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少年(?)山田の胃が痛い日々  作者: 夏澄
王宮生活~応用生活編
31/95

1・日常プラスアルファ

花祭りが終わり、わたしの日常も少しずつ変わっていった。


ひとつは、孤児院の行き帰り。

わたしは毎日孤児院へ行っているのだが、それに護衛が加わった。この間のように、わたしが誘拐事件などに巻き込まれないように、とフェイトが付いてきてくれるようになったのだ。


(でも、この状態はいかがなものだろうか・・・)


「フェイト。送り迎えをしてくれるのは良いんだけど、どうして手を繋ぐ必要があるの」

繋がれた手を離しても、

「ヤマダが迷子にならないため」

そう言ってすぐにまた手を繋がれてしまうのだ。

わたしが迷子になるとフェイトは言うが、わたしは一度だって迷子になった覚えはない。結構物覚えは良いのだ。それに通いなれた道なので、迷子になるほうが難しい。

こんなことだから、孤児院の女の子達に腐女子な噂を立てられるのだ。


「それに、また変なことに巻き込まれたら俺が嫌だし。男の成りをしてたってお前は女なんだから、心配すんのは当たり前だろ」

そっぽ向いたフェイトの耳が赤く色づいている。

(可愛いやつめ)

フェイトなりに心配して護衛をかってでてくれているのだ。

可愛い弟が出来たようで、わたしは嬉しくなって笑顔になる。

「ありがとね。でも、やっぱり手を繋ぐ必要はないんじゃ・・・」

「気にするなよ。・・・・・・それに、牽制のためでもあるんだ」


フェイトが王宮の門の前に鋭い視線を送る。

そこには丁度外から帰ってきたらしいディー団長の姿があった。

(またそんな目をして)

フェイトはディー団長の姿を目にすると、騎士を目指す者としてライバル意識でも持ってるのか目付きが鋭くなるのだ。

 グッ

「痛い痛いっ!」

繋がれた手に力が込められた。


「ディー団長、巡回の帰りですか?」

「ああ。たまには街の様子も見ておかないとな」

普段は王宮内での仕事が多いディー団長だが、時々こうして街に出て、人々の暮らしを自分の目で見て回るのだそうだ。書面の上だけでの情報では確かなことは分からないからだ、とディー団長は言っていた。

それはとても素晴らしいことだと思う。

テレビで出てくる政治家を見るたび、上に立つ人間は偶には自分の足で歩いて世間を見る必要があると普段から思っていたが、この世界でそれを実践している人に出会えるとは思わなかった。

心の中で拍手を送る。


気付けば、ディー団長がわたしの手元をじっと見ていた。

「それより、何でお前達はいつも手を繋いでいるんだ。男同士なのに恥ずかしくはないのか」

(ディー団長機嫌でも悪いのかな)

心なしか声がいつもより低い気がするのはわたしの気のせいだろうか。


「別に。俺はヤマダが好きだから恥ずかしくなんてないですよ」

フェイトは恥ずかしげもなく、真面目にディー団長を見据えて言った。

これには驚いた。フェイトがわたしと手を繋ぐのは、半分わたしへのイヤガラセだと思っていたからだ。だって、フェイトはわたしが手を繋がれて嫌そうにするのを見ていつもニヤニヤ笑うものだから、そう思っても仕方がない。


「好きって・・・」

「本当に?嬉しいフェイト。こいつウザイと思われる覚えはあっても、まさか好かれているとは思わなかったよ。ありがとう」

わたしは嬉しさのあまり、フェイトに飛びついた。

普段、人から頼りにはされることはあっても、あまり好意を寄せられることがないわたしにとっては、ものすごい褒め言葉に聞こえた。

(しかも、フェイトから聞けるとは)

なかなか懐かなかった猫がこっちを向いて尻尾を振ってくれたみたいな気がして嬉しくなった。


「わたしも大好きだー!」

抱きつきついでに、わたしは叫んでグリグリとフェイトの胸に頭を擦りつけた。

「俺の言った意味と違う気もするけど・・・。ヤマダが言って欲しいなら、毎日でも好きだって言ってやるよ」

そうフェイトは言ってくれたが、

「いやいいよ、好きの大安売りはしなくて。大事な言葉は本当に好きな人の為に取っておきなよ」

と首を振って断りを入れた。

この時期の少年にとって「好き」という言葉は大切なもののはず。それを易々と言ってしまってはもったいない。わたしには今の一言で充分だ。


すると、フェイトはムスっとした顔で「もう俺行くから」とわたしを引き剥がして去っていった。


その後ろ姿を見送りながら首をかしげる。

「何がいけなかったんだろう?思春期の少年の気持ちは分かりづらいですね、ディー団長」

ディー団長に同意を求めると、

「お前って・・・・・。はぁっ」

何故か、ため息をつかれた。

でも、続けてクシャリと頭を撫でてきたその顔は笑っていたので、先ほど機嫌が悪いと思ったのはやっぱり気のせいだったようだ。

笑ったその顔はいつもの爽やかな笑顔だった。


「そうだ、ヤマダ。巡回のついでに菓子を買ってきたからお前にやろう」

ディー団長は脇に抱えていた紙袋を差し出してきた。

紙袋を開けると、中から香ばしい甘い匂いがわたしの鼻をくすぐった。袋の中身は、星型やハート型をした可愛らしいクッキーだった。


実はこれも、最近変化したわたしの日常のひとつだったりする。


ガーランド副団長がわたしが指定したフルーツタルトを購入してきた頃から、わたしが甘いものが好きだと知った心優しきディー団長が巡回のついでと言ってよくお菓子を買って来てくれるようになったのだ。

(仕事から帰ってきたお父さんにお土産を渡されてるみたい)

それで喜ぶわたしもわたしだが、ディー団長は本当にわたしのことを小さい子だと勘違いしてはいないだろうか。


「食べてみろ」

「ありがとうございます。では遠慮なく、いただきます」

小さい子のような扱いは不本意だが、いただけるものはいただくのがわたしの主義。

わたしはひとつを取り出して口に入れた。香ばしい甘さが口の中に広がる。


「何か言うことは?」

「美味しいです」


「・・・・・他には?」

「ありがとうございます?」

「それはさっき聞いた」


ディー団長が何を求めているのか分からないが、毎回何かを言わないといけないのだ。

お菓子をくれるのはありがたいが、こう毎回感想を求められると、語彙の少ないわたしとしては苦しいものがある。


困ったわたしは、何か他に思いつかないかと、もうひとつクッキーを出して食べてみようと紙袋に手を入れた。


次回もこんな感じで、軽い話です。

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