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推しの恋路応援前線!  作者: 赤いシャチホコ
最終章『再来の夏』
157/160

137 新城舞唯

甲子園が面白くて筆が進まん!

なんで夜の執筆タイムになっても試合をしてるんだ!観ちゃうじゃないか!

「舞唯さん、こんなとこで何してるんですか」

「何って、普通にプールで遊んでるだけよ?」


 俺の問いにあっけらかんと答える舞唯さんの姿は、彼女の特徴の一つである女性らしさを際立たせるようなシンプルなビキニ。

 惜しげもなく晒された二つの球は水面で揺蕩っており、近くを通る人(主に男性)から多くの視線を向けられている。

 しかし、本人はほとんど気にも留めていないのか、何でもないといった表情でこちらを向き、独特のゆったりとした口調で話しかけてくる。


「そういえば聞いたわよぉ。佑、千波ちゃんと付き合ってるんですって? 隅に置けないわねぇ」


 それを聞いた瞬間、俺は自分の頬がピクリと動くのを感じ、露骨に反応してしまったと少し後悔する。

 案の定、俺の反応を見た舞唯さんは妖しげな笑みを浮かべ、「可愛い反応」とこぼす。と、舞唯さんはそのまま視線を俺の横にずらすと、今度はさっきと比べて愛おしそうという表現が似合いそうな表情になり、「ふふ、可愛い」と呟く。

 ちらりと隣を見ると、千波が口元を少し緩めながら頬を染め、俯きがちに押し黙っていた。

 その表情には俺も完璧に撃ち抜かれ、思わず目を逸らしてしまった。

 その反応を見てまた舞唯さんが微笑みかけてくるので、俺はどうにかそれを掻き消そうと言葉を返す。


「というか、俺と千波が付き合ってる事どこから聞いたんですか」

「ん〜? そりゃあ、私は新聞部だからそれなりに情報通な知り合いいるし、そもそも移動教室で三年の教室の前を通る時までいじらしく手を繋いじゃったりしてればぁ───」

「あ、もういいです大丈夫ですー」


 敢えて話題に突っ込んでいけば意外と面白がる表情も落ち着くかと思ったが失敗。逆にこっちがより恥ずかしい思いをさせられそうになったので慌てて舞唯さんの言葉を遮ることになった。


 どうやったら舞唯さんのこの絡みを押し返せるだろうか、と思案していると、今度は杏実さんの驚く声が聞こえ、続けて碧がどうにかしようと言葉を並べるのが聞こえた。

 どうやら今度はあっちのカップルに絡みに行ったらしい。

 と、そのタイミングでふと舞唯さんの注意を引けそうな話題を思いついた。

 俺は軽く咳払いし、杏実さん達に絡んでいた舞唯さんの目がこちらを向くのを確認した後で口を開く。


「───高三の夏ってかなり大事な時期なんじゃないですか? こんなとこで遊んでて大丈夫なんですか?」


 言ってから、少し意地悪な所を突いてしまったかもしれないと思い、軽く反省しながら舞唯さんの方に視線をやると──────舞唯さんは不思議そうに首を傾げていた。

 その不可解な反応に、逆にこちらが頭にハテナマークを浮かべると、舞唯さんが「あっ」と何かに気づいたように口を開く。


「佑、もしかして勉強のこと言ってたのかしら? それなら、全然大丈夫よぉ? 流石に毎日夜はちゃんと勉強してるけど、模試で出た志望校の判定はずっとAだから別に一日に十数時間もやって夏休みを潰す必要は無いのよ」


 他の同級生に聞かれたら一気に恨みを買いそうなことを軽々と言い放つと、舞唯さんはふふんと鼻を鳴らす。そして答えきって満足したのか、舞唯さんはまた杏実さん達の方に向き直る。

 結局舞唯さんの猛威を止められなかった、と悔やもうとしたその時、それまで黙っていた千波が真っ直ぐ舞唯さんを見据え、さっきまでの照れの影響なのか普段よりも少し幼さを感じさせるような声音で俺に続く二の矢を放つ。


「まっ、舞唯先輩は今日はお一人で来たんですか?」


 その言葉が届くと、舞唯さんは淡々と答え───


「流石に私もこういうとこにはお友達と来るわよぉ。ほらそこに二人が……………あれぇ?」


 ───ようとして、周りを見渡し、間抜けな声を上げる。


 珍しく本当に困った様子で舞唯さんがわたわたとしていると、遠くから力強い声と柔らかな声の二つが駆け寄ってきた。


「あー! そこにいたのか舞唯!」

「見つかって良かった。舞唯ちゃん、すぐどこか行っちゃうから」


 そう言いながら現れたのは、短髪褐色に引き締まった身体のザ・体育会系の女性と、ドがつくほどの清楚系のロングヘアーの女性。

 口ぶりからして、この二人が舞唯さんと一緒にプールに来ている人達だろう。


「いやーうちの舞唯がすまんねー。迷惑かけてなかったか?」

「いやぁ、まあ」

「あ、その反応、ちょっと迷惑かけてたみたいだね。代わって謝るよ」


 苦笑しながらロングヘアの方が丁寧な所作で頭を下げると、つい反射的に俺も頭を下げてしまう。


 そしてそんなやりとりの間に褐色の方が舞唯さんをプールサイドに引っ張りあげてどこかに連行して行こうとする。

 そんな状況でも舞唯さんはこちらを振り向きながら呑気に「またね〜」と手を振り、前を向く寸前に意味ありげに千波のことを軽く見つめた後、友達二人と一緒に歩いて行った。




「なんか、どっと疲れた。まだプールに来たとこなのに」


 舞唯さんが見えなくなってから碧が呟くと、俺達は三人でそれに賛同する。


「まああの人は本当に台風みたいなもんだからな。さ、切り替えて遊ぼう!」


 俺が仕切ると全員がこくりと頷き、また流れるプールの波に体を任せてぷかぷかと進んで行った。










 私───新城舞唯は、後輩の佑のことが大好きだった。もちろん、友情的にも、恋愛的にも。


 昔から仲は良かったから遊ぶ機会も多く、気がついた時には一つ年上の私に可愛く寄ってくるその姿に、私の話で元気に笑ってくれる姿に惚れていた。

 でも、昔の私はそれに気づかなかったのか、それを隠そうとしたのか、段々と佑のことをイジることや自分から構いに行くことが多くなり、けれど止めてくれる人もいなかったからついやりすぎてしまって、それまでの綺麗な関係ではなくなった。


 佑が成長したのもあったのだろうけれど、つい構いすぎて疎まれるようになり、私の名前を呼びながら駆け寄ってくることもすっかり無くなった。


 だから、私は自分の恋をそっと胸の奥に仕舞った。大きく育ち、だれも、私ですら触れられない胸の奥に。



 初めて千波ちゃんに会い、話し、そして佑と知り合いだと知った時、佑の事を語る時のその目から千波ちゃんが佑のことを想っていると感じた。

 そして不思議と、その子になら私が大好きだった人を任せても大丈夫だと感じた。

 ───だから、私の胸の奥の初恋は君に託すよ。


 どうか、佑と幸せになって。

今回新しく出てきた二人は、以前幕間で少し書いた舞唯の話て存在だけほのめかしてあった舞唯の親友です。

小学校の頃から仲が良く、高校受験の際には進学校の北燈高校に進むと決めた舞唯についていくために必死で勉強して偏差値を二十近く上げたという裏設定があったり。


読んでいただきありがとうございました!

読んでみて少しでもいいなと思ってくれたら、感想やブックマーク、評価などいただけると嬉しいです!励みになります!

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