表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/17

プロローグ

新投稿です!

「お兄様、異世界に行きましょう!」

 

「…………はぁ?」

 ノックも無しに部屋に入ってきた妹──愛莉(あいり)が、手に持っているパソコンの画面を見せてくる。

「さぁ、読んでくださいっ」

 愛莉は白い頬を紅潮させながら催促してくる。

 俺は仕方なく、パソコンの画面に表情されているサイトを確認する。

 

「異世界への、ご案内……?」

 俺は愛莉の顔を見て、「これはなんだ?」と尋ねる。

「いいから読んでください!」

 が、愛莉の迫力に気圧され、俺は再び画面に目を向ける。

 えっと、なになに──地球での生活に飽き飽きした人たちへ。異世界で素敵なスローライフを送りませんか? 今ならサービスも付きます──

「……なぁ、これって絶対詐欺の類いだろ」

「大丈夫です」

「いやでも」

「ほら、早く読んでください!」

「……」

 どうしてここまで必死なのか分からないが、まぁ仕方ない。

 俺は下矢印で画面をスクロールさせる。

 すると、『異世界のイイところトップ10!』といったモノを見付ける。

 

『異世界のイイところトップ10!

 

 1.地球とは完全に文化の違う世界で暮らせる!

 2.奴隷がいる!

 3.魔法が存在している!

 4.重婚が認められている!

 5.ハーレムが作れる!

 ~

 10.近親婚ができる!』

 

 ……ん? なんだこれ。

「なぁ、これって──」

「読み終わりましたか?」

「あ、あぁ、読み終わったけど」

「では早速支度をしましょう! 時間は有限ですから!」

「待て! 少しは落ち着け!」

「すぅ、はぁ……、はい、落ち着きました」

「一つ聞かせてくれ。……なんで愛莉は異世界に行きたいんだ?」

 そう尋ねると、愛莉は頬を朱に染め──

 

「お兄様と、結婚できるからですっ」

 

 生まれて初めて見る、満面の笑みで言い放った。

 

 

 ♡

 

 

 愛莉の言葉に、俺はふと昔のことを思い出した。

 

「お兄様、大きくなったら結婚しましょう!」

 

「いや、俺たちは兄妹だから、結婚はできないよ」

 

「それでも……私はお兄様と結婚したいんです。お兄様以外と結ばれるなんて、死んでも嫌です」

 

 

「お兄様?」

 俺は愛莉に呼ばれ、ハッと意識を取り戻す。

「どうした?」

「いえ、その……今一応プロポーズをしたんですけど……お、お返事は?」

 愛莉は先程よりも顔を真っ赤にしながら尋ねてくる。

 確かに、あれは明らかにプロポーズだよな。……実の兄にプロポーズするって、どうなんだよ。

「お兄様……」

 返事がないのが心配になったのか、愛莉は潤んだ瞳で見つめてくる。

 俺が「ふぅ」と息を吐くと、愛莉はビクリと肩を跳ねさせる。

「……分かった。もし異世界に行けたなら、そのときは愛莉と結婚するよ」

 そう言うと、愛莉は先程までの曇った表情をパァっと晴れさせる。

「言質取りましたからね! 絶対、ぜぇぇったいですよ!」

「分かった、分かったからそんな迫ってくるな!」

 ぶつかりそうなくらいに近付いてきた顔を、俺は両手で押さえる。

「コホン。少し興奮しすぎました。それではお兄様、早速支度をしましょう。出発は1時間後で」

「まて、もしかして今日出るのか!?」

 慌ててそう尋ねると、愛莉はきょとんとした顔で「勿論ですよ?」と言う。

「……はぁ、分かったよ」

 ため息を吐き、俺は返事をする。

 愛莉は「では1時間後に!」と言いながら部屋を出ていった。

 俺は再びため息を吐き、支度を始めた。

 

 

 ♡

 

 

 大き目のリュックに着替え、非常食、水や懐中電灯、財布を詰め込み、俺は愛莉の部屋に向かった。

 コンコン、と二度ノックをして扉を開ける。


「なぁ愛莉、支度終わったけど──」

 

 俺は言い終わる前に、言葉を失った。

 何故なら、部屋中に俺のポスターやぬいぐるみが複数あったからだ。

 よく見れば、机には写真が、ベッドには俺が印刷された抱き枕が置いてある。

 

「あ、お兄様、こちらも支度は終わりました」

 愛莉は何食わぬ顔でそう言う。

 俺は「さぁ行きましょう」と横を通ろうとする愛莉の肩を掴み、

「ちょっと待て」

 と制止した。

「ふぇ? どうしましたか、お兄様」

 が、相変わらず何食わぬ顔で愛莉は首を傾げる。

 不意に可愛いなと思ってしまったことが少し恥ずかしいが、俺は気にせずに疑問を口にする。


「この部屋は何だ?」

「え? 私の部屋ですよ?」

「いや、そうじゃない、そうじゃないんだ。……ポスターやぬいぐるみ、そんでその抱き枕、あれはなんだ?」

 そう尋ねると、愛莉は「そのことですか」と微笑む。

「お兄様グッズですよ!」

 キラッと効果音が聞こえてきそうな程眩しい笑顔で答える愛莉。

「……」

 俺は何て返せばいいのか分からずに、黙ってしまう。

 その無言を肯定的に受け取ったのか、愛莉は「それでは行きましょう!」と元気に言う。

「……はぁ」

 俺はため息を吐き、愛莉の後を追った。

 

 

 ♡

 

 

 家を出て俺と愛莉はまず新幹線に乗り、都外に出た。

 降りた先で電車に乗り継ぎ、県の外れまで行く。

 駅から数十分程歩き、バス停でバスに乗り、揺られること30分。

 そこから歩いて1時間。空も少し茜色に染まり掛けた頃。

 俺たちが辿り着いたのは、既に頽廃空虚と化した神社だった。


「ここが、異世界の入り口なのか……?」

「はい、記してある住所はここですから。取り敢えず進みましょう」

 俺は頷き、愛莉の手を握って進み出す。

 苔が生え、色の褪せた鳥居を潜る──途端、不意に訪れる頭痛に顔をしかめる。

「ぐっ」

「お兄様、何だか急に頭痛が……」

「あぁ、俺もだ……っ!」

 あまりの痛みに、俺と愛莉は足を止める。

 少しして視界が暗転し、俺たちの意識は暗闇に沈んだ。

この作品を読んで頂きありがとうございます!

誤字脱字、改善点等がございましたら容赦なく教えてください!

この作品を読んで頂いた読者様に最大の感謝を

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ