表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しの恋路応援前線!  作者: 赤いシャチホコ
第四章『冬』
133/160

114 千波の苦悩

前回の杏実パートで軽く布石打っといたので、それを回収します。千波パートです。

 おかしい。


 おかしい。


 絶対におかしい。


 前はこうじゃなかったのに。


 心中で悲痛に呟きながら、私は眼前の『想い人』を見つめる。

 学校の昇降口、佑の周りには友人と思わしき人は見当たらず、外履きの靴から校内用のスリッパに履き替えているだけで特に何をしているわけでも無さそうだから話しかけに行きたいのに、足が固まってしまって佑までのあと数メートルの距離を縮められない。

 私が動こうとしない足を叱咤しているうちに、佑はすっかり履き物を履き替えて教室の方へと歩いて行ってしまった。


 どうして私は……っ……………。








 先週のこと、朝起きると何となく喉の痛みと軽い気だるさを感じて念の為体温を測ると、やや発熱していた。

 けれど、平熱のせいぜい一度上程度の軽いものだったし、学年末テストに向けて授業も佳境に入っていたので休みたくなかったという理由で、私はマスクを着用して学校に向かった。金曜日だったから、少し悪化しても土日で充分休める、という考えも登校を後押しした。

 でも、それは甘い考えで、学校に向かったのは間違いだった。そう気づかされた。



 朝、登校してすぐの頃に佑に話しかけられた時はまだ良かった。軽く咳は出たけれど、風邪の症状は本当に軽いもので佑や友人と談笑する余裕さえあった。

 なのに、時間が進むにつれて段々と体が重く、だるくなっていき、昼食のお弁当は半分ほど残してしまった。

 それ以降、私の体調はどんどん悪化の道を辿り、体を蝕んでいった。特に最後の授業の時には強い寒気が私を襲い、体を縮めこませてどうにか耐えるので精一杯で授業の内容は一欠片も頭に入っていない。



 そして放課後、ここが最大の分かれ道だったと今思い返してみて思う。


 重い体を引きずってどうにか駐輪場に辿り着くと、私の不調に一目で気づいた佑に心配され、帰らずに両親の仕事が終わるまで学校に残るという提案までされたのに、私は佑に弱っているところを見せたくないと強がってそれを断って自転車に乗った。

 これが最大の過ちだった。


 一度スピードが出さえすればあとは軽く足を動かすだけで私の事を運んでくれる自転車のおかげで帰路の半分くらいは案外普通に帰れた。頭痛やだるさはどんどん強まっているという実感はあったけれど、どうにか耐え切れると信じていた。

 でもそんな淡い希望は一つの信号機に断ち切られた。


 下校中、私の前をゆっくり進み、時々私の方を心配そうに見る佑の視界が赤信号を捉えて停止する。それに続いて私もスピードを落とし、足を地面につけた───その瞬間、それまでに無かった猛烈な頭痛と眩暈が私を襲い、いとも簡単に私の意識を奪った。

 倒れゆく体を本来支えるはずの足ももはや力が入っておらず、視界が回る感覚を味わいながら、私の意識は闇に吸われていった。

 それ以降の記憶は少し飛んでいる。


 お父さん伝てで聞いた話によると、どうにも佑の家に一旦運び込まれた後に佑から解熱剤を受け取って自分で飲んだらしいけど覚えていない。そもそもどうやって私は意識を失った地点から佑の家に移動したのかも覚えていない、というか知らない。


 けれど、そんな中でただ一つはっきりと覚えていることがある。

 それは、一瞬だけふと目が覚めた時に感じた手の温もりと、優しい声。

 動かない頭をどうにか少し傾けて私の右手を見ると、私の手の上には、男の子の割には少し小さくて、でもごつごつしていて男の子なんだ、って思わせてくれる、冬の乾燥した空気で少しカサついている佑の手が重ねられていた。そして、時折誰も何も言っていないのに「大丈夫だよ」と優しく語りかける声も聞こえた。

 それにすっかり安心してまた眠りにつくと、次に気がついた時には寝慣れたベッドの上だったけれど、不思議に思うほど右手には温もりが、耳には声が残り続けていた。



 それから土日を挟み、月曜日も熱が下がり切っていなかったから学校を休んだ。

 その間、どうしてもベッドに寝転んでいるだけでは退屈で、自然と佑の事を考えるようになった。


 今回の件で、一体どれだけ佑に迷惑をかけたのだろうか。

 自分を過信し、強がった結果招いた惨劇の尻拭いのほとんどを佑に押し付けてしまった。

 自責の念に押され、今までも心の片隅で思っていた「私は佑の隣に相応わしくないんじゃないか」という考えが強まる。

 しかし、それと同時に今回の一件を通して改めて、いやこれまで以上に佑への強い気持ちを自覚している部分もあった。


 相反するそれらを抱え、悩み続けている結果が、今の佑を視界に捉えながらも近づいて話しかけれないという悲しい現状の正体。

 さらに、本人に話しかけれないのはまだしも、杏実ちゃんとの会話をする中で「佑」というワードが出てくるたびに愛おしさと罪悪感が溢れ出して固まってしまう、という不具合が私の中で見つかってしまった。

 バレンタインも近づいているのにこんな状態じゃとてもチョコを渡すなんてできないよ…………。


 結局、今日も何度か佑の姿を見かけても話しかけることはできずに一日が終わってしまった。

読んでいただきありがとうございました!


バレンタインという女の子のお祭りが近づく関係で、今後はしばらく女子キャラ視点の比率が増すかもしれませんとだけ伝えておきます。


読んでみて少しでもいいなと思ってくれたら、感想やブックマーク、評価などいただけると嬉しいです!励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ