6・小さな騎士 その2
しっかりと子供達の洗礼を浴びたわたしだったが、特に策を練ったりといったことはしなかった。
とにかく全力で相手をし、1日だって休まない、という目標だけを掲げて孤児院へと向かった。
2日目、子供達の巧みな誘導に引っ掛かり、落とし穴に墜落。
その深さ約2M。
たった一晩でここまで掘ったのか、と感心さえした。
因みに、主犯は捕まえて
「わたし以外の人が落ちたら迷惑になるから止めなさい!」とお尻を引っぱたいた。
3日目、木登り対決。
年長組の男の子が青虫を投げつけてきて、木の上に逃走。
「おい、ヤマダ。お前なんかここまで登ってこれないだろ?男だったらここまで来てみろ」
と喧嘩を売ってきたので、
「上等だ、そこまで行ってやるから待っていなさい!」
とその子のところまで登って行った。
結局、二人分の体重に枝が耐え切れず落下。打ち身で済んだのは、不幸中の幸いだった。
その子とは「お前、なかなかやるな」とお互いに固い友情の握手を交わした。
とにかく、悪いことをした子はお尻を叩き、挑戦状をかましてくる子には全力で相手をした。
そうなると、子供は素直なもので、徐々に打ち解けていってくれているのが肌で感じられた。
わたしの言語能力も飛躍的に伸びたように思う。
師匠の言葉通り、実地で子供たちに触れる(=イタズラに本気で返す)ということはとても勉強になった。
師匠にそう言ったら、「お前も言うようになったじゃないか」と頬を思いっきりつねられた。
1週間も経った頃には、小さな女の子が
「ヤマダ、お花あげゆ」
と小さなお花を差し出してくれることさえあった。
(この時はあまりの可愛さに鼻血吹きそうになって口元を覆っていたら、マーサさんに思いっきり怪しまれたっけ。)
そんな中でも、まだまだ年長組の少年達には睨まれ、イタズラをしかけられることもしばしばで、
特にフェイトという少年だけは、いつまで経ってもこちらを敵対視しているように思えた。
※ ※ ※
「ヤマダ、おはよう」
最近は、わたしが孤児院に来ると、小さな子達が門まで迎えに来てくれるようになった。
今日はみんなでわたしに歌を教えてくれる約束をしている。
「あっ、ヤマダ。今日はダン父さんも来てるんだよ」
そう教えてくれたのは、5才になるリリアだ。
ダン父さんとは、ダン・バーンズ男爵のことである。
この孤児院への寄付に誰よりも多く貢献し、子供達の顔を見るため、3日に一度はここを訪れている。
子供達もバーンズ男爵のことを慕っており、みんな「ダン父さん」と呼んでいるのだ。
マーサさんによると、政治面に弱く没落しかけた男爵家を商いを通して立て直したやり手なのだそうだ。
バーンズ男爵は小柄で小太りな腰の低い人で、あまり商売にも向いていなさそうだと思ったが、彼の商店が扱うシルクは質が良く、貴族達の間では人気なのだ、とマーサさんが教えてくれた。
わたしも1、2度話をしたことがあるが、わたしのイメージする貴族とは違って、優しくて気さくな良い人だと感じた。
「あんなの他の貴族に媚を売ってるだけだ。あいつは俺達のことなんかちっとも考えてやしない偽善者さ」
不穏な言葉に振り向くと、バーンズ男爵を睨み付けるフェイトがいた。
彼はこの孤児院の年長組の一人で、吊り上った赤銅色の目が印象的な少年だ。
他の少年達とは一線を画して利発で小さい子達の面倒見が良く、「将来は絶対有望よ」と密かに女の子達が目をハートにして噂しているのを聞いたことがある。
その時はお人形遊びをしていたのだが、
(女の子は小さい時から女だよなぁ。)
と若干引いた。
どうもフェイトはバーンズ男爵を目の敵にしているようだ。
「そうかな。わたしには子供達が大好きでたまらない、って感じしかしないけど」
「お前には分からないよ」
反論するとギロリと睨まれた。
「じゃあ俺、剣の稽古に言ってくるから」
彼はわたしを敵対視しているくせに、こうやってきちんと報告してくるところは律儀だ。
時たまフェイトは昔に騎士をしていたお爺さんに剣の稽古を付けてもらいに行っている。
13才にしてはスジが良く、そこらのゴロツキには負けないくらいの実力があるのだそうだ。
「フェイトは将来騎士になりたいけど、それをバーンズ男爵に反対されてるんだ。
あいつ、ダン父さんに何のために騎士になりたいのかよく考えてから出直して来い、って言われたのをまだ根に持ってるみたいなんだ」
と教えてくれたのは、木登り勝負で固い友情の握手を交わしたケイン。
「なんか反抗期を迎えた父と子って感じ」
「まあね、フェイト最近ずっとイライラしてて、だから新しく来たヤマダにも当たってるんだと思う」
「友達のフォローをするなんて良い子だね。自分はイタズラっ子の悪ガキのくせに」
と頭を撫でたら
「ガキ扱いすんなよ」
ペシッとその手を払われた。
(でも、ちょっとあの目は何とかしないとな。
さて、どうするか・・・・・親子の確執を考える、ってわたしは担任の先生か!?)
と一人でノリツッコミをして百面相をするわたしを
「ヤマダがおかしい」
ケインはそう冷めた目で眺めていた。
山田はちょっとお節介焼き。
文句を言いながら、他人の世話をするタイプです。




