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少年(?)山田の胃が痛い日々  作者: 夏澄
王宮生活~応用生活編
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16・リトルレディ その2

(こちらヤマダ。只今絶賛尾行中・・・。)


「ハァッ。・・・帰りたい。」

「何言ってるの?まだ始まったばかりでしょう?」

わたしとカレンお嬢様は植木の陰に隠れて、コソコソと桃姫の様子を伺っていた。

桃姫はラズーロ王子とヒューバート様を連れてバルコニーでお茶をしている。


カレンお嬢様の質問「あの女の弱点を教えなさい!」に「弱点なんて知りませんよ。」と答えられなかったわたしは、

「では、弱点をあぶりだす為に、あの女を尾行するわよ!」

と無理やり付いて来させられたのだ。


桃姫達が仲良くお茶をする様子は微笑ましく、特に問題はなさそうだ。

ヒューバート様がケーキを切り分けて、桃姫の皿に乗せている。

(あー、美味しそう。桃姫に頼んで、今度食べさせてもらおうかな。)

わたしが羨ましくケーキを見ている横で、カレンお嬢様はキーっと桃姫の方を睨んでいた。

「あの女・・・『王の盾』というだけで、お兄様の愛情を独り占めして!あの女が来る前は、よくワタクシともお茶をしてくれたのに・・・この間なんて、お兄様が昔愛用していた剣まで与えたらしいじゃない。」


桃姫が使用している剣は女性用のもので、ディー団長が用意したもののはずだ。

(剣・・・?まさかアレのこと?)

剣と言えば思い当たるふしがある。

「あー、憤慨中すいません・・・。その剣でしたら、桃姫ではなくわたしがもらいました。」

そう自己申告をしたら、カレンお嬢様の怒りの矛先がわたしに向けられた。

「な、なんですって?貴方がお兄様の剣をもらったですって!?キーッ、お兄様ったらこんな下男にまで心を砕いていたなんて。」

怒りにかられたお嬢様が飛びかかってきて、植木がガサガサと音を立ててしまった。

気付いた王子達が「何事だ!?」と声をあげたので、とっさにニャーと猫の鳴き声を出して、お嬢様を引っ張ってその場から退散する。


(このブラコンお嬢様が!騒いだら尾行してる意味がないじゃないですか。)


見つかってはいけないので、今日のところはここまでにして、また明日同時刻に集合する旨を告げられ、わたし達は別れた。

「って、また明日もやるんですか?」

「当り前よ。あの女の弱点を暴いてお兄様に突き付ければ、きっと愛想つかしてワタクシのところに戻ってくるわ!」

どこかの浮気された本妻のようなことを言っているが、彼女はあくまでヒューバート様の妹だ。

「ひとつ確認したいんですが、お嬢様はヒューバート様の実の妹ですよね?」

「当然でしょ。何バカなこと言ってるの?こんなに似ている他人がいてたまりますか。」

(このお嬢様は、自分が重度のブラコンであるということを自覚しているのだろうか・・・。)

あのヒューバート様の桃姫への溺愛ぶりからして、この兄への依存度が高い様子のお嬢様と通ずるところがある。確かに血が繋がった兄妹だな、と感じた。


 ※ ※ ※


翌日、桃姫は家庭教師を付けての勉強に専念していた。

ずっと外にいると寒いと思ってブランケットを持って行ったのだが、寒気を感じたらしいお嬢様にブランケットは奪われた。

「薄着で来るからですよ。」

「お黙り。男だったら女性にブランケットを優しくかけるものよ。お兄様だったらそうするわ。」

クシュンとくしゃみをしたら、

「仕方ないわね。」

とブランケットの端っこを膝にかけてくれた。

貴族のお嬢様にしては優しいところがあるんだ、と感心した。


翌々日、桃姫はダンスのレッスンをしていた。

わたしは暇だったので、お嬢様の髪を結って遊んでいた。お嬢様の黒に近い藍色の髪はシルクのような手触りでありながら程良い弾力もあって触り心地が良い。

「もうすぐ舞踏会のシーズンらしいですからね。お嬢様はレッスンなさらないで大丈夫なんですか?」

「ワタクシは完璧だから、今更、練習なんてしなくて良いのよ。ヒューバートお兄様自ら教えてくださったんだから。」

フフンと鼻を高くして威張っていたが、部屋にヒューバート様が登場し、桃姫と踊りだしたときは止めるのに苦労した。

「ちょ、動かないでください!綺麗な御髪がほつれます。」

そう言うと少し耳が赤くなって動きが止まった。

大人しくしていれば可愛いお嬢様なのに、と残念に思った。



そんな感じで、今日も二人して木の陰に隠れてコソコソと桃姫を尾行中。

この尾行も本日で4日目だ。

(いい加減飽きてきた。)

わたしはじっとしていることに飽きて、地面の草をプチプチと引き抜いた。


「今の見た?あの男、ちょっと笑いかけられたくらいで赤くなって、情けない。」

(貴方のお兄様も笑いかけられたくらいでよく赤くなってますけどね。)


桃姫は王宮内の謁見の間で、ラズーロ王子とともに外国からの使者と謁見中。謁見に訪れた使者も頬を染めて桃姫の事を見つめている。桃姫の魅力は、国を超えても有効なようだ。



30分が経過したところで、カレンお嬢様に声を掛けてみた。

「お嬢様。」

「何よ。」

「こうしてじっと観察したところで弱点なんか見つからないんじゃないですか。」

(正直に言えば、もう終わりにして帰りたい。)

「そんなことないわよ。」

お嬢様はまだまだ続けるつもりのようだ。この場から動く様子は微塵もない。

(よく毎日飽きないよなぁ。)


「まったくお兄様はあんな女のどこが良いのかしら。」

「可愛くて綺麗で、優しくて性格が良いところじゃないですか?」

一般的に言われる桃姫の評価を簡単に要約してみたのだが、ギロッと睨まれたので、そこで口を閉ざす。


「ヤマダ、貴方『王の盾』の友人なんでしょ。何か弱みになるようなこと知らないの?」

「知りませんよ。それに知っていたとして、友人の弱みを教える人はいませんよ。そんなことしたら、最低の人間じゃないですか。」

「チッ。本当に使えないわね。」


(普通のお嬢様は舌打ちなんてしませんよ。)

普通のお嬢様は友達とお茶をして屋敷に閉じこもっていて、こうして自分より格下の相手と二人で尾行なんて真似したりはしないし、ましてや舌打ちなんてもっての外というのがわたしの貴族のお嬢様に対するイメージだ。

(カレンお嬢様って、普通の貴族の淑女のお友達っていなさそう。)

この4日間、カレンお嬢様を見ていてそう思った。


「何よ、その目は?何か失礼なことでも考えてるんじゃないでしょうね。」

(兄妹してエスパーか!?)

本音は言えないので、お嬢様の頭をヨシヨシと撫でた。

「お嬢様の舌打ちに衝撃を受けたなんて思ってませんからね。・・・そうだお嬢様、友達が欲しくなったらいつでも言ってくださいね。わたしがなってあげますから。」

しかし、ついつい口に出して言ってしまった。わたしの悪い癖だ。

「友達くらいいるわよ。貴方、時々ものすごく失礼ね。」

撫でたその手はペシッと払われた。


またじっと木の陰に隠れて桃姫の観察に移る。


「弱点なんてヒューバート様に突きつけたところで、あばたにえくぼで逆に愛着が増してしまうような気もするんですが・・・。」

「何ですって?」

お嬢様がわたしに飛びかかろうとしたのだが、それはわたし達の間にぬっと現れた白い幽霊のような人物に阻まれた。

「そうですよ。桃姫の弱点なんて、愛らしさが増すだけで、その輝きを損なうことはないのですよ。あぁ、今日も可愛らしい。」


「サ、サイラスさん!?」

どうしたのだろう。

いつも凛とした佇まいで、その立ち姿からして自分は神聖、自分は正義、黒いところなどどこにもありませんよー、というような人が、まるで幽霊のようではないか。

「ヤマダ、声に出ていますよ。」

「はっ。すいません、つい本音が。」

サイラスさんがわたしの頬をつねって引っ張った。


「でも、どうしたんですか?目の下に隈が出来ていますよ。」

心なしか目の瞳の輝きも色あせているように見える。


サイラスさんはじーっとこちらを見て呟いた。

「まあ、ないよりはマシでしょう。コザル、ちょっと私に付いて来なさい。」


(一体、何なのだろう?面倒事なら、わたしに絡まないで欲しいんだけど・・・。)

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