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1話 「異世界ならチートは当然ですよ?」

 目が覚めると、そこは海だった。

 正確に言えば、俺の目の前に海が広がっていた。

 俺たちが倒れているのは白い砂浜。

「あぁっ……本当に異世界に来たんだな」

 体を起こし、青い海を眺めながら呟く。

「……うぅ」

愛莉(あいり)、起きろ」

 俺は唸り声を上げている愛莉の肩を揺する。

 愛莉はゆっくりと瞼を開け、紅い瞳で俺を見つめる。

「本当に、異世界に来れたんですねっ」

 愛莉は嬉しそうに微笑み、勢いよく抱き付いてきた。

 俺は愛莉を受け止めると、ゆっくりと背中を擦る。

「さて、これからどうするか」

「どうしましょうか」

 俺たちは抱き合ったまま、これからのことについて考える。

 やっと、やっと解放されたんだ。あの忌々しい(呪い)から。……やっと。

 じわりと目尻に涙が浮かび、すかさず袖で拭う。

「……よしっ。愛莉、離れてくれ」

「……はーい」

 愛莉は渋々といった感じに返事をすると、俺から離れて「よっこいしょっ」と言い立ち上がる。

 俺も同様に立ち上がり、衣服に付いた砂を叩き落とす。

 次に持ってきた物の確認。……食料やら衣服は大丈夫だな。スマホは……うん、圏外か。当たり前か、異世界なんだから。

 ある程度確認すると、俺は再び海を見る。

 うーん、綺麗だなぁ。多分日本じゃどこ行っても見れないんだろうな。

「お兄様、確認終わりました」

「おう。それじゃあ行こうか。って言っても、ここがどこなのか、近くに街があるのかすら分からないけど」

 そう言い歩き出そうとすると、グイッと愛莉に腕を引っ張られる。

「待ってください。まだやり残したことがあります」

「ん? 何かあったか?」

 そう返すと、愛莉は「勿論です」と言う。

「まだステータスを見てないじゃないですか!」

 そう言う愛莉のドヤ顔は、どこか愛くるしかった。

「す、ステータス?」

 聞き慣れない言葉に、俺は首を傾げる。

「はい。インターネットで調べたんですが、異世界と言うのは最近のライトノベルと言う小説で流行っているそうなのです」

「そ、そうなのか」

 なるほど。つまり俺たちみたいに異世界に来た人たちが、地球に帰ってそれを小説にしてるのか。

「まぁ実際は作者の妄想なんですが」

「そう、なのか……」

 なんだよ、少し期待したじゃないか。

「その話はいいとして。私も試しにライトノベルを読んで見たのですが、どうやら異世界では自らの情報が見れるそうなのです」

 自らの情報……つまり生年月日とかか?

「それでですね。大抵のモノではステータス、と言えば半透明の薄い板のようなモノが現れるそうなのですが」

「分かった、やってみる」

 俺は目を閉じ、手を前に突き出す。

「……ステータス」

 そう唱えた瞬間、ブォンと機械的な音と共に、半透明の薄い板が現れた。

 

名前:柳沢(やなぎざわ)統弥(とうや) Lv1

種族:人族 性別:男 年齢:18歳 

職業:無し

HP:50 MP:30 体力:150 筋力:50 俊敏:30 

運:10

スキル:【成長補正】【駆術】【体術】【努力】【言語理解】

称号:【異世界人】

 

 あれ、予想してたのと全然違うんだが……

「なんだこのスキルって」

「それはですね、簡単に言えば異能力のようなモノですよ」

「そ、そうなのか」

「それでですね、HPはゼロになったら死にます」

「死ぬのか!?」

 え、つまり今ある50がなくなったら、俺は死ぬ……

「攻撃を受けたりすると減るそうです」

「な、なるほど」

 愛莉が事前に勉強してくれてて助かった……

 心の底から、俺は愛莉に感謝した。

「次にMPですが、これを消費することで魔法が使えるらしいです。お兄様は魔法のスキルがないので使えないですが……」

「まぁ、使えなくても別に大丈夫だろ」

「そうですね。その後のは分かりますか?」

「まぁ、なんとなく。詳しいことは異世界(こっち)の人に聞けばいいだろ」

 そう言うと、愛莉は「今度は私の番ですねっ」と言う。

「ステータス」

 

名前:柳沢愛莉 Lv1

種族:人族 性別:女 年齢:16歳

職業:無し

HP:50 MP:50 体力:100 筋力:20 俊敏:10

運:10

スキル:【成長補正】【適応】【並列思考】【魔力操作】【言語理解】

称号:【異世界人】

 

「お兄様とスキルが少し違いますね」

「そうだな」

 うん、何も知らないから凄いのか分かんないけど。

「よし、それじゃあ今度こそ行くぞ。暗くなる前に街を見付けたい」

「はいっ」

 そして俺たちは、異世界での第一歩を踏み出した。

 

 

 ♡

 

 

 あれから一時間以上歩き砂浜から平原へと変わったが、一向に街や村は見付からない。

 もしかしたら、俺たちがいたあの砂浜は、大陸の端の秘境とか、もしくは島だった……なんてな。

 そうしていると、遥か遠くから聞き慣れない鳴き声が聞こえ、

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ」

 

 遅れて人の叫び声も聞こえてきた。

「っ!? 走るぞ、愛莉!」

「は、はいっ」

 俺たちは急いで、叫び声の聞こえた方へ走る。

 だが何も見えてこない。叫び声は聞こえてきたのに。

 くそっ、どれだけ離れてんだよ!

 必死に走る。今までにないくらい。

 足が痛い。疲れた。息が苦しい……くそっ。

 

 走ること更に5分。やっと何かが見えてきた。

 更に走り、はっきりと見えてきた。

 馬車を庇うように、数人の人が剣や槍等の武器を手に持ち構えていた。

 そしてその者たちを囲うように、小さい人のような何かが立っていた。

 なんだあいつらは。

 見たことのない、異世界の異形のモノ。俺は未知の生物に恐怖し、足を止めた。

「はぁ、はぁっ……お兄様っ、んっ……はぁ」

 相当疲れたのか、愛莉はしゃがみ荒く息をする。

「愛莉、あいつらが何か分かるか?」

 そう訊ねると、愛莉は異形の者たちを観察する。

「……あれは多分、魔物ですね」

「魔物?」

「はい。曰く魔の力を持ち、人々の生活を脅かすモノたちですね」

「魔の力を持つ……あれか、神話や旧約聖書に出てくる」

「はい、その解釈で間違ってないと思います」

 なるほど。そんなモノが異世界(ここ)にはいるのか。……ん? てことは、結構危険なんじゃないか?

 ヤバい、これからの生活が不安になってきた。

 そう思っていると、愛莉は目を輝かせる。

「ここで小説なら、私たちがチートで薙ぎ倒してあの人たちに感謝されるんです」

「うーん、なぁ愛莉、俺たちにチートってのあったか?」

 愛莉はビクリと肩を揺らし、「あー、ありませんね……」と言う。

「どうするんだ? あの人たちだけで勝てるのか?」

「ど、どうでしょう……小説なら、多分ピンチと言いますか、助からないと言いますか」

「……」

「……」

 二人揃って黙ってしまう。

 そうしている間に、戦闘は始まっていた。

 

 キィン! と金属音が響き、更には「グギャァァアアア!」と汚い悲鳴が響く。

 どうやら、人の方が魔物を切り付けたようだ。

 な、なんだ、戦えるんじゃないか。

 俺はホッと安堵の息を吐く。

「あれ、戦えてますね」

「そうだな。俺たちいらないんじゃないか?」

「た、確かに」と納得する愛莉。

 が、突如人の叫び声が平原に響く。それも、目先で戦っている人たちのではない、別の誰かの悲鳴。

 そして、その悲鳴に戦闘中の人たちは反応し──結果的に、一瞬の隙ができてしまった。

 これを好機と見たか、魔物は手に持っているショートソードを振り上げ襲い掛かった。

 俺は咄嗟に飛び出そうと腰を浮かせ、すぐに姿勢を低くする。

「あ、あの人すごいですね、あの状態から防ぐなんて」

「あぁ……」

 愛莉の言っている通り、魔物に襲われた人は咄嗟に魔物の体に蹴りを叩き込むことで奇襲を防いだ。

「待て、そう言えばさっきの悲鳴は?」

「……もしかしたら、近くで他にも魔物に襲われている人がいるのでは」

「……助けに行くぞッ」

「はいっ」

 言うが早いか、俺たちは悲鳴が聞こえてきた方向を思い出し、その方へ走り出した。

 

 

 ♡

 

 

 先程いた場所から1キロメートル程離れた場所に、同じように魔物に囲まれている馬車を見付けた。

 馬車の周りには先程の者たちよりは少しばかり迫力のない者が四人。そして、はっきりとは見えないが馬車の中に女性が一人。

 

「お兄ちゃん、どうしますか?」

 愛莉は目の前の光景から目を離さずに訊ねてくる。

「……取り敢えず、あのままだと負けると思うから加勢する」

「でも、私たちチートどころか武器の一つすら持ってませんよ?」

 確かにそうだ。だが、思い出せ。俺の持っているスキルを。

 俺が持っているのは【成長補正】【駆術】【体術】【努力】【言語理解】の五つ。この中で戦いに使えそうなのは──

 

【体術】体を動かしやすくなる。肉弾戦闘が得意になる。……熟練度5。

 

 これだ。熟練度ってのは分かんないが、今はいいだろう。

「……よし、行ってくる」

「分かりました」

 俺は愛莉の返事を受け取ると、瞬時に加速し魔物の集団に接近する。

 100メートル程の距離を10秒足らずで移動し、俺はまず一番近い魔物の背後に移動する。

 そして気付かれないうちに、魔物の首に手刀を打ち込む。

 ついでに、ある程度の技などは小学校高学年の時に父から教え込まれていた。まさか、こんなところで役に立つとは。

 手刀で魔物の意識を刈り取ると、間を開けずに俺は近くの魔物に接近する。

 魔物は赤い双瞳(そうどう)をこちらに向け、棍棒を振り上げ攻撃のモーションに入る。

 だが、少し遅い。

 俺は自慢の長い足を振り抜き、魔物の顔面を蹴り飛ばす。

 スキルも相俟ってか、ただの蹴りで魔物は10メートル以上吹っ飛んだ。

 スキル、強い。

 俺はそう確信し、三体目の魔物に向かった。

この作品を読んで頂きありがとうございます!

誤字脱字、改善点等がございましたら容赦なく教えてください!

この作品を読んで頂いた読者様に最大の感謝を

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