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少年(?)山田の胃が痛い日々  作者: 夏澄
王宮生活~応用生活編
43/95

13・目覚まし

ドンドンドンッ

今日も朝からあの人が家の扉を叩く。


(・・・・・起きなきゃ。)


秋が深まるにつれて段々と夜が明ける時間が遅くなり、ベッドの温もりがわたしに更なる眠りを呼びかけるのだが、わたしはその誘惑を振り切り身体を起こした。

ゆっくりと階段をあがってくる足音がする。

その人物が部屋に入ってくるまでには、さっさと着替えを済ませる。


朝のこの時間帯において、その人はヒーローではなくわたしの目覚ましだ。

少し前までは部屋に入ってきても起きたりはしなかったのだが、花祭りが終わった頃から自然と身体が目覚めるようになってしまった。

寝起きのボーっとした状態で、あの小奇麗な顔のアップを拝見したくなかったからだ。

しかも、昨日の今日ではなおさらだ。寝ぼけた頭では、自分がどんな態度を取るのか予想がつかない。


カチャッ


「起きているか?」

部屋のノブが回され、ディー団長が顔を覗かせる。

「おはようございます。」

わたしはその顔を直視しないように、ディー団長の脇を通り過ぎて訓練場へと向かった。

「今日も支度が早いな。」

昨日のことなど何もなかったかのように、ディー団長はわたしを追って横に並んで歩きだした。


こっちは昨日のことでよく眠れなかったというのに、ディー団長はいつも通りの爽やかな笑顔だ。

昨夜は、別れ際のアノ出来事が何度もフラッシュバックして、ベッドの中でうなされた。

深夜3時頃になってようやく、

(ディー団長にとってわたしは男なんだ。男が男に頬チューかますって、それはただ単にからかいたかっただけだよ。ビックリするわたしを見て、影で笑っていたに違いない!)

という考えに到達し、腹立ちまぎれに枕を殴ってようやく就寝できたのだ。


アノ出来事で寝不足気味になったわたしに謝罪して欲しいくらいだ。


「なんか機嫌が悪いんじゃないか?」

そう軽く聞いてくるディー団長を冷たく一瞥して

「べ・つ・に、機嫌なんて悪くないですよ。」

とわたしは準備運動を始めた。


その後の訓練では、ディー団長と視線は合わせず、なるべく近づかないようにした。


 ※ ※ ※



「おいおい、どうした。とうとう反抗期か?」

訓練が終了して帰ろうとしたところで、ガーランド副団長が声を掛けてきた。

「違いますよ。何ですか反抗期って。」

「だって、ずっと団長を無視してたろ。」

ガーランド副団長はこう見えて、実は周囲のことを気遣う人だ。わたしの様子がおかしいことだって、すぐに気付いたのだろう。

(ここはひとつ、ガーランド副団長に確認しておくのもいいかもしれない。)


「あの、ガーランド副団長。ちょっと相談、というか確認したいことがあるんですが・・・。」

「おう、俺でよければ何でも聞いてくれ。」

ガーランド副団長は快く応じてくれた。


「この国の人ってスキンシップ過多な気がするんです。わたしの国では、女の子は大きくなっても友達同士で手を繋いだりしてましたが、男同士で手を繋ぐなんてしてませんでした。他にも、頬や額にキスをするのは恋人同士で、他にするといったらせいぜい5~6才までの小さい子に対してでした。その辺り、どうなんでしょう?わたしはまだまだこの国の文化に疎いので、教えて欲しいのですが・・・。」


心の平安の為、恥をかかない為、この国の文化や常識は知っておくべきだ。こういうことは一人で悶々と考えても答えは出ないのだから。


「・・・・・。あのー、ヤマダ?何か男に、というかディエルゴ団長にされたのか?」

わたしの頬に一気に熱が集中し、顔から火を吹くかと思った。

それを近くで聞いていたらしいチックさんとナートさんが同時に叫んだ。

「「だんちょー!ヤマダに何したんですか!?」」


後日、ディー団長にはしばらくわたしへの接近禁止命令が3人より下された。


ガーランド副団長に、「ディー団長に家に送ってもらったついでに頬にキスされた」旨を伝えたら、

「あいつはお前を可愛い弟みたいに思っているからな。ついつい幼い子のように接してしまうんだ。今回のことは十分反省させるから、許してやってくれ。この国でも、お前くらいの年齢で男同士で手を繋いだり頬にキスしたりする文化はないからな。今度、そんな時が来たら、全力で拒否して大丈夫だ。」

と教えてくれた。


(そうか、あれはからかったわけではなく、小さい子に対するようにしただけだったんだ。)

と一応の答えは得たのでスッキリした。

それにしても、ディー団長はどこまでわたしのことを子供扱いするのだろうか。

いつか、わたしは身の回りのことは自分でできる年齢で、手を掛けないと何も出来ないような幼い子供ではないのだと認識してもらわねばならない。

そう心に刻んだ。



~ガーランド副団長side~


ヤマダが機嫌を直して訓練場を去った後、ガーランド副団長はディエルゴ団長の肩をポンッと叩いて言った。

「安心しろ、団長。俺がヤマダに上手いこと言ってやったから。」

「何を言ったんだ?」

訝しがるディエルゴ団長に、

「いくら可愛い顔をしてても、男にキスしたらいかんだろ、男に。」

ガーランド副団長はガハハと笑ってその場を去っていった。


 ※ ※ ※


接近禁止命令がなくとも、それからしばらく、わたしとディー団長は近づくことはなかった。


もともと日中は孤児院へ行ったり、バイトをしたりしていたので、ディー団長と会うのは早朝訓練のときか桃姫の部屋にわたしがいるときくらいのものだったのだ。

早朝訓練を除けば、顔を合わせないようにするのは簡単だった。


その唯一、確実にディー団長に接する機会でもある早朝訓練に、なんと桃姫が急遽参加することになったのだ。


先日のお出掛けで男達に絡まれた一件で、ずっとおびえて縮こまっていた自分が情けなくなったと言うのだ。

「桃姫には強くならなくても、たくさん守ってくれる人がいるよ。」と言ったが、

あの高台で王都を見下ろしたときに、このままの守られるだけの自分ではいけない、と自覚したそうだ。

だから強くはなれなくとも、多少は自分のことを自分で守れるようにはなりたい、と。

わたしが騎士達の早朝訓練に出ていることは知っていたので、「山田さんが一緒なら心強いわ。」と一緒に参加することになったのだ。


まあ、例に漏れず、今回も余計な人がくっ付いてきているのだが・・・。


「訓練に参加するのは久しぶりです。しばらく剣の稽古もしていなかったし、身体が鈍っていないかどうか・・・。」

そう言って訓練用の剣で素振りするヒューバート様の所作は、とても身体が鈍っている人のものではない。


ラズーロ王子はわたしと同じで朝が弱いらしく、「朝っぱらから起きていられるか!」とベッドの中で就寝中。

サイラスさんは肉体派ではないので訓練には不参加だ。

最近は教育事業の設立のため、ずっと神殿に篭っているらしいという噂だ。

真面目に仕事をするのは良いことなので、今度会うことがあったら褒めてあげよう。

きっと「バカにしないでください、コザル!」と自分の方がサルみたいに顔を赤くして怒るだろうけど、その顔を見るのも面白そうだ。絶対にやってみようと思う。


ディー団長は訓練の責任者でもあるので、桃姫がいる間はずっと桃姫にかかりきりだ。

他の人に任せて、桃姫に怪我を負わせてはいけない。剣の持ち方から、細やかに指導をしている。

そういった理由で、わたしはディー団長とほとんど接することもなく、心穏やかに訓練に参加することができている。


わたしは他の騎士達に混じって、いつも通りの日課をこなしていた。


しかし、ひとつ感想を述べても良いだろうか?


「いつの間に、みなさんそんなに爽やかになったんですか!?」


ヤマダは恋愛を意識的にも無意識的にも避けているので、ここが落ちどころです。

いつか、自分の気持ちに気付いてわたわたするような気がする。

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