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推しの恋路応援前線!  作者: 赤いシャチホコ
第四章『冬』
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106 ゆく年くる年

 ようやく、年が変わりますよ

 クリスマスが終わると、世間は恐ろしい速さで模様替えが行われた。赤と緑の煌びやかな飾りと陽気な音楽は早々と撤去され、代わりに『和』を感じさせる装飾と音楽が姿を現した。

 そんな慌ただしさを目の当たりにした俺は、師が走るとはよく言ったものだ、といった感想を抱く。同時に、今年もこの時期がやってきたのか、という妙な感慨深さも姿を見せる。


 毎年、この時期になると俺は父親の帰省に付き合って県外の少し離れた地域に住んでいる祖母の家に赴き、そこでゆっくりと年末年始を過ごしていた。もちろん今年も例年通りそうするつもりだったのだが───。


「え、まじで? 婆ちゃんインフル?!」


 どうにも今回の年末年始は住み慣れたこの町で過ごすことになるようだ。



 そして数日が経ち、大晦日。

 例年通りなら今頃は高速道路を車で走っている頃だろうかとなんとなく思い浮かべながらスマホを操作して碧にメッセージを送る。内容は初詣のお誘い。珍しく俺がこっちで年を越すから、折角なら友達と思い出を作ってやろうという魂胆である。が、悲しいかな、碧から返ってきた返事は「ノー」。どうやら既に中学時代の友人と約束をしてしまったらしい。まあそれなら仕方がないよな。


 住んでいる地域的に、碧の他に初詣に誘う相手がいるとするなら千波くらいだが…………千波を誘うのはやめておこう。

 千波の性格を考えると、碧と同じように先約が入ってない限りは断られない気がするが、もし仮に正当な理由だとしても千波に断られると、今年の最後の最後にダメージを負う可能性がある。ただでさえ碧に振られて少し気持ちがしょげているのに、千波にまで断られると普通にキツい。

 あと、一年の始まりのおめでたい日とはいえ、初詣のために神社に行くのは年が明けてからすぐ、或いは年が明ける少し前からのド深夜のはずで、そんな時間に女の子に外を歩かせるのは良くないし。うん、その線で行こう。

 といった感じで自分のヘタレさを正当化し、おとなしく一人で初詣に向かう事に決めた。どうせ地元のそこまで大きくない神社だし、少しは中学時代の友達とか来てそうだしな。




 そして数時間後。

 音楽番組を見ながら「流行りの曲は分からん」とぼやく父親に俺が分かる範囲で解説をしているうちに時計の針はどんどん進み、気づけば今年も残り三十分。

 そろそろ神社に向かってみるか。


 それまで着ていた厚手のトレーナーの上からダウンジャケットを羽織り、しっかりと防寒をしてから外に出て、しばらく歩くとガヤガヤと人の声が聞こえてきた。顔を上げると、目の前には立派な鳥居が鎮座していた。

 一礼してから鳥居をくぐり、境内に足を踏み入れると早々に明るい声が寄ってきた。


「あ、やっぱり佑か! 久しぶり」


 寄ってきたのは中三の頃のクラスメイト達のグループ。他のクラスだった人達の他に、完全に見覚えの無い顔が混じっているのを見ると、彼らは元クラスメイトの新たな友達なのだろう。

 たまたまこうして出会えたのも何かの縁だと思い、しばらくの間行動を共にすることにした。


 グループの中心人物となっている友人が振る話題に対して誰かが反応し、それに他の人も口を出し、たまに俺も口を挟み、といった感じで年が変わるまでの少しの時間を楽しみながら歩いていると、不意に誰かが声を上げた。


「うわ、あの子すごい美人」

「あーほんとだ。めっちゃ可愛い」


 どうやらどこかにとても顔立ちの整った子がいたらしい。生憎と、俺はそう言う彼らの視線を辿るのに失敗したせいでその姿を見つけられていないが。

 頑張って友人達の見ている方向に目を凝らしていると、急に誰かが爆弾発言を突っ込んでくる。


「てか、あの美人さん俺らの代の生徒会やってた杉山千波さんじゃね?」


 千波の名前が出た瞬間、分かりやすく自分の心臓が大きく跳ねるのを自覚した。

 そしてそれと同時に、友人達が見ている人物と思われる姿をようやく捉えた。

 大きめの黒のコートを羽織っている少し背が高い女の子。後ろを向いているから顔は見えないが、確かに千波の特徴と一致してはいる。しかしこの地域には結構神社が多いし、家が比較的近いからと言って初詣の神社が被る可能性はそこまで高くないはずだ。まさか本当に千波なわけが……。

 そう思っていると、背後から「ゴーン、ゴーン」と力強い音が聞こえてきた。間も無く年越しということで除夜の鐘が突かれ始めたのだ。

 一瞬振り返ってからすぐに前を向き直ると、黒コートの人物が鐘の音に釣られて振り返っていた。振り返ったことで丸見えになった顔は、俺の記憶の中の千波の顔と完全に一致した。


 年の最後の最後でやってきた巡り合わせに驚き固まっていると、少し目線を落とした千波が俺に気づき、同じように固まる。


 少しの距離が空いた状態で固まり合う俺と千波の間を、除夜の鐘だけが通り過ぎていった。

読んでいただきありがとうございました!

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