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少年(?)山田の胃が痛い日々  作者: 夏澄
王宮生活~花祭り編
17/95

1・洗い場にて

女性の多くいる職場には、噂話に花が咲く。


最近の話題はもっぱら『花祭り』についてだ。


わたしの本日の仕事場は洗濯場。

ここは女性ばかりの職場で、男がいるのは珍しい。

なので男(仮)のわたしはここのオバちゃん達に可愛がられて、よくお菓子などをもらえたりする。

みんなよく喋るので言葉の勉強になるし、王宮内の話題に事欠かないし、オヤツはゲットできるしで、わたしにとっては好きな職場の一つでもあるのだ。


今日も3日後に迎える『花祭り』の話題で持ちきりだ。

『花祭り』とは、初代『王の盾』が召喚された日を記念日として、3日間かけて行われる祭りだ。

毎年行われている祭りなのだが、今年は『王の盾』のお披露目も兼ねているので、かなり盛大に行われる予定なのだという。


初日はパレード。

例年なら年頃の娘が花冠をかぶって御輿に乗り、王都をパレードするのだが、

今年は『王の盾』である桃姫が馬車に乗り、王子と共に王都を周って民衆に顔見せを行うのだそうだ。

「今度の『王の盾』様は随分お綺麗な方だそうだから、きっとパレードも華やかだろうよ。

わたしの家は3階にあるから、顔を見るのも可能だろうし、楽しみだねぇ」


2日目は王都に露天が並ぶ。

この日は想い人がいる人は花を贈り、贈られた相手も同じ想いなら花を返すという習慣となっており、カップル発生率が高いのはこの日が一番なのだそうだ。

「私もそこで今の旦那に誘われて、結婚を決めたんだよ。ヤマダは決まった人はいないのかい?」

「わたしは特にいないので、孤児院の子供達と一緒に露天を見て回る予定です」

「あら、可愛そうに。なんならうちの娘紹介してあげようか?」

「あはは、遠慮しておきます」


3日目は『花降り』。

『花降り』とは、『王の盾』が花を降らすイベントだそうだ。

どういうことか、と尋ねると

「『王の盾』がその身に魔法を受けて花に変えて王都に降らせるんだよ。私も若い頃に見たが、それはもう荘厳で本当に美しかったよ。それがもう一度見れるなんて、夢のようだよ」

と古株のオバちゃんが教えてくれた。


「そういえば、前の『王の盾』はいないんですか?」

国王は存命しているので、そのパートナーの『王の盾』もいてもおかしくないのに、その噂を聞いたことがないなと不思議に思った。

「前の『王の盾』様は15年も前にお亡くなりになったんだよ。文字通り、王の盾となってね」

しんみりとした空気になってしまった。

15年も経つのに、前の『王の盾』はみんなに愛されていたんだ、とオバちゃん達の顔を見れば分かる。

それを見て、桃姫もみんなに愛されれば良いな、と思った。

(わたしが心配しなくても桃姫なら大丈夫そうだけど。)


「あの、2日目に子供達と露店を見て回るんですが、どこか美味しくて安いお店とかって知らないですか?貯まったたお金で子供達に何か奢ってあげようと思うんですけど」

わたしは話題を変えるために、オバちゃん達に尋ねた。

子供達に奢ってあげるというのは本当のことなので、何か良い情報が聞けたらいいなという気持ちで尋ねた。

「ああ、それなら王城の南の菓子店が安値で美味しいよ」

「それより、お腹を満たしたいなら、揚げパンはどうだい?ボリュームもあって安いから、ヤマダでもみんなに奢ることができるよ」

「じゃあ、私は―――――」

話題を変えたら、楽しい話題に喰い付きのいいオバちゃん達はすぐに気持ちを切り替えて答えてくれた。

「あー、待ってください。メモメモっ!」


それからしばらくの時間、あーだこーだと美味しくて安いお店談義が続いた。


 ※ ※ ※


『花祭り』が近付くに連れて、ディー団長も忙しくなってきているようだった。

訓練が終わればそそくさと仕事へ向かい、当日の警備等に関する最終チェックに余念がないのだ、と他の若い騎士が教えてくれた。

疲労の色が見えたが、彼は早朝訓練を欠かさず朝からわたしを起こしに来るので、

「お疲れなら、祭りが終わるまで来なくても大丈夫ですよ。わたし、何とか頑張って起きるようにしますから」

と言ったら

「子供が変な気を回すな」

とデコピンされた。


「でも警備に手を取られていたら、桃姫に花を渡すことも出来ませんね」

「あー、まあな。今だって俺も桃姫も祭りの準備に忙しくて暇がないから、当日渡すとしてもなかなか無理だろうな」

「だったら、祭りが終わってからでも花を渡したらどうですか?」

「そうだな・・・そうしてみるよ。ありがとうヤマダ」

ディー団長の笑顔が寂しそうに見えた。

(きっと、ライバルが多くて付け入る隙がないんだろうな。この人、タイミングとか読むの下手そうだし)


「そんなことより、お前は桃姫に花を渡さないのか?」

ディー団長はまだ、わたしが桃姫のことを好いていると勘違いしているようだ。

わたしは、はあっとため息を付いてそれに返す。

「あのですね。わたしは別に桃姫のことが好きなわけじゃないですよ」

「え、あれ、そうなのか?俺はてっきりお前も桃姫のことが好きなのだとばかり思っていたが」

初耳というふうに驚いているが、始めに耳を貸さなかったのはディー団長だ。

これだから、きちんと話を聞かない人は困る。

わたしはもう一度ため息を付いた。


「じゃあ他に渡す人はいないのか?」

「わたしは特に想う相手もいないので、そんな予定はないですよ。あ、でもリリアが花をくれるって約束してくれました」

「お前、意外とモテるんだな。花をもらうような相手がいたのか。それで、どんな娘なんだ?」

ディー団長は弟分がモテていることが嬉しかったのか、よしよしと頭を撫でてくる。

「興味津々のところ申し訳ありませんが・・・リリアは5歳ですよ」

「そ、それは若いな。あ、いくらお前でも幼女には手を出すなよ!」

意味の分からない釘をさされてしまった。

「幼女には手を出さないですよ」

(あんまり可愛くて、ぎゅーっとはしかねないですけどね。)


そうこうしているうちに、祭りはいよいよ明日に迫っていた。

次回からお祭りの話です。

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