135 正真正銘
本当のラスト、再来のプール編スタート!
杏実さんに突然プールに誘われ、戸惑いながらも俺と碧と千波の三人がその話を受けると、あれよあれよと話は進んで行き、気づけばプールに行く当日。
俺は約束の時間よりも少し早めに着けるように、と考えながら電車に乗ると、一年前の『あの日』と同じように車内に見慣れた人影を見つけた。あいつとは価値観が似ているとよく感じるが、去年に続けてやはり
「碧、おはよう」
挨拶をすると、碧は耳につけていたワイヤレスイヤホンを外しながらこちらに目をやり、「お、佑。おはよう」と返す。
俺は肩から提げたウエストポーチからタオルを取り出し、駅までの自転車移動で掻いた汗を拭いながら碧の隣に腰を下ろすと、ぽつりと碧が呟く。
「あれから一年、か」
その言葉が耳に響いた瞬間、一年前の事がまるで一昨日あった事のようにありありと頭の中に蘇ってくる。
一年前の『あの日』は本当に激動だった。
元々一緒にプールに行く予定だった友香梨さんが来れなくなって、急遽杏実さんが誘ったのがまさかの千波で。
千波の水着姿に心を乱され、怪我をした千波を背負うことになり、最後に電車の中で俺の肩にもたれかかった千波の口から寝言で「すき」と言われて。
あの時はそれが友愛と恋愛のどちらの気持ちから漏れたものなのかの判断がつかず、なんなら友愛の方が可能性高いだろうなと思っていたけれど、今思えばあの時には両想いだったんだろうなと感じる。
また、後になって、というか最近本人から聞いた話によると碧も碧で『あの日』は色々あったらしい。
俺から見ればいつも通り淡々と過ごしているように見えたが。
ふと今の碧を見ると、俺と同じように思い出に耽っていそうな顔をしながらぼうっと窓の外を見つめていた。
釣られて俺も窓の外の青一面にもくもくと広がる入道雲を眺め、今度はこのすぐ後にやってくる未来に想いを馳せる。
今日の参加メンバーは去年と全く同じで俺、碧、杏実さん、千波の四人。しかし去年と決定的に違うのは、この四人はそれぞれ自分の想いを実らせ、二組のカップルになっているということ。
去年も面子を見て「ダブルデートみたい」なんて思ったけれど、今年に関しては比喩表現でもなんでもなくそれぞれがちゃんと「デートである」という認識の下で約束をした正真正銘のダブルデート。
去年のように色々ハプニングがあるのも記憶に残っていいかもしれないが、今年は普通にただただ楽しかった思い出にしたいなと思っていると、電車が止まり、プールの最寄り駅の名前がアナウンスされる。
景色を眺め続けていた俺達はそこでようやく降りなければならないと気づき、慌てて電車のドアを潜った。
一度来た場所なら地図とか無くても行けると豪語する碧について駅からしばらく歩くと、やがてなんとなく見覚えがある気がする道に辿り着き、さらに進んで行くと明確に見覚えのある建物が目に入った。
俺達はそのまま歩みを進め、これまた一年前と同じ集合場所の自動販売機の前で立ち止まる。
去年は俺達がここに来た時にはもう千波が待っていたが、どうやら今回は俺達が一番乗りらしい。
なんて思っていると、自動販売機の前に広がる駐車場に一台の車が走り込んでくるのが見えた。
なんとなくその車に見覚えがあるような気がして注視していると、その車は真っ直ぐ俺達の方に向かって突き進み、目の前で停車する。
そして、「あっ」と俺の記憶の中にある車と目の前の車が結びついた瞬間、後部座席のスライドドアが開き、二人の美少女が降り立つ。
「あれ、早いね二人とも。ちょっと早めに着いたかなって思ってたんだけど」
「こういうところ、二人とも本当に真面目だよね」
美しい声と可憐な声でそう言いながらこちらに笑いかけるのは、もちろん俺と碧の彼女である千波と杏実さん。ついでに、車のフロントガラス越しにサムズアップしている運転手は千波のお父さんだ。
二人の服装を見ると、杏実さんは向日葵を思わせるような黄色のワンピース。元々のあどけない顔立ちと小柄な体型によく合っていて、杏実さんの可憐さを引き立てている。
そして千波は爽やかな空色のキャミソールの上から透け感のある薄手のウェアを羽織っており、下はショートパンツ。こちらもまた、すらりと手足が長く、スタイル抜群の千波にとてもマッチしている。
あまりの可愛さに言葉を失っていると、褒め言葉を待ってますと言わんばかりのキラキラとした視線が俺達に注がれる。
元々そういう「褒め」ができていたはずなのに、カップルという関係になってから妙に意識し出したのか素直に褒め言葉を口にできない碧と、元々そういう事が得意ではなく、付き合い出して褒め言葉を口にする機会が増えたはずなのに未だに慣れない俺の二人は躊躇いがちに
「「ちょ、超可愛い……!」」
と奇跡的にハモりながら呟くと、千波と杏実さんは声を上げて笑い出し、「ありがとっ」と口にしながらそれぞれの恋人の手を握る。
俺達はそっとそれを握り返すと、心の中の逸る気持ちが飛び出して一人歩きしないようにそれもしっかりと握ってプール施設の館内へと歩き出した。
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