13話 前夜とキス
ギルドマスター、ダーティさんとの話の後、俺はドゥーエンさんたちの元へ向かった。
どうやら、職員から似たようなことを伝えられていたらしく、話は早く進んだ。
まず、今日のクエストはなし。そして、2週間後に予定していた武器の新調を今日することに。
そうと決まれば早速実行。
俺たちはギルドを出て、カイサム武具店に向かった。
俺は今まで熟してきたクエストの報酬を使い、今買える中でも一番良い武器を選ぶ。
俺が買ったのは、鋼鉄と黒魔石を使ったロングソードだ。
黒魔石とは、ダンジョンや遺跡に稀にある魔石の一種で、武器や防具の素材に使用すると、強度を増すことができる。更に、魔力を込めればより硬くなるという性質も持っている。
この剣は金貨1枚と銀貨60枚もした。いやぁ、とても高い。
そして防具の方だが、俺は漆黒のコートを買った。と言うより、貰ったのだ。
漆黒のコートとはこの防具の名前で、普通の防具とは違い、段違いの性能があるらしい。
だか、不明な点が多く、商品として売るには不安要素が多かったと。それを俺が譲り受けたのだ。
愛莉の方は、二種類の魔石が使われた双玉の杖を買った。
こちらは王都のとある有名な工房で作られた物で、普通では金貨10程の価値があるらしい。
だが、何故か工房の方から『黒髪の魔法使いが求めたら、無料でやってくれ』と言われたらしい。
少し引っ掛かるところがあるが、高性能の武器を無料で使えるのだ。気にしてはいられない。
そして防具は魔法の付与されたローブを買った。
効果を聞いたのだが、愛莉に「内緒です♪」と笑顔で言われ、それ以上聞くことはできなかった。
ドゥーエンさんたちも良質な武器、防具を買い、これで準備は整った──わけではない。
次に俺たちが向かったのは、カイサム武具店の隣にあるセイル雑貨屋だ。
ここでは、数多くの種類のポーションや薬草、魔導石を売っている。
魔導石とは、魔力を込めることでその石に掛けられた魔法が使えるという物だ。
これの凄いところは、魔法スキルを持たない者でも使えるということだ。
一度使うともう使えないのだが、とても役に立つ物だ。
俺たちは6種類の魔導石と、ポーションを30瓶買い、雑貨屋を後にした。
♡
買い物を終え、その場で今日は解散となった。
「今日はここで解散だ。明日は早いんだ、夜更かしはするなよ?」
「分かってますよ」
ドゥーエンさんたちを見送ったあと、俺と愛莉はミュウちゃんに明日のことを伝え部屋に戻った。
ミュウちゃん、すごい驚いてたなぁ。
部屋に戻った俺は、装備を外してベッドに腰掛ける。
「お兄様~」
愛莉は俺の膝の上に寝転ぶ。
「お兄様、キスしましょ」
「断る」
俺は即答した。
いやだって、そんないきなりキスしようなんて言われたら、断るに決まってるじゃん。
俺が断ると、愛莉は頬を膨らませドタバタと暴れ出す。
「お兄様~、キスしてくださいよぉ~」
「……」
「お兄様ぁ~」
「……」
「お兄様ってば!」
「ああもうっ! しないって言ってるだろ!?」
すっごいしつこいな! 今日はどうしたんだ?
「……ぶぅ」
愛莉は動きを止めると、不満げに唇を尖らせ、膨れっ面になる。
「どうしていきなりキスなんてねだってきたんだ?」
俺は愛莉の頭を撫でながら尋ねる。
「……だって、不安になったからです」
「不安に?」
愛莉は「はい」と答え続ける。
「……明日から緊急クエストじゃないですか。しかも、結構規模の大きい……。だから、不安になったんです。もし明日なにか起きたらって」
そう言う愛莉の声音は、どんどん弱々しくなっていく。
そうか、そうだったのか。
俺は愛莉の体を引っ張り起こすと、力強く抱き締めた。
「お、お兄様っ!? どうしたんですか突然っ」
慌てる愛莉。
俺は落ち着かせるように、ゆっくりと、優しく頭を撫でる。
愛莉はすぐに落ち着きを取り戻し、「はふぅ」と気持ち良さそうな声を漏らす。
「大丈夫だ。確かに危険な場所だけど、大丈夫、何も起きない。無事クエストを完了してみせるさ」
愛莉は静かに「……はい」と頷く。
「それに、結婚するんだろ? なら、こんな問題で躓くわけにはいけないな」
「──っ! お兄様っ」
愛莉はパァっと笑顔を浮かべ、ぎゅぅぅぅっと抱き締めて返してくる。
あの、愛莉さんや、そんなに抱き付かれると、胸が……
伝わってくる胸の感触に赤面していると、俺の顔を見て愛莉が「ふふっ」と笑う。
「もしかして、私の胸に興奮してますか?」
「いや違う。断じて違う」
「……そこまで否定しなくてもいいじゃないですか。もう、お兄様ったら照れちゃって、可愛いです」
愛莉は微笑むと、不意に俺の胸に顔を押し当てる。
「ほら、鼓動も速くなってますよ? 実の妹に興奮するなんて、お兄様は変態さんですね」
「実の兄に求婚するお前に言われたくないよ……」
「でも、お兄様はそれを受けましたよね? なら、お兄様も変態です。だから私たちは変態兄妹です」
なにが面白いのか、愛莉は静かに笑う。
「ねぇお兄様、明日は頑張りましょうね」
「あぁ、そうだな」
俺たちは抱き合ったまま言葉を交わす。
「失礼しまーす。夕飯の支度ができましたー」
とそうしていると、突然部屋にミュウちゃんが入ってきた。
足音はどんどん近付いてくる。
「トーヤさん、アイリさん、ご飯ですよ──ってええっ!?」
ミュウちゃんは俺たちを見て、目を見開き素っ頓狂な声を上げる。
状況を整理しよう。
ベッドに乗り、抱き合っている俺と愛莉。
それを見て硬直しているミュウちゃん。
うん、やばい。
「えっと、ミュウちゃん?」
「ふぇっ? あぁはいっ、お取り込み中でしたね! ごゆっくりぃいいいっ!」
ミュウさんは半ば叫ぶようにそう言い、走って部屋を出ていった。
「…………はぁ」
俺はため息を吐き、愛莉と一緒に起き上がる。
「それではお兄様、夕飯を食べましょう」
「あぁ、そうだなっと」
俺は先に進み出した愛莉の肩を掴み、振り向かせる。
「おにいさ──」
そして俺は、愛莉の言葉を遮り、その唇に軽くキスをした。
愛莉は少しの間立ち呆け、次の瞬間顔を真っ赤に染めた。
「おおおおっ、お兄様っ!? 今なにをっ!?」
「なにって、せがまれた通りキスしただけだぞ?」
慌てる愛莉に、俺は冷静に答える。
が、実は内心俺は悶えていた。当然だ、いくら妹とは言え愛莉は女の子だ。しかもすっごい可愛い。
そんな女の子に、自分からキスしたのだ。恥ずかしくないわけがない。
が、ここで赤面したり動揺を見せたら、愛莉がなにを言ってくるか分からない。だから俺は平然を装うのだ。
「わ、私先に行きますねっ!」
恥ずかしさが限界になったのか、愛莉は早足で部屋を出ていった。
一人部屋に残された俺は、自分の唇に手を当て、
「愛莉の唇、柔らかかったな……」
そう呟いた。
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