4話 準備
今日は一話だけになってしまいます。明日変わりに二話投稿します。
「さて、話をするか」
場所は変わり、ギルド近くの料亭。
俺たちは向かい合わせで席に座り、話をしようとしていた。
「まず、お前たちは戦闘経験はあるのか?」
「えっと、俺は一度だけあります」
「私はありません」
俺たちは素直に答える。ドゥーエンさんはそれを聞き、顔をしかめる。
「……そうか。トーヤ、その時の得物はなんだ?」
「得物……その時は素手で戦いました」
すると、ドゥーエンさんは重たい声で「そうか」と呟く。
「よし、じゃあまずは──」
「はーい、注文の野菜炒めと焼きデム豚で~す♪」
ドゥーエンさんの言葉を遮るように、店員さんが料理を持ってきた。
「……食事にするか」
ドゥーエンさんはため息を吐き、そう言った。
♡
それから1時間程で俺たちは昼食を食べ終え、改めて話を始めた。
「まずはトーヤたちの得物を見付けるか」
「は、はい」
「そうだな、トーヤは何か要望はあるか? この武器を使いたいとか」
「……特にはないですね」
正直、格闘術はできても、武器なんて使ったことないから何が良いなんて分かんない。
「そうだね、それじゃあ一番安定する剣なんてどうだろう」
と、マルエルさんが提案してくる。
「そうだな、まずは剣で向き不向きを確かめるか」
ドゥーエンさんはマルエルさんの意見に同意する。
「んで、アイリの方なんだが」
「私はできれば魔法が使いたいです」
「魔法、か……」
愛莉の要望に、ドゥーエンさんは難しい顔をする。
「アイリ、お前は【魔力操作】を持ってるか?」
「はい、持ってます」
「なら大丈夫か。……ルーヒー、こいつに魔法を教えてやってくれ」
「分かったわ」
「んで、トーヤは俺が片っ端から戦闘技術を叩き込んでやる」
「は、はいっ」
俺は元気よく返事をする。
「さて、そろそろ移動するか」
ドゥーエンさんはそう言い、席を立つ。俺たちはそれに続き席を立ち、代金を払って(勿論ドゥーエンさんが)店を出た。
俺たちが向かった先は、多くの武器を取り扱っているカイサム武具店。
このルイスの街、否大陸各地で店を構え、安価で良質な武器や防具を売っている店だ。
店内に入り、俺と愛莉は驚き「おおっ」と嘆息の声を漏らす。
物凄い量の武器や防具が無作為に並べてあり、そのどれもが良質な物だと見て取れる。
「ん? なんだ、品揃えの多さに驚いたか?」
ドゥーエンさんはニヤリと笑い訊ねてくる。
「ふふ、ドゥーエンも初めて武具店に来たとき驚いて固まってたもんね」
そこへ、マルエルさんが笑いながら茶々を入れる。
「う、うっせぇな、昔のことだろ」
ドゥーエンさんは顔をしかめて、店の奥に行ってしまった。
「ははっ、まぁ気にせずに武器を見て回ろうか」
マルエルさんはポンッと手を叩き、笑顔でそう言った。
それから数十分と見て回り、最終的に俺は鉄製のロングソードを、愛莉は先に玉石の付いた木の杖を買って貰った。
防具の方はドゥーエンさんが「初心者は一致世前に防具なんか着けるより、回避を覚えた方がいい」と言い、買わなかった。
俺たち以外にも、ドゥーエンさんが鋼鉄のバスターソード、ルーヒーさんが鉄の杖、マルエルさんが鋼鉄のロングソードを買っていた。
どうやら、今日の戦闘で消耗しすぎたらしい。
「さて、それじゃあ後はお前たちの宿を探して終わりかな」
ドゥーエンさんは空を見上げそう呟く。
俺は同じように空を見上げる。
青かった空はやや茜色にそまり、日暮れであることを知らせていた。
それから俺たちは、ドゥーエンさんのすすめで『火狐亭』と言う宿屋に泊まることになった。
なお、宿泊代もドゥーエンさんが出してくれた。
ありがたや。
「それじゃあ、明日は早朝の鐘が鳴る頃にギルドでな」
「はい、分かりました。今日は何から何までありがとうございました」
俺は丁寧に腰から曲げ、頭を下げる。
「おいおい、そんなことしなくていい。それじゃあな」
ドゥーエンさんたちは手を振りながら、街の奥へ消えていった。
♡
ドゥーエンさんたちを見送ったあと、俺たちは足を揃え火狐亭に足を踏み入れた。
入ってすぐ、正面にカウンターがあり、そこに若い女の子が立っていた。
「いらっしゃいませ! お食事ですか? それとも宿泊ですか?」
「宿泊で。取り敢えず1週間分で」
俺はそう言いながら、カウンターに銀貨10枚を置く。
「はいはーい。えっと、部屋は2階の103号室です。どうぞごゆっくり~」
俺は一言「ありがとう」と礼を言い、愛莉と共に2階にある部屋に向かった。
部屋に入り、愛莉は真っ先にベッドに向かいダイビングした。
「うぅ~、固い、ベッドが固いですよお兄様……」
若干涙目になりながら、愛莉はそう言う。
「まぁ、愛莉の知識から照らし合わせると、中世ヨーロッパ並の生活水準だからな。まだ寝具や生活器具は発展していない」
「分かってますけどぉ」
それなら我が儘を言うんじゃない。
俺はベッドに腰掛け、息を吐く。
ふぅ、今日一日、すごい疲れたな……
俺は目を閉じてベッドに横になる。
確かに固いな。……これは慣れるまで時間が掛かりそうだ。
と思っていると、突如愛莉が俺の上に飛び乗ってきた。
「わっ、愛莉?」
「お兄様、疲れました。私を癒してください~」
そう言いながら、愛莉は俺の胸に顔を擦り当てる。
俺は苦笑いを浮かべながら、愛莉の頭をゆっくりと撫でる。
「んんっ~♪」
愛莉は気持ち良さそうに喉を鳴らし、より一層顔を擦り当ててくる。
暫くの間そうしていると、不意に扉がノックされる。
俺は愛莉を横に座らせ、扉を開ける。
訪ねてきたのは、先程カウンターにいた女の子だった。
「えっと、説明し忘れていたことがありまして。体を洗いたいときは銅貨10枚でタオルと水をご用意しますので」
女の子は愛莉に目を向けながらそう言う。
「分かった、ありがとう。夕飯って食べれるかな?」
「はい、あと1時間後くらいには準備できると思います。準備が終わりましたら呼びに来ますね」
「ありがとう」
礼を言うと、女の子は笑顔で「いえいえ~」と言い戻っていった。
♡
あれから1時間程経ち、女の子が夕飯ができたと知らせてくれた。
俺と愛莉は1階の食堂に向かい、夕飯を食べた。
なお、今日の夕飯はポテツ(ジャガイモのようなもの)入りのスープとデム豚の塩焼きだった。
ふと疑問に思ったのだが、中世ではまだ塩の価値は高かった筈だ。そこら辺は地球とは少し違うのだろう。
部屋に戻る際に女の子にタオルと水を二人分頼んだ。
部屋に戻って数分後、女の子が二つの水の入った桶とタオルを持ってきた。
先に俺が体を洗い、部屋の外で待とうとしたのだが、愛莉が「お兄様に拭いてほしいです」と言ってきたので、仕方なく愛莉の体も拭いた。
時々漏れる艶かしい声に鼓動が速くなるのを感じながらも、俺は無事何事もなく愛莉の体を拭き終えた。
そしてすぐに、俺たちは眠りに就いたのだった。
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