125 開幕と決意
ついに始まります!球技大会編!
『これより、後期球技大会を始めます』
程よい春風が吹く青空の下、スピーカーを通した校長先生の声が響くと、グラウンドに集まった生徒達がそれぞれ歓声を上げ、待ち侘びた今年度最後の行事である球技大会が始まった。
校長先生からの開会宣言と諸注意、準備運動を終えると俺達は一年九組の全員で集まり、円陣を組む。
「このクラスで行事を盛り上がれるのも今日が最後だ! 全力で楽しんで、最高に笑って終わろう! 絶対勝つぞ!!!」
「おお〜〜〜!!!!」
ほぼ一年かけてすっかりクラスの中心、元気印としての地位を確立した大喜が大声で力強くクラスを鼓舞すると、クラスメイトもそれに応えるように大声を上げる。
そんな中、俺は右腕で掴んでいる碧───の奥で碧と肩を組むために十五センチ近くあるはずの身長差を埋めようと必死に背伸びをしている杏実さんの微笑ましい姿を見ながら、自分の気持ちと向き合う。
俺は千波のことが好きだ。
それは確固たる事実。
そして友愛か恋愛かは別として、千波が俺に対して好意を向けてくれている事も事実。
客観的に考えれば、告白して成功する確率はそう悪くないはずで行動を起こすべき状況なはずだ。
しかし、俺は千波の向けている好意が友愛であり、俺が告白した事をきっかけにその友愛さえも失ってしまう可能性があるのが怖くてたまらない。だからどうしても前に一歩踏み出す勇気が出ない。
似たような感情は俺が今見つめている相手───杏実さんもついこの間まで抱えていて、碧に気持ちを伝えて良いものか、関係は変わってしまわないか、と散々悩んでいた。
しかし彼女は───高校入学当初、俺よりも恋愛的度胸が無かったはずの彼女は、立ち止まり続ける俺とは違い、勇気を振り絞って告白し、見事に成功させてみせた。
その過程においては俺や直紀、舜太なんかが手を貸していたし、彼女自身も碧に告白できたのは周りのみんなのおかげと言っているが、実際のところは九割がたは杏実さん自身の勇気によるもの。
一年間様々な経験をし、時には辛い苦しみにもぶつかりながらも前に進み続け、変わってみせた。
そんな彼女の成長を間近で見てきた俺は、変わりたいとは思いながらも結局変われず、立ち止まったまま。
けれどついこの間までは、すぐそばに同じ境遇の相手がいるから、とそれほど危機感は感じていなかった。しかしそれも状況が変わり、勇気を持って踏み出した杏実さんは碧と付き合い始め、変わらない俺は完全に取り残された。
そんな中、やってきたのは球技大会でのサッカー。
トラウマとも言える「自分でサッカーをする」という事を乗り越える事で自分自身を変えれるのではないか、と思ったものの怖くて足がすくんでいた俺の手を引いてくれたのは、俺の手を借りながら俺よりも高いところまで進んで行った杏実さんだった。
杏実さんのおかげでサッカーに挑めた俺は少しずつながらも成長し、過去の呪縛から離れていっているのを感じる。
今の俺には、俺のおかげで好きな人と付き合えたんだと慕ってくれ、手を引いてくれ、俺の成長を支えてくれる人がいる。
その優しさに応えるためにも俺は──────。
(この球技大会で完全に変わってみせる。そして───千波に告白する)
そんな決意を胸に、俺は大喜の掛け声に合わせて「おお〜〜!」と空に叫んだ。
円陣を終えると、俺達は早速競技場所に移動───の前に、千波の姿を探す。その理由はもちろん、千波に俺のサッカーを見てもらうためだ。
俺は変われたんだ、と自分自身に言い聞かせるのに手っ取り早いのは、明確に苦手意識を持っていたサッカーで活躍する事。だから実際のところ、千波が見ていようがいまいがあまり関係ないのだが、どうせ活躍するのなら好きな子にその様子を見てもらいたいと思うもの。
そんなふうに息巻いて挑んで散々な結果になれば目も当てられないが、この二週間近く続けてきた練習のおかげでそうなる確率は極めて低いだろうという確信があったし、千波に見てもらっている方が自分に発破をかけられる。
そんな理由で千波に見てもらいたいと思い、そのお願いをするために姿を探すと、少し離れたところを彩陽さんと話しながら、何かを探すようにキョロキョロと辺りを見回して歩く千波の姿を見つけた。
「千波、ちょっといい?」
軽く駆けて近づき、声をかけると、千波は驚いたように目を丸くする。
「あっ、佑! ちょうど探してたの!」
「え、俺を?」
「うん、佑を」
なんの偶然か、どうやら千波も俺を探していたらしい。
「何か俺に用事あった?」
尋ねると、千波は口を開こうとして躊躇い、一度息を大きく吸ってから改めてゆっくりと口を開く。
「えっと……その、私の卓球の試合を見にきてほしいなって。……あ、変な意味じゃなくて、そう、昼前くらいに佑のクラスと当たるから! 杏実ちゃんも出るみたいだし!」
少し顔を紅くしながら一気に言い切る千波を前に、俺は少し驚く。
(まさか互いに探しあってただけじゃなく、探している理由まで一緒とは)
そんな驚きを覚えつつ、俺も返すように口を開く。
「うちのクラスと千波のとこの試合なら、絶対見に行くよ。それと……俺のサッカー試合も見にきてくれないか?」
「えっ、あっ、うん、もちろん!」
千波にしては珍しくかなり慌てた様子で俺の言葉に返事をすると、隣にいた彩陽さんが千波に声をかける。
「千波ちゃん、私達一試合目からあるからもうそろそろ行かないと」
「あっ、そうだった。じゃ、じゃあね、佑。……またあとで」
「うん、お互い頑張ろう」
そうして俺達は言葉を交わし、それぞれの競技場所に向かって歩き出した。
読んでいただきありがとうございました!
前期とはまた違った意味合いを持つ、この後期球技大会もぜひお楽しみください!
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