7・小さな騎士 その3
さて、どうするか・・・といったところで具体的な案が出てこないので、まずはフェイトとまともに会話出来るようになるため仲良くなることにした。
とにかく話しかけ、
「フェイト、今日は天気が良いよね」
「・・・そうか?曇ってるけど」
話題を作っては振ってみて、
「フェイト、今日は剣の稽古には行くの?」
「・・・・別に。お前には関係ないだろ」
何もなくても話しかけてみた。
「やあ、フェイト」
「・・・何?」
「呼んでみただけ」
そうしたら、こいつウザイと思われたようです。
「お前、いい加減しつこい。何だよ、さっきから。用事がないなら声かけてくんなよ!」
只今、フェイトに絶賛襲われ中。
「うぎゃー。ごめん、わたしが悪かったから、それ止めて!」
しつこく構い倒すわたしにキレて、魔法で指先にビー玉サイズの氷の玉を作って飛ばしてくるフェイト。
氷の玉が当たるのをかわしてバタバタと逃げ惑うわたし。
「逃げるな!逃げたら当たらないだろ!」
「無茶を言うな、無茶を。当たったら死ぬ!攻撃されたら逃げるのは人間の本能だから!」
「安心しろ、死なない程度にやってるから」
「コラッ、平然と恐ろしいことを言わない!」
そして更なる攻撃を仕掛けられ、それを避けてと繰り返すうちに、とうとう広場の隅にまで追い込まれた。
次にどう動くか、お互いに睨み合い、膠着状態に陥った時、
そんなわたし達を見ていたリリアが、楽しく追いかけっこをしているのかと思ったらしい。
「リリアもするぅ」
と自分も火の玉を作り始めた。
この世界では魔法は普通に存在する。
特に属性がきちんと決まっているわけではなく、その人によって使いやすい魔法というのがあるのだそうだ。だからフェイトは氷でリリアは火が得意ということになる。
単純な魔法形態なら呪文などの詠唱は必要ないのだ、と師匠が言っていた。
だが、自分の思った通りの形に安定化させるためだったり、他の属性を複合させたりなどの複雑な形態ににするためには、呪文や魔方陣が必要になるのだそうだ。
今のフェイトやリリアのように魔法の素養がある者は簡単にこれくらいの魔法は使えるのだ。
だが・・・・・
「おいおい、マジかよ」
始めはマッチの火位の大きさだったものが見る間に大きくなり成長していく。
「きゃああっ」
「なに、これ!?」
リリアも予想していなかったらしい。
必死になって「消えてぇ。」と叫んでも止まりそうにないどころか、膨らんでいくばかりだ。
「バカ、魔力の暴走だ。このままじゃ暴発するぞ。誰か大人を呼んで来ないと」
それはすでにリリアと同じくらいの業火に変化し、その腕までを包み込み、今にも彼女を飲み込もうとしている。
「それじゃあ間に合わない!!」
わたしはその業火の中に無理やり手を突っ込んだ。
すると得体の知れない何かが自分の中に流れ込んでくるのを感じた。それはとてつもない違和感で、自分の本来の「生命の流れ」とでも言えばいいのか、その流れと逆行する何かだった。
(気持ち悪い。)
本当は今すぐ手を抜きたかった。
(でも・・・、)
「とまれぇぇっ!」
わたしはその流れに負けないよう、とにかく奥へと手を伸ばした。
(もっと奥へ。お願い、届いて!)
押し返してくる流れに逆らい、リリアの手を探した。
その指先が柔らかい何かに触れる。
(届いた!)
ぎゅっと握って、ひたすら止まってくれと願った。
まもなく業火は焚き火くらいの火に変わり、マッチの火程の大きさになり消滅した。
「と、止まった・・・」
リリアを見ると、今の出来事にビックリして目を丸くはしていたが、特に大きな傷は見当たらなかった。
(あ、でも少し腕に火傷してる・・・。)
「リリア、マーサさんに・・・火傷の治療をしてもらっ」
言いかけたところで、わたしの意識はフツと途絶えた。
※ ※ ※
「やれやれ、何事かと思って来てみれば」
魔女はそっと降り立った。
研究用の資料探しに街の古本屋を訪れていた時に、まだまだ未知数の弟子に張り付けていた監視用の虫が異常を知らせたので、転移の魔法で移動してきたのだ。
「あんた、誰?」
赤銅色の目が印象的な少年が尋ねる。彼は魔女を警戒して、幼い少女と倒れている少年を背にかばった。
「人に名を尋ねる時は自分から名乗るもんだよ」
「俺はフェイトっていいます」
魔女は、臆病な人間は嫌いだったが、生意気そうでも警戒を怠らない人間は嫌いではなかった。
「まあいい、私はこいつの師匠でアデリア。こいつに付けていた虫が異常を察知したんで飛んできたんだ」
「それにしても、まあ・・・予想外に強い力だね、これは」
周囲を一瞥して呟く。それは明らかにリリアが放とうとした魔力のことではなかった。
フェイトもつられて周囲に目をやる。
それは魔女に向けたようでもあり、自分へ向けた問いかけのようでもあった。
「なあ、ここの草・・・さっきまでこんなに長かったっけ・・・?」
彼らの周囲の草だけが他の場所の草より、目に見えて伸びていた。
いや、ヤマダの周囲の草が、と言い換えた方が正しいかもしれない。
「さあ?ここは日当たりが良いから、草が頑張って成長したんじゃないかい?」
ここは広場の隅。壁が影を作っており、お世辞にも日当たりの良い場所とは言えない。
魔女は利発な人間は好きだったが、それ以上に他人をからかうのが好きだった。
魔女はニヤリと笑った。




