110 雪
冬といえば外せない雪回!
よろしくお願いします!
「うっそ、まじかよ……!」
雪がはらはらと舞う中を碧と二人で帰ってから一夜。
目覚めてから普段とは違った寒さを感じ、窓の外を眺めると、そこには一面の銀世界が広がっており、思わず声が漏れた。
基本的に冬場はたまには雪が降ってもそれほど積もる地域ではなく、今回も三〜五センチほど積もっただけ。しかしそれだけでもテンションが上がる───とはならないのが高校生だ。むしろ、登校が大変じゃないかどうしてくれるんだこの野郎、といった具合である。
朝食を摂る前に一度外に出て、自転車で登校できるかどうかを確かめると、思ったよりも地面が凍っていて自転車での登校は危険だと判断。
両親は朝早くから仕事に行っていて車は使えないので、必然的に俺は歩いて学校に向かう事を強いられることとなる。
徒歩での登校となると到着までに一時間は見積もっておいた方が良いはずだが、時計を見ると既に七時を回っていた。始業の八時半に間に合わせるには朝食をまともに摂るのは諦め、パンを片手に携えながらすぐにでも出発する必要がある。
というか、自転車で登校している人の中には俺よりも学校までの距離が長い人が大勢いるはず。それに加えてこの雪では電車が平常通りに動いているかも不透明だが、普段から電車で登校している人達は果たして今日学校に来れるのだろうか。
少し考えただけで様々な疑問が浮かび上がり、最終的には「今日学校あるのか?」というところにまで辿り着いた。
すると、丁度そのタイミングでスマホが震え、メールの受信を知らせる。送られてきたそれを反射的に開くと、そこにはつい先程俺の中に生まれた疑問の答えの全てが記されていた。
『生徒、職員の住む地域の多くで積雪が見られますが、公共交通機関の遅れは微々たるもので登校にさしたる影響は無いとして本日の授業は行います。ただし、路面の凍結等で登校に時間がかかる生徒もいる事を考慮して始業を一時間遅らせる事としますので、焦らず怪我に気をつけて登校してください』
なるほど、つまり俺のような自転車で登校できない生徒にもきちんと配慮されているわけだ。学校側の判断に感謝しなければな、と思いながら急いで登校の準備をしようとしていた体を留め、代わりに朝食の準備に取り掛かった。
それから三十分後、無事にいつも通りの朝食を終えた俺は制服に着替え、その上からダウンジャケットを羽織り、手袋まで装着して完全防寒態勢を取って学校に向けて出発した。
流石に雪用ブーツなんて物は持っておらず、この路面のコンディションでも普段履きの靴を履いていて滑りやすいので一歩一歩慎重に踏み締めて歩いていると、後ろから軽いクラクションの音がした。
振り返ると、一台の白い車が路肩に寄せてきていた。その時点では、なんだか見覚えのある車だな、程度のものだったが、その車の後部座席の窓から覗いた顔を見て俺の感情は驚きに振れる。
「えっ、千波?!」
「佑、歩いていくの大変でしょ。お父さんが乗ってけって」
ということはこの車は祐市さんの車か。道理で見覚えがあるわけだ。
でも本当に乗せてもらっていいのだろうか、と路傍で少し迷っていると、車から降りてきた千波に腕を引かれて俺は車に乗り込んだ。
祐市さんの厚意のおかげで予定よりも早い学校に着き、千波と談笑しながら校舎に入る。
談笑の内容は「絶対杏実さん雪の日ってだけでテンション高いよね」といったものである。
そして、教室に入る所で千波と別れ、通い慣れた一年九組の教室に入ると、さっきまで千波と話していた事が完全に的を射ていたということが証明された。
「あ、佑君おはよ! 雪だよ! すごいね!!」
教室に足を踏み入れた途端、目をキラキラと輝かせた杏実さんが寄ってきて話しかけてくる。『推し』と積極的に関われるのは普通に嬉しいが、今日は少しテンションが振り切れていて思わず適当に受け流す対処を取ってしまう。
先に教室に来ていた碧や直紀によると、今日はずっとこんなテンションらしい。
俺が登校してからしばらくすると先生がやってきて授業が始まるが、先生も含めてなんとなくみんな少し浮き足立っていてふわっとした感じで一日の授業が終わった。
流石に帰りは仕事から帰ってきているはずの親を頼ろうと思い連絡すると、迎えにきてくれることになったので校門の付近で突っ立っていると、足元にボフンと何かが落ちてきたような音がした。
なんだろうと振り返ると、何かを投げた後のような体勢をしている杏実さんの姿があった。その姿をじっと見つめてやると、地面の雪に手を伸ばしながら杏実さんが少し大きく声を上げる。
「佑君親待ちで暇でしょ? 雪合戦しよーよ!」
そう言いながら先手を打って先に作っていた雪玉をこちらに投げつけるが、その軌道は俺の頭の上を超えて飛んでいく。そういえば杏実さん、物を投げるって行為が下手だっけ。これ、俺明らかに有利じゃね?
とりあえず適当に雪玉を作って投げると、雪玉を作るのに夢中になっていた杏実さんの肩に命中。慌てて投げ返すが俺には当たらず、代わりに帰宅しようとしていた舜太に当たり、舜太も戦いに参戦する、
それを皮切りに、近くにいたクラスメイトが次々と参戦して大雪合戦大会に発展。
迎えにきた親に微笑ましい視線を向けられるのだった。
読んでいただきありがとうございました!
もう雪合戦なんて何年もやってないなぁ、も思いつつ書きました笑
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