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少年(?)山田の胃が痛い日々  作者: 夏澄
王宮生活~花祭り編
29/95

13・打ち上げ その1

ディー団長を置いて走り出したわたしは、その目当ての人物を摑まえるために、まっすぐ騎士団の宿舎へと向かった。


 ダダダダッッ


「ガーランド副団長!!」

(見つけた!)

ガーランド副団長はそのクマのような姿でのっそりと歩いていた。


「おう、どうしたヤマダ」

わたしはガーランド副団長に掴みかかってその首を絞めた。不敬罪とか言われようとも、この怒りの前にはそんなことは知ったことではない。

「あの噂を流したのは貴方ですね!」

「いやだなヤマダ。熱烈な抱擁をされても俺は嬉しくないぞ」

ガーランド副団長がポッと頬を染める。

(頬を染めるな、頬を!)


「貴方の噂のせいで、わたしはこの身を汚されたことになってるんですよ!ディー団長まで信じて疑ってきたじゃないですか!」

「ほお、あいつまで信じたのか。いやー、俺って吟遊詩人になれるかもな」

「ならないでください!迷惑です!!」

「どれだけこの王宮内に情報伝達能力があるのか調べてみたくなってな。5日かかったか。まだまだだな」

「ふざけないでください!」

さらに締め上げると、

「スミマセンデシタ。みんながあんまり心配するんで面白可笑しく脚色してしまいマシタ」

  グッ

「・・・・・ごめん、さすがにちょっときつい」

と顔が青白くなったので、少し緩めてあげた。


「そこまでにしておけ」

後からやって来たディー団長がわたしの腕を羽交い絞めにしてガーランド副団長から引き離した。

まだ怒りの収まらないわたしは

「駄目です!まだ謝罪がすんでいません!」

とジタバタ暴れたが、ディー団長が肩周りと腰を押さえたので身動きがとれない状況になってしまった。


「落ち着け」


至近距離からディー団長の低い声が耳に届いて我に返る。振り返るとディー団長のきれいな薄茶色の瞳と目が合った。

(うぎゃー、近い、近い近い!ってこの体勢って)

後ろから抱きかかえられる形になったが、見る人が見れば抱きしめられているんじゃないか、という思考に至った時点で、先日の召喚の部屋での出来事がフラッシュバックした。


「・・・・・」


ディー団長の瞳に映ったわたしの泣き顔、背中をさすってくれたときの優しいぬくもり、その後は確か手をつないで・・・・・、そこで思考回路が停止し、プツッと電源が落ちたように動きが止まってしまった。


「ん!?」

異変に気付いてわたしの顔を覗き込むディー団長。

「おーい、ヤマダー?」

目の前でぱたぱたと手を振ってわたしの意識を確かめるガーランド副団長。


(変な噂が流れたのも、こんなにディー団長の顔が近いのも、全部ガーランド副団長のせいだ!)


「ディー団長。顔が近くて目がつぶれます」

わたしはグイッとディー団長の顔を押しのけ、無表情で淡々とガーランド副団長に要求を突きつけた。


「王都南部に流れる川に掛った大橋の傍にあるパティスリーをご存知ですか?」

「ん?ああ、最近貴族の間でも人気のあれか。長時間並んでやっと手に入るフルーツタルトが有名な」

「買ってきて下さい」

「へ!?」

「並んで買ってきて下さい!私服は許しません。騎士の制服を着て、パティスリーの列に長時間並んでみんなのさらし者になってきてください。それで謝罪とみなします」

わたしはビシッと人差し指をガーランド副団長に突き付けて言い放った。

「わ、わかった。次の休みに買ってきてやる」

わたしの剣幕におされて、ガーランド副団長はコクコクと頷くしかない。


「買ってくるまで許しませんからね!くだらない噂を信じたディー団長も同罪です。ガーランド副団長がフルーツタルトを買ってくるまで、わたしに近づかないでください!」

それを捨てゼリフとして、わたしはくるりと方向転換して走り出した。



去り際、

「おーい。ヤマダー!今度騎士団の連中で花祭りの打ち上げやるからお前も来いよ」

と強制参加の旨がわたしの背に伝えられた。


走り出すわたしには、

「め、目がつぶれるって・・・」

と地面にうずくまって、のの字を書くディー団長の姿は目に入っていなかった。




~ヤマダが去った後~


「目がつぶれるどころか、近づくなと言っていたな」

しれっと止めの一言を呟くガーランド副団長。


「・・・・・お前、次の休みはいつだ?」

「2週間後だ」

「ガーランド、今すぐ休みが欲しくはないか?」

「2週間近づかなければいいだけのことだろ。男に近づくなって言われてへこむなよ」

じとっと睨んでくるディエルゴ団長を見て、

(こいつ面白い。買ってくるのは絶対2週間後にしよう)

とガーランド副団長は密やかに思ったそうだ。


 ※ ※ ※


わたしが打ち上げの会場へと向かった時には、既に騎士達が宴会を始めているところだった。


王宮にほど近いその酒場は、質素で大雑把な見た目と反して料理と酒が美味しいと評判の店だった。

広い店内には、肩を組んで歌う者達の姿や、酒の飲み比べをするため数種類の酒を目の前に置く者の姿などが見られる。

ディー団長とガーランド副団長は奥に並んで座っており、それを他の騎士達が囲んで話が盛り上がっているようだった。ガハハというガーランド副団長の笑い声が響いている。


どこへ座ろうかと迷っていると、

「お。来た来た」

「おーい、ヤマダこっち来いよ」

そう誘ってくれたのは、若手の騎士のチックさんとナートさん。この二人はわたしと年齢が近いこともあって、色々と声を掛けて助けてくれるのだ。

二人とも酒が入って顔が少し赤らんでいる。

わたしも酒を勧められたが、この世界では成人(16才で成人)でも元の世界では未成年のため「酒は飲めませんから」と断りを入れて、果実水をもらってチビチビと飲むことにした。


「カンパーイっ」


グラスをあわせて食事を始めた。料理は評判どおり、とても美味しかった。みんな楽しそうに飲んでいる。わたしも酒は飲んでいないが、この酒場の雰囲気だけで十分酔えそうな気がする。

「今回は大変だったな。女装させられて売られそうになったって?」

「ご心配おかけしました」

「そうだぞ。みんな心配してたんだから」

よしよしと頭を撫でてくるナートさん。この人も、というかこの騎士団みんなが心配してくれたのか、と思うと、多少は自分の居場所があるのだろうか、と思えて嬉しくなる。

そう思って照れていると、チックさんが手荷物の袋をごそごそと漁り始めた。

「救護に向かった奴等は見たらしいんだけど、なかなか良かったって言ってたぞ。お前の女姿」

「わたしは指差して笑われた覚えしかないんですけど・・・」

「びっくりしただけだって。それで、俺達まだお前の女装姿見てないんだよ。ということで、はい、これ」

ポスっとわたしの頭に何かが被せられた。チックさんはそれを撫でつけ、頭を整える。

「なかなかいいじゃん」


わたしの頭に乗せられたのは背中に届くくらいの長さの黒髪のカツラだった。おまけに大きめのワンピースを上から被せられた。花柄で腰の位置にリボンが付いているピンク色のかわいらしいワンピースだ。


「おーい、みんな見てみろよ!」

立ち上がって大声で店内に呼びかけるチックさんに

「ちょっ、大きな声を出さないでください!」

とわたしは慌てて止めに入る。


「お、ヤマダか!?」

「なかなか良いじゃん」

「カワイー!こっち向いて」

次々に感想が述べられ、みんなが近づいてきて頬を突いたり、頭を撫でたりしてきた。


「俺、その格好だったら男でもオッケーよ」

「うひゃっ」

ひとりが面白がって抱きついてきた。それを皮切りに、次々と「俺も俺もー!」とふざけて抱きついてこようとする。


「や、止めて下さい!」

それをかわして、

「触らないでください!」

手を振り払って、

「いい怪訝にしろ!」

顔を足蹴にしていくうちに、わたしは段々と店の奥へと追い込まれていった。


わきわきと手を動かして近づいてくる騎士達。

(ぎゃー、捕まる!!)


もう一歩下がったところで、誰かにぶつかり、その誰かの腕がわたしの腰を捉えた。


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