰ろっか」


 そんな私を軽く許してくれた彼とそのまま言葉を交わしながら、私達は二人で駐輪場に歩いていった。




 駐輪場に着いた俺と千波はそれぞれの自転車に跨り、帰路へと着いた。そして、無言の時間が訪れないように俺が話を振ろうとすると、俺より先に千波が話を切り出した。


「そういえば、もうすぐ中間テストだね」


 千波のその言葉を聞いた俺は腹をナイフで刺されたような衝撃に襲われる。


「あ〜……、そっか。もうそんな時期なのか、すっかり頭から抜けてたよ」


 どうにか動揺を表に出さないようにしながら返すと、千波が続けて放った言葉に再び刺される。


「テストといえば、入学直後の学力調査テストどうだった?」

「………正直、結構やばかった。いや、そもそも俺は北燈高校にギリギリで受かったやつだから当然っちゃ当然なんだけど」

「具体的な数字を聞いても?」


 うっ、千波が結構ぐいぐい来る。別にちょっと盛ってもいいんだけど、なるべく千波の前では正直でいたいんだよなぁ。そんな葛藤の末に、本当の事を伝えると決めて答える。


「……三六〇人中二五五位」

「なんだ、あんまり私と変わらないじゃん。あ、私は二二〇位だったよ」


 そんな会話を続けているうちに、どんどん家までの距離が縮まっていく。それにしても、千波と一対一で話すのは少し緊張するかと思ったが、案外普通に話せてるな。中学の時に何度か一緒に下校した経験が活きてる気がする。

 そう思っていると千波は頬を緩めながらこんな事を呟く。


「こうやって二人で帰ってると、中学の頃を思い出すね」


 それに対して、俺は「そうだね」としか返すことができなかった。


 中学の頃の下校はもちろん楽しい事が多く、千波も含めた複数人でワイワイと帰るのが好きだった。

 でも、千波にとって良い思い出ではないであろう事がいくつかあるはずなので、それにうっかり触れないようにしたかったのと、単純にあの頃から抱えている想いがほんの拍子にポロッと溢れてしまわないかがただ心配だったので上手く返すことができなかった。


 俺が話題を伸ばす事ができず、停滞が生まれようとした時、千波の家の前に到着した。どうにか助かった。

 自転車を停め、家の鍵を開けて扉を開いた千波に別れの挨拶を届ける。


「それじゃ、またね」

「……うん、今日はありがとう。またね」


 千波が家に入り、中から鍵を閉めたのを確認してから俺も自分の家を目指して、さっき走ってきた道を戻っていった。




 私が「中学の頃を思い出すね」と言った後の佑の反応があまりにもそっけなかったので、私は酷く焦っていた。

 あの頃の話はNGだったのだろうか。もしかすると私が知らないだけで嫌な思い出とかがあったのかもしれない。

 その事を考えているうちに家に着いてしまい、すぐに佑に別れの挨拶をされた事でさらに焦ってしまったのと、度胸がなかった事の合わせ技で、言おうと思っていた言葉も言えなかった。


 自分の部屋に戻った私はそのままベッドに横たわると呟く。


「あ〜あ、私って本当に大事なとこで踏み出せないなぁ。……お礼がしたいからちょっと家に寄っていってよ、って言うくらい、頑張ってよ、私………」


 そんな私の呟きは私の部屋の中に木霊するだけで他の誰にも届く事はなかった。

読んでいただきありがとうございました!


今話も佑と千波の話でした!

多分次もです!

杏実と碧の話はもうちょっと待って……!


読んでみて少しでもいいなと思ってくれたら、感想やブックマーク、評価などいただけると嬉しいです!励みになります!

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