122 好きと苦手と 後編
後編です!
それから答えが出ないまま迎えた昼休み、お弁当のおかずをもそもそと口に運びながら考えていると、「いやー、まいったまいった」と口ずさみながら碧が俺の元にやってきた。
「なんかあったのか?」
とりあえず尋ねてみると、碧は苦笑いを浮かべながら答える。
「いやー、俺は足でボール扱うとか一番苦手なのに杏実に一番華があるからサッカー出てほしいって言われちゃってさー」
惚気だった。
付き合いだしてから二人とも人が変わったように堂々と見せつけてくる。
「で、どうせサッカー出るなら仲良い人と一緒にやって連携取った方が苦手な種目でもまだ活躍の余地はあるかなーと佑を誘いに来たんだが」
「…………なるほどな。いや、丁度俺もそのことで今悩んでてさ……」
一人で悩んでても全く答えが出る気配が無かったし、碧には部活見学の時に少しだけ話した覚えがあるから丁度いい、と俺はぽつぽつと碧に今の悩みを打ち明けてみることにした。
「ふーん、なるほど。まあ、佑がミスるの怖くて出れないって思うのは仕方ないと思うけど、俺みたいなサッカー苦手な奴も何人かいるだろうから気にしすぎる必要もないと思う」
「………やっぱそうかな」
俺の話を一通り聞いた後の碧の冷静な感想に納得していると、碧の後ろから小さな人影が飛び出してくるのが見えた。
「んー? 二人とも何話してるの〜?」
言いながら、碧の左肩に寄りかかるように敢えて体勢を崩して現れたのは杏実さん。可愛らしく首を斜めに傾けながらこちらを見つめている。
「ちょっ、杏実、今真面目に話してるから離れて………ったく。で、今の内容は別に杏実に話しても?」
「別にいいよ。どうせなら杏実さんからも意見を貰いたい」
碧がどうにか左肩に張り付く杏実さんを剥がして近くの椅子に座らせてから、さっき俺がした話をなぞるようにして杏実さんに話すと、杏実さんは少し首を傾げて考える素振りを見せた後に俺の方に向き直して尋ねてくる。
「佑君は正直どう思ってるの? やりたいの?やりたくないの?」
俺の悩みのど真ん中を突くような問いかけに、俺は思わず息を呑み、しばらく俯いて考えを巡らせてから口を開く。
「俺は───やりたい、とは思ってる。けど、ミスってクラスのみんなに迷惑かけたら───」
「佑君は重く考えすぎだって。だって、言っちゃえばたかが球技大会だよ? 負けてもあー悔しかったーってなるだけで今後の人生にほぼ影響しないんだからさ」
杏実さんが放ったその真っ直ぐな言葉に、俺はハッと目を見開く。確かに、俺は球技大会を大きなものとして捉えすぎていたかもしれない。
「それに、多分上手い人でもたまにはミスして迷惑かけることもあるだろうし、そこは助け合いだよ。サッカーはチームスポーツでしょ。あと───佑君がミスしても、私の碧君がカバーしてくれるから大丈夫!」
「俺は佑のフォローができるほど上手くないとか、俺はいつから杏実の物になったんだとか色々言いたいことはあるが、まあ杏実の言う通りだ」
そんな二人の言葉に、俺の心の暗い感情はみるみるうちに浄化され───残ったのは、挑戦してみたいという気持ち。
俺は少し不安も覗かせながらも明るい表情を向ける友人と、『私の碧君』なんて言ってしまったせいで勝手に頬を赤らめている『推し』の顔に交互に目を向ける。
改めて思う。俺の周りにこうして一緒に悩みに向き合い、道を示してくれる存在がいて良かったと。良い関係を持ったな、と。
「ありがとう、二人とも。……俺も、サッカーに挑むよ。…………フォロー頼むぜ、碧?」
心から二人に感謝を伝え、最後に照れ隠しの意味も含めて皮肉っぽく碧に言葉を飛ばすと、俺は大喜の元にサッカーの参加を伝えに向かった。
読んでいただきありがとうございました!
書いてる途中でここから佑が本気でサッカーの道に行くルートとかあっても面白いなぁ、と思ったり。
完結後にお遊びでやるのはありかも。
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