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6話 初めてのクエスト

 訓練を始めて数時間。


「……ふぅ、ここら辺で終わっとくか」

「はぁっ、ありがとう、ございました……はぁっ」

 俺は地面に倒れ、荒い息をする。

 つ、疲れた……っ! 

 あれから休憩なくドゥーエンさん、マルエルさんと打ち合い続け、俺の身体は疲労でボロボロだ。

 

 俺は息を整えると体を起こし、服に付いた土を落とす。

 あ、そう言えば服とか買ってなかったな。帰りにでも買っておきたいな。

「ドゥーエンさん、これからどうするんですか?」

「ん? そうだな、昼飯食ったら簡単な討伐系のクエストを受けるつもりだ」

 討伐系、俺たちがどのくらい戦えるか見極めるためか?

 と、そうしていると、林の奥から愛莉(あいり)とルーヒーさんが戻ってきた。

 

「愛莉、お帰り。どうだった?」

「……ダメでした」

 そう言い、愛莉は肩を落とす。

「まぁ、そんな早く魔法が覚えられるわけないさ。コツコツ頑張っていけばいい」

 俺は励ますために、愛莉の頭を撫でる。

「はいっ!」

 沈んでいた表情は、一気にパァと輝き笑顔になる。

 

 それから俺たちは一度街に戻り、昨日も行った料亭に向かった。

 

 

 ♡

 

 

 料亭で昼食を食べ、今はギルドに来ている。

 俺と愛莉は席に座り、ドゥーエンさんたちを待っていた。

 ドゥーエンさんたちは、俺たちでもクリアできる低ランクの討伐系クエストを探している。

 

 それから数分後、1枚の紙を持ってドゥーエンさんが戻ってきた。

「今日はこれを受けようと思う」

 そう言いながら、ドゥーエンは紙を渡してくる。

 

 ──『言語理解』発動。

 

 いつも通り、ブォンと機械音が脳内に響き、紙に書かれていることを翻訳する。

 

『ゴブリン討伐

 ランク:E

 クリア条件:ゴブリンを5体討伐しろ。討伐を証明するために、右耳を獲ること』

 

 紙にはこう書いてあった。

 ゴブリン、愛莉から教えてもらった情報だと、最弱のモンスターだったっけ。

「これでいいか?」

 ドゥーエンさんが念を押すように確認してくる。

「はい、大丈夫だと思います」

「そうか。ならこれはお前が持って行け」

「はい」

 俺は返事をすると、クエスト紙を持ってカウンターに向かった。

 

「ニィゼルさん、このクエスト受けたいんですけど」

 そう言い、ニィゼルさんに紙を渡す。

「ゴブリン討伐、ランクはEですね。分かりました。承諾します。頑張ってくださいね」 

 ニコッ──

 ニィゼルさんの笑顔にドキッとしつつも、俺は「はい」と力強く頷いた。

 

 なお、愛莉が膨れっ面になったのはご愛敬ということで。

   

 

 ♡

 

 

 場所変わって、ルイスから徒歩20分程の場所にあるマティスの森。

 移動中に教えてもらったのだが、つい2ヶ月前がゴブリンの繁殖期で、今ゴブリンが大量発生しているらしい。

 今回受けたのは5体討伐のランクEだったが、数が増えたり上位種が含まれていたり、コロニーの破壊だったりすると、ランクは上がっていく。

 特に、ゴブリンジェネラル、ゴブリンロード討伐になると、ランクはB、若しくはAとなる。

 俺にはまだ無理なランクだ。

 余談だが、ドゥーエンさんたちはパーティでゴブリンジェネラル5体を倒した経験があるとのこと。改めてドゥーエンさんたちの強さを実感した。

 

 

 森に入ってすぐのところに、ゴブリンが1体さ迷っていた。

 ゴブリンの姿は緑色の肌に、横に伸びた耳、赤く鋭い瞳と確かに魔物っぽかった。

 背は100センチあるかないかだった。

 

「よし、丁度1体だな。まずはトーヤが一人で行け」

「はい」

 俺は頷き、腰に差した剣の柄に手を掛ける。

 ふぅ、と息を吐き、直後全身の力を使い一瞬でゴブリンとの距離を詰めた。


『グギャッ!?』

 

 ゴブリンは声を上げ、目を見開く。

 それもそうだろう、いきなり俺が現れたんだからな。

 俺は鞘から刃を抜き、素早くゴブリンの頭目掛け振り下ろす。

 が、少し角度がズレ、少し皮膚を切るだけに終わった。


「バカ! 最初は性格に狙えと言っただろ!」

 先程までいた茂みから、ドゥーエンさんの叱責が飛んでくる。

 そうしている間に、ゴブリンは手に持った棍棒を振り上げ、俺を仕留めんと振り下ろす。

 勿論高さ的に当たっても足で死ぬことはないのだが、その油断が命取りとなるとドゥーエンさんが言っていた。

 俺は素早く横に跳び、ゴブリンの攻撃を避ける。

 

 俺は体勢を整えると、切っ先をゴブリンに向ける。

 ゴブリンはドタドタとこちらに向かって走ってくる。

 そしてゴブリンが剣の射程入ると、俺は一歩踏み出し、ゴブリンの首目掛け、剣を横一閃に薙いだ。

 グチャっとした感触と、少し遅れて固いものを断つ感触が剣から伝わってくる。

 

 今度はしっかりと入ったようで、ゴブリンの頭と体は切り離された。

 少し遅れ、切断部から赤くドロドロした血が流れてきた。

 鼻腔を刺激する鉄のような臭いと、纏わり付いてくる死の感触に俺は吐きそうになった。

 俺は急いでゴブリンの死骸から離れ、深呼吸を繰り返す。

 昨日は大丈夫だったのに……自分で殺らなかったからなのか? 

 まだ気持ち悪さは残っているが、吐き気は収まった。

 俺はゴブリンの顔に近付き、右耳を切り取る。

 それを持ってドゥーエンさんたちの元に戻った。

 

 

「すいません、教えを守れなくて」

 そう言うと、ドゥーエンさんは「はぁ」と息を吐く。

「まぁ、最初だから許してやる。それよりも、お前大丈夫か? 殺すのは初めてだったんだろ?」

 ドゥーエンさんは心配そうに訊ねてくる。

 俺はゆっくりと頷き、口を開く。

「……はい。こんな感触なんですね、命を奪うことって」

 まだ手に残っている生々しい感触。再び吐き気が込み上げてくる。

「……休憩するぞ」

 俺は無言で頷き、離れた場所へ移動した。

 残った死骸は、マルエルさんが処理してくれたらしい。後でお礼を言っておこう。

 

 

 ♡

 

 

 あれから10分程経ち、なんとか立ち直ることができた。

 俺はドゥーエンさんの元に行き、小声で訊ねる。

「ドゥーエンさん、残り4体俺が殺します。なので愛莉は──」

「それはダメだ」

 俺の提案は、言い終わる前に拒否された。

「どうしてですか?」

「トーヤ、お前は過保護すぎる。それに妹をアイリを信じれてねぇ。お前は気付いてないようだが、アイリはとっくに覚悟を決めてるぞ」

「……」

 そう、なのか……。愛莉は俺よりも早く、覚悟を決めていたのか……

「それに、もしアイリがお前みたいに気が滅入ってもお前が支えてやればいいだろ?」

 そう言うと、ドゥーエンはニヤリと笑う。

 ……あぁ、そうだ。そうだよ。

「分かりました。さっきの言葉は撤回します」

「おう。それじゃあ再開するぞ」

「はい」

 

 

 森の少し深いところ。

「いた、今回は2体だ」

 マルエルさんがそうそう言うと、すぐにドゥーエンさんが指事を出す。

「マルエルが1体、トーヤとアイリで1体だ。いいなか?」

「「はい」」

「うん、大丈夫だよ」

「よし、それじゃあ合図を出したら一気に行け。……3、2、1……今だ!」

 俺は合図と共に茂みから飛び出て、ゴブリンの右手を切り飛ばした。

 首を切ったときと同じ、生々しい感触が剣から伝わってくる。

 その感触に顔を歪めながらも、俺はそのままゴブリンの後ろに回り込む。

 

『グギャァ!』

 作戦通り、ゴブリンは俺の方に意識を完全に向ける。

 その隙に、愛莉が杖でゴブリンの後頭部を思いっきり殴った。

 グギャッと悲鳴を上げ、ゴブリンは地面に倒れた。

 俺は愛莉の表情を確認する。

 やはり顔色は悪く、気持ち悪さに顔を歪めていた。

 俺はゴブリンの右耳を切り取ると、回収せずに愛莉の元に向かい、そして抱き締めた。


「おにい、さま……」

「大丈夫か……って、大丈夫じゃないよな」

 俺はゆっくりと愛莉の背中を擦る。

「あの、気持ち悪くて……」

「あ、あぁ」

 俺は愛莉を茂みの方へ連れていき、しゃがませる。

 少しして愛莉は吐いた。

 俺は愛莉が落ち着くまで、ずっと背中を擦っていた。

 

 

 ♡

 

 

 空が茜色に染まり始めた頃。

 俺たちはクエストを終え、ギルドに戻ってきていた。

 

「はい、ゴブリンの右耳5つ、確かに受け取りました。クエストクリア、お疲れ様です。お二人は初めてのクリアなので、FランクからEランクに昇格です」

「ありがとうございます」

 俺は報酬の銀貨1枚と銅貨50枚を受け取り、ギルドを後にした。

 

 火狐亭の前でドゥーエンさんたちと別れ、俺たちはまっすぐ宿泊している部屋に戻った。

 そして二人揃って固いベッドにダイブし、そのまま眠りに就いた。

この作品を読んで頂きありがとうございます!

誤字脱字、改善点等がございましたら容赦なく教えてください!

この作品を読んで頂いた読者様に最大の感謝を

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