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ユイス公爵領3

 ーこれからは領を発展させていきたいのー


 はい、わたくしが側近中の側近達にそう語ってから、早いものでもう2年がたちました。


 あのときわたくしは、まず街道の整備をはじめとしたインフラを整えたいと主張しましたのね。

 ジョルジュ達と会議を重ねて、最初に領都と王都を結ぶ元々の街道を整備いたしました。


 道幅も思い切り広げてみましたのよ。そうね、馬車でいうと8台が並走できるくらい。

 ええ、かなり常識を覆す広さですわ。


 さらにわたくしは、ここに馬車鉄道を導入してみました。

 前世、蒸気機関車が発展するまでの一時期に馬が線路の上を走る車を引く鉄道として発明されたと習いましたの。

 通常の馬車より乗り心地もよく輸送力が大きいとして活躍したとの話でしたわ。


 なら、蒸気機関車を走らせればより良いのでは?と思われるかもしれません。


 正直魅力的だったのですが、時期尚早かと思ってやめておきました。常識外の事をしすぎて危険視されては元も子もありませんものね。



 レールを敷くのを含めて街道整備は予想外にはかどりました。街道沿いの各村から人出を募りましたの。

 丁度農閑期のよい収入になったようで、問題もあまりなく進みましたわ。

 領内の鉱山に鉄鉱石が出るものがあって、それをレールの材料として使いましたので費用がそこそこで済んだのもよろしい事でした。

 ただレールがまだ世に登場していないものでしたので、説明するのがひと苦労でしたけど。


 こうして、王都へ向かう時、逆に来る時の日数が劇的に改善した事でかなりの経済効果となりました。

 まず、馬車鉄道がですね、物資の流通と人の流れを飛躍的に向上いたしましたの。


 それまで貴族や裕福な商人、商会はそれぞれ自分達の馬車を使っておりましたけど、そこまで経済力のないものは乗合馬車や荷馬車を使っておりましたのね。さらに経済的のない者は徒歩。

 また、道中の安全を保証する為に護衛もそれなりに雇わねばなりません。勿論馬だってちゃんと休息を取らせながら進まなくてはなりません。


 この点、馬車鉄道は村や町ごとに停留所、いわゆる駅を設けて馬もスムーズに交換しますし、公爵家の事業として領軍のロジスティックに組み込む事ができましたの。


 つまり、駐屯地への物資の補給や街道整備を軍事訓練の一環として組み込みましたのね。軍の物資補給に馬車鉄道を「定期的に」動かして「頻繁だから荷物スペースに空きがあるので」ついでに物資や民間人も運びますと言った体にしましたの。

 軍隊が道中の安全を保障しているのですからそれは信頼性抜群ですわよね。

 こうしてほどほどの価格で運賃を取り、それをまた街道整備や軍隊の維持費に使い、余剰をまた領の為に投資する…

 自分でもびっくりするほど上手く回りましたわ。


 前世では根回しとか予算感の説明とかスポンサーがどれくらいゲットできるかとか、まあ本当に下準備が大変でしかもそんなに実りもしないわけでしたけど、それに比べれば今世の決定するまでの段階の早い事。

 身分ってすごい。権力者ってこわい。


 そうやってわたくしが優雅に窓辺でお茶を楽しみながら今までの事を振り返っていますと…


「姫様」

 穏やかながら、私は怒ってますというニュアンスを含ませた声がかかります。


 きたっ。


 わたくしはいつもより構えてにこやかに顔を作ってみました。

「なにかしら、マリー」

「なにかしら、ではございません」


 マリーはわたくしのことをとても大事に思ってくれる忠臣で、公の場では決してわたくしの体面を潰すことはいたしません。


 ただ、ここはわたくしの私室で、いま一緒にいるのも侍女がマリーを含めてふたり。


 はじまるわー。


「国王陛下からの王宮へのお召しをどうして拒否し続けておいでなのですか?」


 そう。ここのところずっとこの案件を巡って意見が対立しているのです。


 そもそも私がユイス領に参りましてから半年くらいたった頃でしたかしら?


 宰相から連絡が参りましたのね。

 ええ、あの、領地で待つようにという伝言なんだか沙汰なんだかを伝えてきたあの宰相ですわ。


 社交シーズンの開始に王宮で舞踏会をするから出席するように と。

 正直な心情として「けっ!」と思いましたの。


 マリーにバレたら「はしたない」とお説教されてしまいますわね。心の中で思っている分には無罪のはずですわ。


 でもですね、半年の間何も音沙汰がなかったのですよ。

 初めて来たと思えば、王宮の舞踏会への出席ですって。

 しかも、わたくしの披露目ですとかそういったことには一切触れていません。


 これはどうしたって行けません。

 これを大人しく受け入れているようでは流石に面子が丸つぶれですわね。

 舞踏会で、側妃としても公爵としても侮られて良いことなしですわ。


 そんなわけで、一応表面上は丁寧な出席辞退の連絡を入れておきました。

 詫びの品として、領で採掘した宝石と領の特産物にしようとしている絹を添えて。


 その後も、新年の祝賀会だとか、国王陛下の国境地帯からのご帰還パーティーだとかで何回かお誘いが来たのですが、そのたびにやんわりと断りの返事を出していましたの。


 そうこうしているうちに、この国の侯爵家出身の側妃殿下が王子を出産されて、その功績をもって正妃になる事が内定したという連絡が来たのが3日前ですわ。


 まぁまぁ、おめでたい事。

 ご出産と正妃冊立へのお祝いを手配しなくてはね。

 今回は何が良いかしらね〜。


 と、ぽややんと考えていたのがマリーにとってはとんでもなかったようです。


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