2話 ルイスの街
遅れてしまい申し訳御座いません。
見ず知らずの者たちに加勢してから30分程が経った。
流石に無傷とはいかなかったが、なんとか死人を出すことなく魔物を全て倒した。
俺は辺りに転がっている魔物の死骸を眺める。
実際、俺は一体も殺してない。俺は掌低や手刀で魔物の意識を刈り取っただけ。トドメを刺したのは武器を持った者たちだ。
いやぁ、よく戦えたな、俺。と安堵の息を吐くと、魔物に襲われていた者の一人(男性)がこちらにやってきた。
容姿を簡単に挙げるとすれば、天然物の金髪に血のように赤い瞳くらいだろうか。
男が口を開いた瞬間、脳裏に〝【言語理解】発動〟と機械的な音声が流れた。
「──助かったよ。君が来てくれなかったら、もしかしたら俺たちは死んでいたかもしれない」
そう言い、男は深く頭を下げる。
「いえ、当然のことをしただけですので」
俺はそれだけ伝えると、踵を返しその場から立ち去った。
何やら男が言葉を口にしていたが、俺はそれを完全に無視した。
愛莉の元に戻ると、二人で最初の馬車の方へ向かった。
何故助けた方ではないのかと言うと、先程助けた方の馬車を引いていた馬が死んでいたからだ。
あれでは徒歩で街に向かうことになってしまう。走ったのもあるが、もう俺たちの体力は限界だ。歩くのはなるべく避けたい。
ちゃんと確認したわけではないが、最初の方の馬は生きていた。
つまり、戦闘が終われば馬車に乗って街に向かうことができる。
そういったことを考えての判断だった。
元来た道(草原)を戻ると、既に戦闘は終わっていた。
人の方に死者はいないが、何人かは怪我を負っている。
馬車の周りには、魔物の死骸が散らばっている。
それも、殆どが上半身と下半身が切り裂かれた状態で。
俺たちは真っ直ぐ、ゆっくりとその馬車へ歩み寄る。
丁度、一人の男性がいた。男性は凡そ180センチと、高身長だ。
俺はなるべく刺激しないよう、丁寧な口調でその男性に声を掛けた。
「すいません、少し宜しいでしょうか?」
「ん? あぁ、どうした」
男性は俺たちを訝しげに見ながら訊ねてくる。
「俺たちは旅人なんですが、道に迷ってしまいまして。……もし宜しければ馬車に乗せてもらえませんか?」
男性の黄色い瞳がギラリと光る。
「……」
男性は顎に手を当て、悩む素振りを見せる。
そしてすぐに「いいだろう」と答えた。
「ありがとうございます」
俺は例を言い、頭を下げる。
「頭を上げろ、そんな畏まらなくていい。俺はドゥーエンだ。お前たちは?」
「俺はやなぎざ──」
ドゥーエンに続き名前を名乗ろうとすると、愛莉がスッと手を伸ばしそれを制す。
「ど、どうしたんだ愛莉」
俺は小声で訊ねると、愛莉は俺と同じように小声で返してくる。
「いいですか、家名と言うのは基本貴族だけが持っているんです。なので、ここでは名前だけ答えることをオススメします」
「分かった、ありがとう」
俺はドゥーエンさんに向き合い、改めて名前を名乗る。
「俺は統弥、こっちは妹の愛莉だ」
「トーヤとアイリか、これから街まで宜しくな」
俺と愛莉は声を揃え、
「「はい」」
と返事をした。
♡
それから10分後、俺たちは馬車に乗りルイスに向かった。
ルイスと言うのは、このシィール平原から一番近い街で、大陸でも3番目くらいに栄えている街だと。なお、この情報は全てドゥーエンさんから教えてもらった。
ドゥーエンさんたちは、冒険者(愛莉曰く、小説では定番の職)と言う職業に就いており、今はギルドから受けたクエストを終了し帰る途中だったらしい。
馬車に揺られること20分。
前方に高さ10メートル程の壁が見えてきた。
ドゥーエンさんに訊ねてみると、あれがルイスを囲む壁なのだと。
壁の上には兵士が何十人も待機しており、見張りなどを熟しているとのこと。
また、魔物や他国から攻め入られたときは弓や投石、魔法などによって迎え撃っているらしい。
5分程で壁の目の前まで着き、俺たちは馬車から降りる。
「さて、街には着いたが、トーヤたちはこれからどうするんだ?」
「これから、ですか。そうですね、まずは街で何か職に就きたいと思っています。今一文無しなので」
手をブラブラと揺らし苦笑いを浮かべると、ドゥーエンさんは首を傾げる。
「一文無しって……まさか入街税を払えないのか?」
「なんですか、その入街税って」
「なにも、街に入るための税だよ。ルイスの入街税は銀貨1枚だ」
……どうやら、俺たちは詰んだらしい。
一応金は持ってきたんだけどな……、全部日本円だし、どうしよう。
そう悩んでいると、ドゥーエンさんが「仕方ねぇなぁ」とため息を吐く。
「今回は俺がトーヤたちの入街税を出してやる」
「あ、ありがとうございます」
俺が頭を下げると、「別に気にすんな。少しは余裕があるからな」とドゥーエンは笑った。
この人、とても良い人だ。
俺はそう確信し、ドゥーエンさんの後を付いていった。
ドゥーエンさんに入街税を払ってもらい、俺たちはルイスに足を踏み入れた。
街並みは、中世ヨーロッパの様だった。
路地に敷き詰められた石畳。木枠の壁の家々。軒下に掛かっているアンティーク調の看板。これぞTHE・中世と言った街並みだった。
だが、少し異彩を放つ建物もある。
木で枠取られていない、コンクリートのような灰色の石で塗り固められたモノなど、様々な建物が建っていた。
流石、異世界ってところかな。
俺は街並みを眺め、嘆息の息を吐く。
「さて、俺たちはギルドに行くが、トーヤたちも来るか?」
「えっ、いいんですか?」
「あぁ、トーヤたちは職を探してるんだろ? ちょっとばかし危険はあるが、冒険者なら他の職に負けないくらい稼げるぞ」
なるほど、魅力的な相談だ。
俺は「少し待ってください」と言うと、愛莉に小声で相談する。
「なぁ、どう思う?」
「いいと思います。小説では9割以上の確率で主人公たちは冒険者になっていますから」
「そうか」と返すと、俺はドゥーエンさんに向き合う。
「そうですね、冒険者になりたいと思います」
「よし、それじゃあギルドに行くか」
俺たちはドゥーエンさんに連れられるまま、ギルドへ向かった。
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