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推しの恋路応援前線!  作者: 赤いシャチホコ
第三章『秋』
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88 電車での一件

寒波襲来で寒いですが、本編は暖かいです!暑いです!

そんな感じで88話、お願いします。

 一緒にサッカー観戦に行ってくれる人をSNSで募集したら、『想い人』(千波)から返信がやってきた。


 初めはまさかそんなことはないだろう、と目を擦ってみたり、SNSのタスクを一度切ってからまた起動したりしてみたのだが、やはり千波とのダイレクトメッセージの欄に『行きたい!』と表示されていた。どうやらこれは俺の見間違いや思い違いなんかではないようだ。

 しかし、依然として疑問は残る。千波はこんなにもスポーティー系の趣味に積極的だっただろうか。

 しばらく悩んだ末、答えが出るはずもなかったので、思い切って直接尋ねてみることにした。


『千波ってスポーツ観戦とか好きなタイプだっけ?』


 俺が送信すると、すぐにその文面の下に「既読」の二文字が浮かび上がり、ほんの少し間を置いて返信が来た。


『最近お父さんがよくテレビでサッカー観てて、一緒になって少し観てたら気になってきて。そしたら佑が募集してたからこれは良い機会だなって』


 へぇ、祐市さん、サッカー観てるのか。今度会う機会があったら話題を振ってみよう。ってそんなことよりも。千波も一緒になってサッカー観てるのか。少し意外だ。

 でもこれで千波がサッカーを観に行きたい理由も分かったし、元々千波を誘いたくて残しておいた無料券だ。断る理由が微塵も存在しない。

 俺はすぐに千波に『なるほどね。じゃあよろしく』とだけ送るとすぐに募集の投稿を削除し、そのままサッカーチームのアプリに移動。残っている席の中から観やすそうな場所を見繕い、無料券を使って購入した。




 一週間と少しが経過し、迎えたサッカー観戦当日。

 サッカーチームのエンブレムがプリントされたリュックに必要な荷物を詰め込んでいく。


 まるで遠足の前の小学生のように、前日の夜は中々寝付けず、今朝の目覚めも普段よりも早かった。なので、出かける準備をしている今の時刻はまだ午前七時を回ったところ。試合開始は午後一時、最寄り駅での千波との待ち合わせは午前十時なので、ゆっくりと準備をしていても時間が余り過ぎるほどだ。

 タンスから応援用のタオルマフラーと、観戦中に着る用のユニフォームを取り出し、リュックに入れる───もちろん、二つずつ。

 千波、楽しんでくれるといいな。



 待ち合わせの時間まで机に積んである読みかけの本でも読んで時間を潰そうと思っていたのだが、わくわくして中々落ち着かなかったので、俺は結局少し早めに家を出た。

 しかし、道中で飲み物を調達するために寄ったコンビニのお菓子コーナーで、「そういえば千波はこういったグミや飴だったらどんな物が好きなんだろうか」なんてことを真剣に考えているうちに意外と時間が経っていたので丁度良かったのかもしれない。


 待ち合わせの十分ほど前に駅に到着すると、改札の手前にスラリとスタイルが良く、清楚感のある一つの影。離れた位置から一瞬見ただけで、千波だと分かった。


「ご、ごめん、待った?」


 少しどもってしまったのは、このセリフを「カップルっぽい」と感じてしまったのと、千波の服装が可愛すぎるせい。

 ホワイトとブラウンからなる、大人っぽさと可愛さを一緒にしたようなロングワンピースに、髪には普段つけていないヘアピン。ロングワンピースの裾から少し覗く肌色の先には、歩きやすさを重視してかスニーカー。そういったチョイスまで全て含めて、コーデが完成されていた。


「ううん、大丈夫。…………楽しみで、私が早く来すぎただけだから」


 少し顔を染めながら千波が俺に言葉を返すと、その一つの仕草だけで俺の心はいとも簡単に撃ち抜かれた。

 やばい、やっぱり可愛すぎる……!

 もうこの衝動のままに告白してしまおうかという思考さえ生まれるが、今日はそういうのじゃない、サッカー観戦を楽しむ日なんだ、と邪念を振り払う。


「…………じゃあ、行こうか」


 思考が止まりそうになるのをどうにか堪え、声を絞り出して足を前に進める。後ろから千波の足音が続くのを確認してから、ICカードを改札にタッチして駅のホームに移動した。


 ホームに行くとすぐに電車がやってきたので、俺と千波は比較的空いている車内に乗り込んだ。

 適当な所に腰を下ろすと、すぐ隣に千波も腰掛ける。俺と千波の間にはおよそ五センチ程の身長差がある(知っての通り俺が低い側)が、千波の足が長いおかげで、こうして座ると目線の高さが同じになる。

 それを改めて感じた瞬間、今年の夏にこの電車で起こった事件───千波が寝言で爆弾発言をしたことを思い出してしまった。その瞬間、さっきは止まらずに済んだはずの思考が、今度は完全に停止してしまった。

 そのせいで、せっかく千波が最近家族で行ったらしいテーマパークで撮った写真を見せてくれていたのに、ただ脳死でリアクションを取ることしかできず、その内容はほとんど頭に残らなかった。


 そうこうしている間に、電車は進み、気づいたらスタジアムの最寄り駅。電車が停止し、扉が開いた時、俺達はまだ座ったままだった。

 駅の名前を呼ぶアナウンスが聞こえてようやく目的の駅に着いていることに気づいた。スタジアムに来るのが初めての千波が、ここで降りることを知っているはずもなく、降りようとする仕草を見せることはない。

 まずい、遅れた。このままだと降りれないかもしれない。


「ごめん、千波! 着いてた!」


 慌てて千波の左手を握り、状況を理解できずに困惑顔を見せる千波を連れ、少し人が増えてきた車内を抜けて扉へ。

 間に合った。


 扉をくぐると、すぐに警告音が鳴り、扉が閉まる。

 危なかった、ギリギリだった。


 そこで安堵したことで、俺の手の中にある柔らかい感触に気づいた。

 そして目線を上げると、俯きがちな整った顔が紅く染まっていた。


「ご、ごめん!」


 気づいた瞬間、俺の顔も千波と同じようになっていくのを感じ取り、慌てて手を離して顔を背けた。


 俺と千波が再起動し、駅のホームから歩みを進めたのは、数分が経った後だった。

読んでいただきありがとうございました!


書き始めるまでは今回でサッカー観戦回終わらせるぞ〜なんて意気込んでいたのに無理でした。

ここが長引くと佑側しか動かないからな……。

しっかり終わらせて杏実側に移る予定なので、杏実の恋路が早く見たい〜って方いましたらしばしお待ちください。


読んでみて少しでもいいなと思ってくれたら、感想やブックマーク、評価などいただけると嬉しいです!励みになります!

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