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推しの恋路応援前線!  作者: 赤いシャチホコ
第四章『冬』
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95 聖夜の予定

前回から一応『冬』が始まりましたが、周年記念の過去話だったので今回が実質新章の第一話になります!

よろしくお願いします!

 後期中間テストを終え、教室にはすっかり賑わいが戻ってきた。

 休み時間にはひっきりなしに様々な声が飛び交っている。その声の内容のほとんどは次々と返却されているテストの結果について。そして──────半月後に迫っている聖夜(クリスマス)について。


 どこでパーティーしよう、とか、プレゼントは何にしようか、といった声を聞き、陽の人達はイベント毎に盛り上がれて良いな、と少し羨ましく思う。

 今年こそ杏実さん達に引っ張られて色んなイベントと触れ合ってきたが、陰と言う程暗くなくても陽と言う程明るくもないと自負している俺は基本的にはあまりイベント毎には縁が無いのだ。クリスマスだと、親が買ってきたチキンとケーキを食べるくらいか。


 教室の会話を耳に挟みながら手元の本に目を落とし、読んでいるふりをしながらそんな事を考えていると、俺の名前を呼ぶ鈴のような声が聞こえた。

 反射的に顔を上げると、視界に『推し(杏実さん)』が映った。クラス内が聖夜の話題で盛り上がっているこのタイミングで杏実さんが俺の所に話に来ると言う事は、もしや……………。


「えっと……佑君。どうやったら碧君をクリスマスパーティーに誘えるかな……?」


 やっぱりか。イベント好きかつ最近行動力が高い杏実さんなら絶対に碧を誘おうとするだろうと考えていたところだった。


「どうやったらも何も、普通に「クリスマスパーティーやるから来て」って言えば来てくれると思うよ。碧だし」


 緊張した面持ちで俺の顔を見つめる杏実さんにそう返すと、少し強張った声で杏実さんが言う。


「それは分かってるけど……もし断られちゃったらって思うと……」

「大丈夫だよ。碧に今彼女とかが居ないのは確認済みだし、家族との特別な用事が無い限りは杏実さんの誘いに乗ってくれるよ。頑張って」


 俺が出来るのはこうやって少し背中を押すだけ。

 だけど、この少しの後押しがあれば、杏実さんは踏み出してしまうのだ。


「うん、そうだよね……。……よし! 私、碧君の所に行ってくる!」


 そう言い切ると、杏実さんは颯爽と碧の席に向かっていく。その背中を見て、俺もこの行動力は見習わないといけないな、と思った。





 数分後、杏実さんが笑顔で戻ってきた。

 碧の元に行った杏実さんは、緊張で震える手を隠すように大きく身振り手振りを用いながら、見事に碧をクリスマスパーティーに誘う事に成功したのだ。

 杏実さんが碧と話しているうちに俺の元に寄ってきた直紀と舜太と共に喝采を贈っていると、杏実さんが重々しく口を開き、思わず俺達は動きを止めた。


「その……みんなも、クリスマスパーティー来てくれない? 碧君との距離を縮めたいって気持ちはもちろんあるけど、みんなで年に一回のイベントを楽しみたいって気持ちも同じくらい大きくて……」


「……はい喜んで、としか言えないけど本当にいい?」


 一瞬の沈黙を挟んだ後に舜太が言う。俺も全く同じ事を思っていたので慌てて頷くと、隣で直紀も同じように頷く。

 すると、碧が誘いの言葉に首を縦に振った時と同じくらいの満面の笑顔を浮かべながら杏実さんが声を上げる。


「もちろん!! じゃあ、クリスマスの日のお昼に私の家ね! 他にも何人か誘おうと思ってるから、進展があったら連絡するね!」


 そして、言い終わると友香梨さんの席に駆けていき、早速クリスマスパーティーのお誘いを始めた。

 しかし、その会話は先程の杏実さんの一言の衝撃で耳に入ってこない。

 クリスマスパーティーを「『推し』の家」で?

 大丈夫、か? 俺。


 急に不安になってきて隣を見ると、同じように直紀と舜太も不安げな表情を浮かべていて、まだ当日まで半月はあるのに、俺達は慌てて当日の服装なんかを話し合い始めた。






 それから数時間後、直紀達と授業のために別の教室に移動していると、千波にばったり遭遇した。

 せっかく出会えたのだから話したいのはやまやまだったが、お互いに友達を連れていたのを考慮して軽く挨拶だけして通り過ぎようとすると、「待って!」と千波に袖を引かれた。

 千波がこんな行動に出る事はあまり無いので、何か特別な用事でもあるんだろうと思って直紀達を先に行かせると、千波の友達もそそくさと姿を消し、千波と二人きりになった。


「えっと、その………」


 二人きりになった途端、千波が何か話し始めようとするが、千波にしては珍しく口籠もっていて中々言葉が形にならない。

 少し待っていると、何度か深呼吸をして落ち着きを取り戻したようで、改めてお互いに向き合うと千波が口を開く。


「……佑って、クリスマス空いてる……?」


 その言葉を聞いた瞬間、時が止まった。

 千波がクリスマスに俺を誘ってる……?

 混乱や様々な感情が入り乱れ、心臓の鼓動が大きくなっていくのを感じる。

 

 それを感じ取ったのか、慌てた様子で千波が付け加える。


「あっ、いや、そうじゃなくて、お父さんがね! なんか日頃お世話になってるからちょっとお礼でもしたいなって! うん!」


 なるほど、それを聞くと確かに千波が俺なんかをクリスマスに誘うのも納得だ。クリスマスに異性を誘うって事はもしかして、なんて思ってしまった自分が恥ずかしい。

 謹んでその申し出をお受けしよう。

 あっ、だけどクリスマス当日はついさっきした杏実さんとの約束が……。


「……ごめん、クリスマス当日はクラスメイトと約束が……」

「じゃあイブは? イブの……夜、とか」


 俺が答えると、間髪入れずに千波が代替案を投げ込んでくる。


「そこなら……空いてる」

「分かった、ありがと。じゃあ、イブの夜に……私の家の前に来て」


 そう言うと、千波は足早にその場を立ち去り、俺は一人になった。

 胸に手を当てると、激しく胸が鳴っていた。顔も火照っているのを感じる。当然だ。最後の一言の破壊力が高すぎる。


 まさか俺がクリスマス・イブとクリスマス当日のどちらにも予定を入れる時が来るとは。しかも、片方は片想い中の女の子、もう片方は『推し』が相手と来た。

 どうしたものか。


 そんな事を考えて冷静さを取り戻そうとし、異様な胸の高鳴りと火照りが収まるまで、ひたすら廊下をぐるぐると歩き回るのだった。

読んでいただきありがとうございました!


統計的に女子の方が恋愛面の行動力は高いらしい。

そんな感じで、『冬』開幕早々にフルスロットルです!


読んでみて少しでもいいなと思ってくれたら、感想やブックマーク、評価などいただけると嬉しいです!励みになります!

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