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推しの恋路応援前線!  作者: 赤いシャチホコ
第四章『冬』
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117 運命のバレンタイン

クライマックス(1弾)突入!!!

 ついにバレンタイン当日がやってきた。


 登校していくと、俺の下駄箱の中にチョコの包みがーなんてことはなく、何でもない普通の日のよう

に一日が始まる。

教室に入っていくと、俺の姿を視認した瞬間に杏実さんがこちらに飛んできて、小さめの紙袋を俺に手渡す。


「これ、友チョコ.....っていうか友クッキー。いつもお世話になってるからね」

「おお、ありがとう」


 もしやとは思っていたけど、やっぱり碧用のマカロン以外にも用意してたか。

 それにしても『推し』から手作りのお菓子を貰えるとは本当に幸せ者だ。ちゃんとホワイトデーにはお礼を用意しないとな。


 教室を見渡すと、全員とは言わないが杏さんとある程度の関係を持っている人は男女問わず俺と同じ紙袋を持っていた。その中には恍惚とした表情で紙袋を見つめる直紀と舜太も含まれている。どうやら二人も無事に貰えたらしい。


 杏実さん以外にもすでに何人かの女子がチョコを配っていたようで、複数のチョコを机に置いている生徒も見受けられた。

 また、何かを気にするように教室の入り口をちらちらと眺める男子も複数人見られ、流石に普段とは違った雰囲気を作り出していた。


 そして、肝心の碧はと言うと、いつも通り始業の少し前にやってきて何も気にしていないような態度で自分の席に着いた。杏実さんはまだ動かない。と、スマホが震え、メッセージを受する。送り主は杏実さん。

 メッセージを開くと、『放課後に決行!協力お願いします』とだけ届いていた。

 俺はすぐに『OK』と送り返すとスマホを閉じた。





 その後、ありがたいことに俺は休み時間に友香梨さんを筆頭とした女子数人からも義理チョコを貰った。

非常にありがたいのだけれど、肝心の千波が姿を現さないので少し気持ちが彼女達を向ききらないのが少し申し訳ない。

 今回のバレンタインで俺にとって一番重要なのは千波からチョコを貰えるか否か。それ次第で今後の動き方も変わってくるのだが…………。

 と、気を揉んでいると、昼休みを迎えた直後に待ち続けた時が訪れた。


「あ……佑、ちょっと」


 耳に残る美しい声が聞こえ、廊下を見ると千波、そして彩陽さんが立っていた。


「これ、バレンタイン。いつもありがとう」

「はい、私からも〜」


 千波からはおそらく手作りと思われるチョコを、彩陽さんからは市販の少し良いチョコレートを手渡される。


「じゃ、じゃあね」


 俺にチョコを渡すと、千波は足早に去っていく。それを追いかけるようにして彩陽さんも動き出す───と見せかけて一瞬俺の方に顔を寄せる。


「千波ちゃん、それ作るの地味に苦戦してて可愛かったよ。あと、めっちゃ頑張ってたから味わってあげて」


 それだけ伝えると、彩陽さんは駆け足で千波のことを追いかけにいく。

 それを見届けると、俺は千波から渡された包みを大事に抱いて自分の席に戻った。



 そして、そわそわとしながら午後の授業を耐え抜き、迎えた放課後。

 他の生徒が部活へ、家へと向かう中、直紀に協力してもらって他の人が教室からいなくなるまでどうにか碧を教室に留めてもらう。

 その間に俺は教室を出て少しの所で杏実さんと向き合い、ド緊張している杏実さんに声をかける。


「頑張れ」


 俺がかけるのはその一言のみ。それ以外の言葉は、余計に杏実さんを緊張させる結果になるのは火を見るよりも明らかな上、杏実さんの恋愛観に足を突っ込むことになる。

 故に、ここが他人が───俺が踏み込める最前線。

 ここよりも先は、当人達だけの世界だ。


「──────うん、よし」


 杏実さんが自分の頬を軽く叩き、決意の灯った目で前を見据える。

 それを合図に、俺は直紀に電話をかけて教室から退出させる。


 直紀が教室から出てくると、ゆっくりと杏実さんが息を吐く。

 戻ってきた直紀が杏実さんの背中を優しく叩くと、他の人がこの教室に近づかないように人払いをしていた舜太も駆け寄り、同じようにする。

 最後に、俺も優しく背中を叩くと、再度呟く。


「頑張れ」


 杏実さんが小さく頷くと、ゆっくりとした足取りで前に進み、碧が待つ教室の扉を開いた。






「……碧君」


 杏実が扉を開いて呟くと、窓の外をぼうっと眺めていた碧の顔が一気に扉を向く。


「杏実。どした?」


 碧が何も気にしていない風に見せかけながら尋ねる。


「今日、何の日か知ってる?」

「……バレンタイン、だよな」


 杏実の問いに対してすぐに碧が答えると、杏実は後ろに隠していた手を前に差し出し、一つの包みを前に掲げる。


「これ…………碧君、に」

「え、くれるの?」

「うん。…………だけど、その前に、一ついい?」


 激励されたとはいえどうしても緊張は拭いきれず、少しずつ言葉を途切れさせながら杏実が言葉を紡いでいく。


「私が階段から落ちて、それを碧君が支えてくれたの覚えてる? 私、あれがきっかけで、碧君のこと気にするようになって、どんどん碧君の優しさに気づいていって……。そんなところが…………そんなところが、気づいたら、好きに、なってました」


「──────」


 顔を染め、詰まりながらも想いを形にしていく杏実のことを、碧は優しく見つめる。


「──────本当に、大好きです。私と、付き合ってください」


 夕焼けが差し込む中、言葉が響き、潤んだ瞳が立ち尽くす碧をまっすぐに貫いていた。

ついに口にした言葉。その行方は。

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