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少年(?)山田の胃が痛い日々  作者: 夏澄
王宮生活~応用生活編
33/95

3・彼女とお茶を

可愛いあの人とのお茶会。

「山田さん。今回もらったお茶は香りが爽やかなんだけど、後味が甘い物なの。どうぞ飲んでみて」

そうにこやかにわたしに声を掛けてきたのは桃姫。


変化したわたしの日常のもうひとつがこれ。

桃姫とのお茶会。

わたしの誘拐事件の後から、何故か妙に懐いてきて、時々こうしてお茶に誘ってくるのだ。


あの誘拐事件は桃姫にも「人身売買の目的で誘拐された」と伝えている。

その際、何で貴族に狙われたんだろうかという鋭い突っ込みを受けたので、

「桃姫と一緒に召喚された異世界人だから、高く売れると思ったみたいだよ」

と自分なりの設定を盛り込んでみた。

一応は納得してくれたのだが、正義感の強い桃姫はそれだけでは終わらなかった。

「私と山田さんが仲が良いと分かれば、そう簡単に誘拐なんてされないよ」

と提案され、時々彼女のお茶会に参加する羽目になってしまったのだ。


一度は「そんな気を回さなくていいよ」と断ったのだが、

「私がそうしたいの!」

と押し切られる形となった。


わたしは桃姫に入れてもらったお茶を受け取り、口をつける。

桃姫が言ったように、そのお茶はハーブ系の爽やかな香りを放ちつつ、後味はすっとした嫌味のない甘さの残るものだった。

「あ、美味しい。わたしこれ好きかも」

「そう?良かった」

ウフフと笑う桃姫は、今日は水色のふんわりとしたドレスで、もうすっかりこちらの世界のお姫様といった出で立ちだ。


わたし達がお茶をしているのは桃姫の居室。

桃姫の部屋は、わたしの部屋の何倍もある広いものだった。天蓋つきの猫足ふかふかベッドに重厚な作りのクローゼット、肌触りの良いピンク色のソファー。全て桃姫に合わせて作られたかのような、いかにもなお姫様の部屋だ。

対して、わたしの部屋は、今にも底が抜けそうなベッドに壊れかけた机と椅子、小さな本棚という粗末なもの。

(わたしは寝られれば何でも良いから、特に不満には思わないけど)

普通は待遇の差がありすぎて恨んだりするのだろうが、ここまで生活水準が違うと羨む気にもなれない。


「すっかりこちらの生活に慣れたみたいだね」

「そうでもないよ。まだまだ勉強しなくちゃいけないことが多くて。それより、山田さんの方はどうなの?まだ、男のフリを続けるの?」

わたしは手に持ったカップを置いた。


「そのことなんだけどね・・・・・」


 ※ ※ ※


誘拐事件の後、わたしは師匠と今後のことについて話し合ったのだ。


「師匠、わたし流れで男のフリをしてますけど、今回の誘拐事件のことを考えても、桃姫の『王の盾』としての認知度が浸透するまでもうしばらく男のままでいるほうが良いと思うんです」


実は師匠にはわたしが女であるということはバレている。


召喚の事を聞いた際のことだ。

「お前が女って何故みんな気付かないかね。あの陣は女しか召喚できない作りになっているのに。この国には私以外、ホントに無能が多いね」

「し、師匠。知っててわたしを男扱いしてたんですか?」

驚くわたしに、

「私は男も女も基本接し方は同じだよ」

と本で頭を叩いてきたのだ。こっちはいくら師匠でもバレない方が良いのかな、とか思って気を使っていたのに・・・。

(わたしの心遣いを返せ)


「お前があの場で男ではないと否定しなかったのは良い判断だったと思うよ。召喚者が女2人となれば、政治的な亀裂も生じる。余計な混乱は避けた方がいい。なまじお前に力がある分やっかいだ」

そう師匠が言うものだから、女であることを黙っていたのだが、今回の誘拐事件の際、フェイトは子供だしまあいいかと判断したわたしは間違っていた。


あの時のフェイトの顔。

「女であり、強い力を持つお前が『王の盾』でないのは何故だ」と書いてあった。


師匠が「民の心には『王の盾』信仰と言っても良いほどの希望と信頼が根付いている」と言った意味が分かった気がした。

わたしが女であり、更に桃姫よりも強い『王の盾』としての性質があると分かれば、自然と民衆の意識はこちらに向く。

人はより強い者を望む傾向にあると思う。

今の『王の盾』が十分な力を備えていようが、わたしがそんな者になるつもりがなかろうが、それはお構いなしになるだろう。


桃姫は彼女自身として『王の盾』としての信頼を勝ち得なければいけない。

『王の盾』イコール桃姫の図式が民の心に浸透するまで、少しでもわたしは表に立たない方が良い、と思ったのだ。


師匠は

「そうだな。まだ女とバレない方が良いだろうな」

とわたしの意見に賛同してくれた。


「・・・・・それにその方が面白いし」

と意味の理解できない不穏な発言は放置しておいた。


 ※ ※ ※


「師匠によると、わたしには桃姫より劣っているとはいえ、多少の力はあるみたいなんだ。だから、女ってバレると政治的に利用してこようとする人も出てくるかもしれないから、黙っておいた方が良いだろうって。だからお願い。このままわたしは男ってことにしておいて」

と桃姫が納得できそうな理由を並べたわたしは、口止めをお願いした。


「そっか。そんなこともあるかもしれないものね」

桃姫は洗練された姿でお茶のカップを持ち上げた。桃姫はこの世界に来て、色々と教育を受けたこともあって、ますます可愛さと美しさが引き出されてきている。

(同じ女として並んだら月とスッポンどころか、月とミジンコだな)

と悲しくも思ってしまった。


「でも残念だな。山田さん、髪を伸ばしてドレスを着たらきっと可愛いのに」

「いやいやいや。何言ってるの。わたしなんて元の世界にいたときからスカートを履くのは制服の時くらいだったのに。こっちの服なんて着たらみんなに笑われるよ!」

(可愛い人に「可愛い」とか言われてもなんの慰めにもならないから)

「えぇ、そうかなぁ」

桃姫は小首をかしげてわたしを見た。


「ふふっ」

ふいに桃姫が笑いだす。

「でも私、こっちの世界に来て山田さんと仲良くお喋りできるようになって嬉しい。高校に通ってた頃から話し掛けてみたかったんだけど、山田さんいつも忙しそうにしてたから。なかなか話し掛けにくくって」

(それはそうでしょうね。あなたの火の粉のお陰で生徒会の奴らを捕まえるのに必死だったし。桃姫は桃姫で男達のバリケードが出来てたから。でも、話し掛けてみたいって思ってくれてたのは知らなかったな)

わたしは照れて、えへへっと笑った。


こんな可愛い子に「話し掛けてみたかった」と言われたなんて知れたら、男だったら学校中の男共から総スカンくらうところだ。


そこでわたしは、ハッとした。

(総スカンといえば、そろそろアイツ等が来るそうな気がする。彼らに出くわさないうちにサッサと帰ろう)


「じゃあ、わたしそろそろ」

と言って立ち上がろうとしたところで、

 コンコン

扉がノックされた。


バタンと開いた扉から最初に現れたのはラズーロ王子。後ろにサイラス神官とヒューバート宰相補佐、ディー団長が控えている。


わたしの姿を目にしたラズーロ王子が偉そうにのたまった。

「貴様、誰の許可を得てここにいる」

(開口一番それですか)


ここに彼らが現れてしまったからには仕方がない。


わたしは腰を据えて相手をしてさしあげることにした。



次回、vs逆ハーレム集団。

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