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推しの恋路応援前線!  作者: 赤いシャチホコ
第四章『冬』
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116 試作(食)会

バレンタイン直前回!

よろしくお願いします!

 バレンタインまであと一週間と迫った今日この頃、休日の部活を終えてスマホを見ると、丁度数分前に杏実さんからメッセージが届いていた。


『今から私の家来れる?』


 目を飛び込んできたその文言に思わず心拍が速まる。が、相手は杏実さん。深い意味は無いと自分に言い聞かせ、冷静さを取り戻す。

 このタイミングでの俺への用事となると十中八九、いや確実にバレンタイン関連だろう。

 いや、それにしても異性に対して気軽にああいう文章を送りつけるのはいかがなものか。相手が俺だったから良いものの、下手をしたら好意があると勘違いされるぞ。まあ恐らくそういった考えが頭から抜けるくらいには俺が杏実さんから信頼されているということなんだろうけど。


 俺が『部活が終わった所だからこのままの服装で良いならすぐに行ける』と返信すると、可愛い動物が『ノープロブレム!』と叫んでいるスタンプが送られてきた。

 なので、俺は入念に体を汗拭きシートで拭いてから帰路とは真逆である杏実の家へと向かって自転車を漕ぎ始めた。




 十数分後、俺は無事に「三柴」と書かれた表札の前に辿り着いた。杏実さんの家を訪れたのはお見舞いの時とクリスマスの時の二回だけで、どちらも碧にさん如何してもらっていたからちゃんと着けるか不安だったが、意外とどうにかなった。


 インターホンを鳴らすと、「はーい!」と聞き慣れた明るい声が聞こえ、すぐに扉が開く。

 開いた扉の先にいたのは、少し大きめのサイズのトレーナーシャツをラフに着て、その上からエプロンを纏った杏実さん。

 普段とは違った『推し』の装いに思わず心がときめく。

 が、それをゆっくり堪能しているとただの不審者なので、俺は大人しく杏実さんに招かれるままに家へと上がらせてもらい、そのままキッチンへと連れていかれた。


 キッチンを見ると様々な道具が並んでおり、砂糖か小麦粉か何かと見られる粉末が溢れた跡も見つかり、ついさっきまで杏実さんがお菓子作りに励んでいた事が見て取れた。

 俺がそれらを眺めて感心していると、少し散らかっていたシンクを片付けながら杏実が俺に話しかける。


「急に連絡してごめんね。前にバレンタイン用のお菓子試食をお願いするって言ったのに、こんな慌ただしい感じになっちゃって」


 やはり予想通り、バレンタイン関連で俺は呼ばれたらしい。


「試食してほしいって話だったけど、食べて感想伝えればいいんだよね?」


 念の為の確認として尋ねると、杏実さんはこくりと首を縦に振る。


「うん。感想聞いたらそれを元に私が調整するから。……じゃ、早速………これ、食べて」


 杏実さんがキッチンから一枚の小皿を持ってきて俺の前に置く。小皿の上には、薄茶色の可愛らしいフォルムのお菓子───マカロン。恐らくチョコレート味。


「え、これ手作り?」

「もちろん!」


 あまりにも見事な出来栄えに思わず訊くと、元気な声が返ってくる。へぇ、マカロンって一人の女子高生が作れるようなものなのか…………すごいな。


「じゃ、いただきます」


 呟き、小皿からマカロンを取ると軽く齧る、と言ってもマカロンは一つが小さいので軽い一口でもおよそ半分は口の中に入ってしまった。

 マカロンは口の中に入ると、外側のさっくりとした軽い食感と内側のねっとりとした食感が混ざり合い、独特な印象を口の中に残す。また、同時にチョコレートの甘い風味が大きく広がる。


「うん、美味しいよ!」


 とりあえず感じたことをそのままに伝えると、杏実さんは嬉しそうに笑い、「何か気になることとかない?些細なことでもいいから」と尋ねる。

 正直な所、このマカロンは非常に完成度が高くて普通にお店に出すこともできるような出来栄えに思える。だが、今回の目的はあくまでも売り物にすることではなくて碧の好みに合ったお菓子を作ること。そういう点で見ると──────。


「ちょっと甘みが強いかも。俺や碧はもうちょっと控えめな方が好きかな」

「わかった! じゃあその辺に座ってちょっと待ってて!」


 俺のコメントを聞くや否や、杏実は急ぎ足でキッチンへと向かい、作業を始める。どうやら今の意見をすぐにフィードバックして新たにマカロンを作るらしい。

 俺はその間特にすることもないので杏実さんの作業を少し見守ったり、家の内装を眺めたりしていると、手を動かしながら杏実さんがこちらに話しかけにくる。


「今日の佑君の格好かっこいいね。なんかスポーツマンって感じで」


 俺の今の服装は、部活の後にそのままここに来たので上は部活で買ったパーカー、下は学校指定のジャージ、腕には卓球シューズの入った袋。

 確かにスポーツマンに見えなくもないが、そうかっこいいという程のものでもないだろう。ただ、こうした格好を褒められるのは滅多に無いのでお世辞や社交辞令かもしれないがとりあえずありがたく受け取っておく。しかも『推し』からそれを貰えたというのがなんとも嬉しい。


 そうこうしているうちに時間は進み、改良されたマカロンが焼き上がった。

 少し冷ました後に杏実さんが俺の前に小皿を持ってくる。

 俺はそれをありがたくいただき、今度も軽く齧る。

 すると、焼きたてもいうこともあってかさっきよりもさっくりとした感触が強く表れる。そして、肝心の味はというと、甘すぎず甘みを抑えすぎずという絶妙な塩梅を保っていた。


「すごいよ杏実さん! さっきのよりも俺はこっちの方が好き!」


 思わず声を大きくして言うと、杏実さんが大きく顔を緩める。


「これなら、碧君も気に入ってくれるかな?」

「間違いないよ!」


 俺が太鼓判を押すと、再び杏実さんは満開の笑顔を覗かせた。


(正直、この笑顔だけで碧を落とせる気がするんだが……)


 そんな事を思いながら、笑顔で片付けを始める杏実さんに目をやり、来たるバレンタインに思いを馳せた。

読んでいただきありがとうございました!


マカロン・・・「大切な人」を表す贈り物


読んでみて少しでもいいなと思ってくれたら、感想やブックマーク、評価などいただけると嬉しいです!励みになります!

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