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少年(?)山田の胃が痛い日々  作者: 夏澄
王宮生活~花祭り編
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5・計画

わたし達は馬車に乗せられ、しばらくの間揺られることになった。

フェイトも逃げようと頑張ってくれたのだが、街中のごみごみしたところで身動きが取れず、多勢に無勢で取り押さえられてしまったのだ。

馬車の小窓はカーテンで覆われ、手を拘束され目隠しもされていたため、どこをどう走ったのかは分からなかった。


自分の体内感覚で40分程経った頃だろうか。

到着したのは、一軒の大きなお屋敷だった。

馬車を降りたところで目隠しを外されたわたし達は玄関ホールを通り抜け、階段を上っていく。

全体を見ての感想は、「これぞ成金!」といったものだった。

調度品は大きく派手で、一つ一つは良いものなのだろうけど、下品な印象しか受けなかった。

王宮のバイト生活で色々な部屋の掃除も経験したわたしの目には、「よくここまで頑張って飾ったね」というくらいしか褒めようがないほど、この家は成金臭が漂っていた。


階段を上って廊下の一番奥、客用なのだろう小部屋に案内されてやっと手の縄を解いてもらった。

わたし達を連れてきた男達はここで離れ、出迎えた目付きの鋭い男が後を引き継ぐ。

「手荒な真似をしてすまなかったね」

ソファーの上に脂ぎった顔の中年男性が座っていた。ひどく肥満していてオシャレのためか口ひげをはやしているが、まったく似合っていない。

「そう思うのでしたら、家に帰していただけますか?」

(あ、腕に縄の跡がついてる。まったく、誰かに見られてSMの趣味があるのかとか思われたらどうしてくれるんだ。)

そう思って腕を擦る。

「まあ、そんなに急いで帰る必要はないだろう。座ってくつろいでくれたまえ」

「くつろげるわけないだろ!」

フェイトが男に掴みかかろうとしたが、あっという間に目つきの鋭い男に腕を抑え込まれた。

「落ち着いてフェイト。逆上すれば相手の思うつぼだよ」

そう言ってフェイトを落ち着かせ、二人で隣り合って、男の席の横にあるソファーに座った。


「はじめまして、ヤマダ君。噂には聞いているよ」

言っておくが、噂に上るようなことをわたしはしたつもりはない。

勝手にあちらがこっちに注目していただけのこと。

「魔女に引き取られ、王宮内で下男のような仕事をしているそうじゃなか。異世界から呼ばれたというのに、あのお姫様と違って随分酷い扱いだ」

(師匠ってば、魔女なんて言われているのか。なんて似合いなあだ名)


「ヤマダが召喚者だって!?」

フェイトが驚いて声をあげた。

(そういえばフェイトは知らないんだったな)

男はフェイトの驚きを受けてさらに悦に入ったようだった。

「そうだよ。彼は異世界からの召喚者。男とはいえ、最高級の待遇を受けても差し支えないのに。酷いと思わないかい?」

「いえ、別に」

そう答えたが、男は自分の言葉に酔いしれていて聞いてはいない。

「私はね、そんな酷い環境から君を救ってあげたいんだ。幸いなことに、君には力があるようだ」

「何故わたしに力があるとお思いに?」

「孤児院でのこと、私の配下の者が見ていて教えてくれたんだよ」

その言葉から彼がわたしを監視していたことが伺えた。

(まったく気が付かなかった)

あの時は仕方がなかったとはいえ、もう少し自分の行動を自重しようと思った。

「その力があれば次の王に取って代わることもできる。どうだい?私は君に協力を申し出ているんだよ」

(とても協力を申し出ているようには見えないけど)

男の威圧的な態度はどう見ても「協力しろ」と言っているようにしか見えない。


「協力を申し出ていただいてありがたいのですが、わたしは今の生活に十分満足しているので結構です。身の丈以上のものを欲しがると身を滅ぼす、っていうのがわたしの信条でして。出来ればこのまま帰していただけると嬉しいんですが」


「大人しくしてくれると助かるんだがね」

男の視線を受けて、わたし達の後ろにいた目つきの鋭い男がフェイトの首筋にナイフをあてがった。


「人質を取って言うこと利かせようって腹積もりですか」

「協力をさせて欲しいとお願いしているだけだよ」

どうやらわたしには「嫌だ」という選択肢は用意されていないようだ。


 ※ ※ ※


男の計画は簡単に言えば、明日の『花降り』でわたしと桃姫を対峙させ、どちらが『王の盾』に相応しいかを衆人環視の元で王たちに見せつける、というものだった。


「その場合、わたしは男ですから、力を見せたとしても民衆が怪しむのではないですか?」

と反論してみると、

「そこは対策を考え済みだよ。君には女性として表に立ってもらう。王達は君が男だと知っているかもしれないが、民衆は別だ。一度、力を見せつけて疑問を抱かせればそれで良い。後はなし崩し的に体制に疑問を持つ者が決起するだろう」

わたしにはとても上手くいくとは思えないが、何の根拠があって言っているのだろうか。

その口振りはまるで絶対に上手くいくと確信しているかのようだった。

「なに、衣装と髪さえ何とかすれば誤魔化しが効くだろうよ」


まったくずさんな計画だ。

わたしならまず人目の付くところで誘拐はしない。それだけで救出に来る人間が減るし、時間稼ぎにもなる。

そして屋敷の前で目隠しは取らない。何故なら、万が一逃げ出された際に、屋敷の特長を正確に覚えさせない為。逃げるときはそれに集中して屋敷の構造など頭に入らないからだ。

さらに重要なのは主犯は顔を見せないこと。名前を明かさないこと。これも逃げられたときに顔や名前を知られていてはつかまる可能性があるから。


この男が出来ているのは、名前を明かしていないことくらいだ。

ただこの男の場合、単に名乗るのを忘れているだけのような気もするが。


男はわたしが逃げ出さないで素直に協力するという前提で動いているようだった。

わたしが子供だと油断しているのだろう。


「計画は明日実施する。今日はよく休んでおくことだ」

そう言って男は部屋から出て行った。


次回、山田女装する、の巻き。

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