10話 謎の受付嬢、ニィゼルさん
一応、一章終了です。
ドゥーエンさん、マルエルさんとの打ち合いが終わり、俺は更に基礎的訓練を熟していった。
それから時間は過ぎ、太陽が完全に昇りきり、昼になったことを知らせる。
「さて、きりがいいですし、そろそろ終わりましょうか」
マルエルさんはぽんっと手を叩く。
「そうだな。トーヤ、アイリとルーヒーを呼んできてくれ」
「分かりました」
俺は返事をすると、愛莉たちがいる方へ向かった。
林の少し入ったところに二人はいた。
ルーヒーさんが杖を構え、短い詠唱を唱える。
直後、杖の先から小さい火球が1本の木に向かって飛翔した。
気をよく見ると、一部が黒く焦げており、何度も魔法を当てたことが分かる。
「二人とも、特訓は終わりです」
「あっ、お兄様! 私遂に魔法を習得しました!」
俺が声を掛けると、愛莉は勢いよく振り向き、笑顔でそう言う。
おおっ、遂に魔法が……愛莉が強くなっていく。
俺は感心しながら「見せてくれないか?」と尋ねる。
すると愛莉は笑顔で「勿論ですっ!」と答え、杖を先程の木に向けた。
そして愛莉は目を閉じ、静かに詠唱を始める。
「紅の灯火よ、射ち破ぜろ──《ファイア》っ!」
瞬間、赤色の魔法陣が展開され、小さい火球が木目掛けて飛翔した。
火球は木に直撃すると、そのまま弾け散る。
「どうですかっ!」
愛莉は目をキラキラと輝かせ振り向く。
「おおっ、凄いぞ愛莉!」
俺は愛莉の元に向かうと、優しく頭を撫でる。
「ふふっ♪ ありがとうございますっ」
愛莉は嬉しそうに目を細め、俺の胸元に頬擦りをしてくる。
「ねぇ、イチャイチャしてるところ悪いけど、そろそろ帰りましょう?」
と、そうしていると、ルーヒーさんが呆れたようにそう言う。
俺と愛莉は少し顔を赤くすると、頷いてドゥーエンさんたちの元に戻った。
♡
ルイスに戻ると、俺たちはいつもの料亭に向かった。
パン、ポテツ入り野菜スープとデム豚の塩焼きを頼んだ。
程無くして料理は届き、皆で一斉に食べ始めた。
食事を終え、少しの休憩を挟み俺たちはギルドに向かった。
ギルドに入り──そして驚く。何故か昨日よりも人が多いのだ。
ドゥーエンさんたちはクエストボードに向かい、俺と愛莉はニィゼルさんの元に向かった。
「ニィゼルさん、こんにちわ」
「こんにちわ、トーヤくん」
ニィゼルさんはニコニコと微笑みながら、挨拶を返してくる。
「ニィゼルさん、今日なんか人が多くありませんか?」
「そうですね、今日はクエストの更新日なので冒険者が多いんですよ」
「更新日、ですか?」
「はい。クエストには『一般』と『緊急』の二種類があることを前に話しましたよね?」
「はい、覚えてますよ」
登録に来たときに説明されたな。
「それでですね、緊急クエストを除き、クエストは届いてから更新日まで管理され、更新日にボードに張られる仕組みになっているんです」
「なるほど、そうなんですか」
「はい。ついでに教えときますけど、更新日は毎週月の日です。覚えておいてくださいね」
「分かりました。ありがとうございます」
俺は礼を言い、カウンターを離れ──
「ここまでサービスしたんですから、休みの日は二人っきりでデートしましょうねっ♪」
──ようとしたところで、ニィゼルさんが笑顔でとんでもないことを口にする。
瞬間、周囲の温度が下がった。
俺は放たれる冷気に身を震わせながら、恐る恐る隣を見る。
愛莉が、ハイライトの消えた瞳でニィゼルさんを睨んでいた。
あっ、これヤバいやつだ……
「すいません、よく聞こえなかったのでもう一度言ってもらえますか? もし内容が先程と同じならば……殺しますよ?」
凡そ素人の出せるモノではない殺気を放ちながら、愛莉はゆっくりと尋ねる。
が、ニィゼルさんはそんな殺気を気にもせず、ニコニコと笑いながら再び口を開く。
「休みの日に、二人っきりでっ! デートをしましょうねっ! トーヤくん♪」
この人の神経は結構図太いのではないかと思ってしまった。
愛莉はニィゼルさんの言葉を聞くと、「ちっ」と舌打ちをすると、一歩、カウンターに近付き、
「殺す……ッ!」
懐からアーミーナイフを取り出し、ニィゼルさんに襲い掛かったっ!
「待てっ! 愛莉──」
俺は愛莉を止めようと、手を伸ばす。
が、その前にキィンッ! と金属音が響いた。
「なっ──」
愛莉は目を見開き、声を漏らす。
見ると、ニィゼルさんが同じようにダガーを取り出し、愛莉の攻撃を防いでいた。
いつ、取り出した……?
俺は驚きを隠せずに、硬直してしまう。
愛莉の動きは確かに速かった。だが、目で追うことはできた。
それに対してニィゼルさんの動きは──見ることすらできなかった。
殺気を気にも止めなかったことといい、もしかしてニィゼルさんって、プロの冒険者なのか……?
「ふふっ、本来ならギルド役員に刃を向けることは、即刻登録解除になりましが──トーヤくんの身内ということなので、今回はお咎め無しということにしときますね♪」
ニィゼルさんは変わらず、ニコニコとしながらそう言う。
だが、今はその笑顔が怖い。
「……愛莉、落ち着け」
俺は肩を掴み、乗り出している体を引き下ろす。
「…………ちっ、分かりました」
愛莉は舌打ちをしながらも、ゆっくりと頷く。
「それじゃあ俺たちはこれで」
俺はそう言い踵を返す。
瞬間、ニィゼルさんがカウンターから体を乗り出し「また今度、遊びましょうね♪」と耳元で囁いた。
……はぁ、なんだか凄い疲れたな。
結局、その日も『ゴブリン討伐』を受け、日暮れ前に完了した。
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