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推しの恋路応援前線!  作者: 赤いシャチホコ
第一章『春』
26/160

24 話し合い

24話です!

今話は杏実パートから!

よろしくお願いします!

 あの瞬間、何が起こったか分からなかったけど、思わず声をあげていた。

 反射的に声を上げた後に知らない人にお尻を触られたという事実に気づいた私は恐怖に襲われて、頭が重くなり、その場に思わず蹲っていた。

 隣にいた千波ちゃんが何か言い合いをしている気がするけど、何も聞こえない。

 ただ、頭が真っ暗になって何も考えられない、何も見えない、何も聞こえない──────。


 そんな中、肩を何かに叩かれる。そして、何も聞こえない暗い状態の中で何かが聞こえた。


「──み!杏実!聞こえてる?!」


 私の名前が呼ばれてる、そう気づいて顔をあげると、さっきまで何も映さなかった視界に光が差し込む。


「え…?碧…君?」

「あ、気づいた!?良かった〜!」


 どうやら彼は蹲っていた私に声をかけて心配してくれていたらしい。でも、どうしてここに彼が?


 私が今の状況を把握しきれずに混乱していると、それを感じ取った碧君が教えてくれる。


「あー、俺は杏実さんの悲鳴が聞こえたからとりあえず来てみたんだよ。そしたらなんか大変なことになってそうだったから手を貸してる感じ。で、杏実と一緒にいた子と佑が男の人の相手してる」


 碧君から得た情報で今何が起こっているかを知ることができた。そして、千波ちゃんと佑君が相手してくれてるならもう安心だ、と今まで張っていた気を緩めると、途端に涙が溢れ出る。

 怖かった。不安だった。でも千波ちゃんの、佑君の、碧君のおかげで安心できた。そう思うと、決壊した涙腺はもう止まらない。


 そんな私を見た碧君は一瞬戸惑いながらも、ハンカチを取り出して私に渡すと、優しく声をかけてくれた。


「何があったかはよく知らないし、無理に聞こうとは思わない。でも、きっと怖かったんだよなってことはなんとなく分かる。うん、今は好きなだけ泣いてよ」


 そんな優しいところに私はきっと惚れたんだろうな、と頭の片隅で考えながら、気持ちが落ち着くまで優しい彼の隣で涙を流した。




 中年男性を一旦宥め、一息着くと、千波から事のあらましを聞いた。

 散々千波に言われた事を否定していたようだが、話を聞くにどこか怪しい。というか、あの人のあのシルエットはもしかして───。

 俺が相手の正体に目星を付けるのと同時に、杏実さんの悲鳴を聞きつけた先生がようやく到着する。


 すぐに千波に声をかけ、何があったかを把握した先生は中年男性に付いてくるように言う。

 流石に先生にまで出てこられたら抵抗する気も失せたのか、男性が大人しく先生に付いていく。その際に俺、碧、千波、杏実さんの四人も先生に声をかけられ、学校へと戻った。



 空き教室に待機を命じられた俺達は、全員が黙ってただ待っていた。俺もあえて会話を始めようとはせず、ただ考えていた。あの中年男性の正体を。

 先生が来る前に辿り着いた結論について再び考えるが、やはりあの男性のシルエットは、俺の記事が載った学校新聞の不審者についての記事に載っていたものと一致する。

 てことは、否定してたくせに本当に不審者じゃないか!


 俺がそう結論付けた時、先生が俺達が待機していた空き教室に入ってきて、俺を呼ぶ。え、千波とか杏実さんじゃなくて俺なの?


 とりあえず言われるがままに先生の下へと行く。


「杏実さんは泣いてるからともかく、千波じゃなくて俺なんですか?」

と素直に尋ねると、先生が答える。


「あー、杉山はあの男性とガッツリ言い合ってるからな。もう一回会わせてもいい方向にはきっと転がらん。それよりも与田、お前の方がちゃんと話し合いをしそうだ」

「なるほどです」


 そう返事をして、ついでに俺の考えを先生に報告する。


「多分なんですけど、あの男性、この間の学校新聞に載ってた出没中の不審者ですよ」

「なに、本当か?」

「俺の記憶では新聞に載ってたシルエットと一致してます」

「よし、分かった。すぐに新聞を取ってこよう」


 一度職員室に寄って新聞を取ると、男性との話し合い、というか取り調べが行われているらしい別の空き教室に到着した。

 中に入ると、すぐに先生が男性に新聞を突きつけると、明らかに男性の顔色が変わる。


 その様子を見て、先生が問い詰めると、男性はとうとう、自分が狙って杏実さんのお尻に触れた事を告白した。

 男性によると、始めに同様の行為を別の女子生徒に行った際に「たまたま当たっただけ」と言い訳をしたら上手く逃れることができたらしく、同じ事を繰り返していたとのことだ。

 もちろん、すぐに先生が警察に連絡すると、中年男性は警察に連行されていった。


 これにて一件落着、と思ったがどうにもそうは行かないらしい。


 さっきまで四人で待機していた空き教室に戻ると、そこには人が増えていた。



 空き教室に来ていたのは千波、そして杏実さんの両親。学校からの連絡を受け、学校に駆けつけたようだ。


 杏実さんはまだ泣いているらしく、それに寄り添って宥める碧と杏実さんの両親が何か言葉を交わしている。


 そして、千波とその両親は何やら話し合いを行っているようだった。


「やっぱり、夜道を女の子だけで行動させるのは危なくないかしら?」


 そう言った千波の母親に同調するように、父親も言う。


「ああ、日が長い夏の下校時はまだ明るいが、日が短くなってくと危ないな。千波、悪い事は言わないから、日が短い時期は送り迎えするから車で登下校にしなさい」


 千波は少し不満げにしているが、ああ言われると言い返す言葉も無いようで黙っている。


 そんなタイミングで俺が入ってきたものだから、視線が一気に俺に集まる。が、すぐにまた話し合いが再開される。


「しかし、金曜日がなぁ。俺もお前も金曜日は遅くまで仕事だ。一体どうしたものか……」


 千波の父親がそう呟くと、千波が反論する。


「別に私は大丈夫だから!週に一日、一人で帰ることくらい……」

「だからといって、また今日みたいなことが起こったらまずいだろう」


 すぐに千波の反論は父親に押しつぶされる。と、千波の父親の視線がこちらを向く。

 え?なんですか?


「佑君」


 あ、千波の両親に呼ばれたなぁ。嫌な予感が…。いや、良い予感かもしれない。


「佑君、本当に身勝手なお願いなんだけど、日が短い時期の金曜日だけでいいから、娘と一緒に下校してくれないかな?娘を一人で帰らすとなると不安だが、知っている男の子が一緒に帰ってくれるとなると安心できるんだ」


 千波の父親の言葉を受け、俺の胸中は大変なことになっていた。


 え?千波の両親の公認で一緒に帰る権利をくれるって言うんですか?しかも頼りにされて、断る理由なんかどこにあるっていうんだ。


「えーと、千波が良いなら、一緒に帰らせてもらいますけど……」


 そう返すと、千波は反対せずに首を縦に振り、口を開く。


「正直に言うと……一人で暗い中を帰るのはちょっと怖いから……佑が一緒に帰ってくれると…嬉しい」


 目を潤ませてそう言う千波を前にして、断ることはできるはずがない。


 それを受け入れた俺は、日が短い時期に限るが週に一度『想い人』と一緒に下校する権利を手にしたのであった。

読んでいただきありがとうございました!


実は、元々の案では前話と今話で1話だったんですが……思ったより話が膨らんで2話になりました!


読んでみて少しでもいいなと思ってくれたら、感想やブックマーク、評価などいただけると嬉しいです!励みになります!

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― 新着の感想 ―
[良い点] あぁ、嫌な予感が、嫌な予感が……、良い予感に決まってんだよなぁ! これはもはや両親公認カップルと言っても過言ではないのでは? まあ過言だが。こっち二人は一緒に帰れる口実できたけど、あっちの…
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