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閑話 フルール国王(側近視点)

「これは良いな」

 向かい側でさも満足げに表情を緩ませる御仁が1人。


 何をかくそう、このフルール国の頂点に立つシャルル5世国王陛下である。


 それが、何をのほほんと寛いでいるんだか。


「いや、そんな残念な者を見る目を向けるなよ。アンリ。前からこの馬車鉄道に乗ってみたかったんだよね。

 期待以上に速いし、揺れないし、快適じゃないか。荷物もたくさん積めるし」


 それは確かに自分も感じている事だった。

 このレールという存在と整備された街道の効果で、ものすごく快適なのだ。移動距離も稼ぐし、揺れの少なさが普通の馬車とは比較にならない。


「それにさ、アンリ。街道の両脇を見ろよ。四季咲きの薔薇が植えられてる。香水の原料に使う香りの高い品種だな」


 確かに見栄えもそこそこに良いが、それ以上に香り高い品種として知られている薔薇が咲いていて、なんとはなしに気分が華やぐ。


「こんなロジスティックの脅威みたいな馬車鉄道を開発しておいて薔薇だよ。いかにも女性らしい華やかで麗しいことをしてますの。って手で警戒されるのを緩めてるとみた。なかなか手強そうだな」


「しかも麗しいだけでなく実用的なんですよ。この薔薇は香水の材料になるので、街道沿いの村の未亡人や孤児といった生活がこころもとない民に世話をさせているそうです。街道の掃除なんかも一緒にやる人員として賃金を払っているそうですよ」


「すごいな。見た目は麗しく、中身は逞しく、か。非常に魅力的な姫様のようだな」


 その姫様をこれほど長く放置していたのはどこの誰なんだか。


「いや、多少はしょうがないだろ。国境もゴタゴタしてたし、ちょっと待っててくらいのつもりでいたらなんだか領地に移動しちゃってさー」


「宰相にしてやられたんですよ。まったく」


 あのお人も優秀な人材ではあるのだが、野心が隠しきれてないのが困ったもんだよな。


「アンジェのことだって、どうしたもんかなぁ。王子って言ってるけど、宰相の子だよね。間違いなく」


「それ以前に、王子じゃなくて王女ですよ。あなたの子であったとしてもね」


「おっ、どうしてわかった。ピンクのおくるみが似合うからか?」


「そんなことは判定基準になりません」


 男の子の方が小さいうちは死亡率が高いことから、5歳くらいになるまでは女の子の格好をさせて、健やかな成長を祈る風習がある。

 だから、王子もそれは可愛らしいプラチナブランドにアクアマリンの瞳の女の赤ちゃんに見えるのだが、見えるんじゃなくて本当に女の子なのである。


「宰相はあの子をどうするつもりなんだろうな。似た男の子を用意してすり替えるのかな?そのあと、口封じに殺しちゃおうとか考えてんじゃないだろうな?」


「その前にあなたを殺しちゃおうとか考えてるんじゃないですかね?」


「げっ、やっぱりそう思う?」


「そりゃ、ことが露見する前に邪魔なあなたを処分しておけば後はなんとでもなりますからね。実際ここのところ刺客も増えてたでしょう?」


 全く尻尾を掴ませないあたりが、さすがに宰相をつとめるだけあって有能だな、と変なところで感心してはいる。


「そうだな。あいつは有能で仕事が早いから評価したかったんだが。さすがに潮時かな」


 穏やかな微笑みのまま、すっと目が細まる。

 瞬間冷ややかなオーラが立ち昇り、背筋がぞっとする。


 喧嘩を売ってはいけない人に売ってしまった。


 宰相が優秀とはいっても、目の前の国王とはやはり器量が違う。

 このフルールを近隣国から強国といわれる国にした男。

 軍事の才は、個人の戦闘能力だけではない。むしろ上に立てば立つほど戦略や調略といった才覚がものを言う。

 宰相が有能といっても、両方兼ね備えたカリスマあふれる目の前の男を敵に回して勝てるとは思えなかった。

 できれば、早めに負けを悟って身を引けばいいのに。いや、もうそれも手遅れかな?

かの男の行く末を少しばかりの憐憫とともに思い浮かべ、そしてやむない事とさらりと他へ意識を切り替えた。


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