132 推しの『恋路応援前線』
正直蛇足ではあるし、後付け感満載だから書くか大分迷った。
でも書きたいって思ったから形にしてみました。
自分の中にあるバラバラのピースをどうにか繋ぎ合わせたので普段よりも少し拙いかもしれませんが、お付き合いください。
球技大会の一年男子サッカー準決勝の終盤。
逆転を目指す九組の攻撃中、相手キーパーが弾き、ディフェンダーが大きく蹴り出そうとしたボールが佑君に当たり、佑君の目の前にこぼれ落ちた。
あれを蹴り込んで逆転、と誰もが思った時、ボールを蹴る前に佑君の動きが止まった。恐らく、試合途中で痛めた足首の負担的に動けなかったのだろう。
決定的なチャンスだったけど、怪我で動けないなら仕方がないと諦めようとした──────瞬間、周囲の声援を掻き分けるようにして一本の真っ直ぐすぎる声援が通り抜けていった。
「頑張れーーー!!!! 頑張れ、佑ーーーーーーー!!!!」
それが聞こえた直後、佑君はその声に動かされるように一度止まった体を再起し、ボールをゴールに叩き込んだ。
それを見た瞬間、私は気づいてしまった。
佑君と千波ちゃんも、私達───私と碧君と同じなのだと。
私は高校に入ってからかなり早い段階で碧君のことが好きになった。
そして、付き合い出してから知ったのだけれど、碧君も私と同じ時期にはもう私に好意を抱いてくれていたらしい。
つまり、私達はいわゆる『両片想い』というやつだったらしい。
そんな状態を一年近く続けていたからなのか、今目の前で起こった「千波ちゃんが声援を送り、佑君が応えるように動く」というのを見た瞬間、本当に直感的にだけれど、二人の間に『好き』が行き交っているのが見え、二人も『両片想い』だと確信した。
元々、千波ちゃんが佑君のことが好きなのは初めて会った時に聞いたから知っていたけど、佑君の気持ちは知らなかったし、確かめようとも思わなかったから驚いた。
そしてその驚きが消えるよりも先に、私はとある事に気がついた。それは──────佑君の想いに気づいた今なら、私が碧君と付き合えるまでずっと手助けしてくれた佑君に恩返し出来るのではないか、という事。具体的には、佑君と千波ちゃんを私の力で近づけたり。
いつか本当にお礼をしないと、と思っていたけれど、まさかこんな形でチャンスが訪れるなんて。
そう思った直後、試合終了のホイッスルが鳴って、碧君が佑君を抱えながら私のところに戻ってきた。
「碧君! お疲れ様!」
「うん、応援ありがとう。本当はゆっくり喋りたいところだけど、ちょっと佑を救護テントに連れてくからちょっと待ってて」
そう言うと、碧君は急ぎ足で歩いていってしまう。
私はそれを見送ると、辺りを見渡し───珍しく慌てた様子でキョロキョロと何かを探している千波ちゃんに声をかけに向かった。
「千波ちゃん」
「……あ、杏実ちゃん。あっ、その……」
「佑君ならこっちだよ。ついてきて」
私は千波ちゃんの手を取ると、碧君を追いかけ、救護テントに向かった。
救護テントに着くと、丁度佑君が手当てされていて、碧君が先生から説明を受けているところだった。
と、怪我をしている本人ではなく付き添いのような扱いのはずの碧君が説明を受けている事に違和感を感じて佑君を見ると、佑君は目を瞑ってぐったりとしていた。
驚いて思わずテント内に飛び込もうとすると、それよりも早く私の後ろの影が動き出した。
「佑っ!! 大丈夫!?」
気がついた時には、千波ちゃんはもう佑君の横に移動していた。
「なんか無理して動きすぎて疲れが溜まりまくって寝たっぽい。気絶とかじゃないはずだから安心して」
ずいぶんと取り乱している千波ちゃんに碧君が声をかけると、千波ちゃんの表情が柔らかくなる。
そのタイミングで、私はこっそりと碧君に近づき、耳打ち。内容は、二人は『両片想い』であるという事と、今までのお礼として、この後佑君と千波ちゃんをどこかで二人きりにしてあげたい、という相談。
私が言い終えるまで、碧君は終始驚きの表情を浮かべていたけれど、すぐににかっと笑みを浮かべて小声で言葉を返す。
「それなら絶好の場所を知ってるよ。俺に任せて」
そう言うと、碧君は眠っている佑君を背負って移動し始める。私は、それを少し羨むように見つめる千波ちゃんの手を引き、碧君の後ろをついて行く。
しばらく歩くと、碧君が足を止めて佑君を下ろす。
そして、私の意図を汲んで口を開く。
「千波さんに一つお願いしたい。佑はその足では少なくとも今日はプレーできないから、決勝には出れない。今の佑は一人で出来ない事も多いから誰かは側にいてやらなきゃいけない。でも、俺は試合があるし、杏実も応援があって側にいてやれないから、代わりに佑の側にいてやってくれないか?」
それを聞いた千波ちゃんは、少し混乱した様子を覗かせながらも頷く。そして、碧君がその後に付け足した「あ、ここテニス部しか知らない隠れ休憩スポットだから、球技大会中はよっぽど人来ないから。あと、佑かなり頑張ってたから膝枕くらいのご褒美あげといてよ」という言葉に赤面。
意外と千波ちゃんに仕掛けさせようとする碧君の姿勢に苦笑しながら、私は千波ちゃんとじっと見つめ合う。何か声をかけよう、できるなら少し背中を押せるようなものを、と考え抜いた末に私は───。
「大丈夫だよ」
そう呟いていた。
「佑君は寝てるだけだから大丈夫だよ」とでも、「千波ちゃんは可愛いから大丈夫だよ」とでも、「佑も千波ちゃんのこと好きだから大丈夫だよ」とでも捉えられ、実際にどの気持ちも含めて放ったそれに、千波ちゃんは優しく頷き、「ありがとう」と返す。
千波ちゃんは私の言葉をどう受け取ったのだろうか、と考えながら私と碧君は静かにそっとその空間を離れる。
佑君は何度も何度も私が碧君と向き合う機会をくれた。
今、たった一度二人きりにしてあげただけではきっとその十パーセントも返せてないけれど、この機会に二人がお互いに向き合ってくれれば───あわよくば、どちらかが勇気を振り絞って告白してくれればと、私はそう願い続け、隣を歩く碧君と手を繋いだ。
読んでいただきありがとうございました!
碧と杏実が付き合うまで、というか今話以外は「推しの恋路」「応援前線」でしたが、今回限りは杏実による佑・千波の恋路の応援でした!
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