プロローグ
新投稿です!
「お兄様、異世界に行きましょう!」
「…………はぁ?」
ノックも無しに部屋に入ってきた妹──愛莉が、手に持っているパソコンの画面を見せてくる。
「さぁ、読んでくださいっ」
愛莉は白い頬を紅潮させながら催促してくる。
俺は仕方なく、パソコンの画面に表情されているサイトを確認する。
「異世界への、ご案内……?」
俺は愛莉の顔を見て、「これはなんだ?」と尋ねる。
「いいから読んでください!」
が、愛莉の迫力に気圧され、俺は再び画面に目を向ける。
えっと、なになに──地球での生活に飽き飽きした人たちへ。異世界で素敵なスローライフを送りませんか? 今ならサービスも付きます──
「……なぁ、これって絶対詐欺の類いだろ」
「大丈夫です」
「いやでも」
「ほら、早く読んでください!」
「……」
どうしてここまで必死なのか分からないが、まぁ仕方ない。
俺は下矢印で画面をスクロールさせる。
すると、『異世界のイイところトップ10!』といったモノを見付ける。
『異世界のイイところトップ10!
1.地球とは完全に文化の違う世界で暮らせる!
2.奴隷がいる!
3.魔法が存在している!
4.重婚が認められている!
5.ハーレムが作れる!
~
10.近親婚ができる!』
……ん? なんだこれ。
「なぁ、これって──」
「読み終わりましたか?」
「あ、あぁ、読み終わったけど」
「では早速支度をしましょう! 時間は有限ですから!」
「待て! 少しは落ち着け!」
「すぅ、はぁ……、はい、落ち着きました」
「一つ聞かせてくれ。……なんで愛莉は異世界に行きたいんだ?」
そう尋ねると、愛莉は頬を朱に染め──
「お兄様と、結婚できるからですっ」
生まれて初めて見る、満面の笑みで言い放った。
♡
愛莉の言葉に、俺はふと昔のことを思い出した。
「お兄様、大きくなったら結婚しましょう!」
「いや、俺たちは兄妹だから、結婚はできないよ」
「それでも……私はお兄様と結婚したいんです。お兄様以外と結ばれるなんて、死んでも嫌です」
「お兄様?」
俺は愛莉に呼ばれ、ハッと意識を取り戻す。
「どうした?」
「いえ、その……今一応プロポーズをしたんですけど……お、お返事は?」
愛莉は先程よりも顔を真っ赤にしながら尋ねてくる。
確かに、あれは明らかにプロポーズだよな。……実の兄にプロポーズするって、どうなんだよ。
「お兄様……」
返事がないのが心配になったのか、愛莉は潤んだ瞳で見つめてくる。
俺が「ふぅ」と息を吐くと、愛莉はビクリと肩を跳ねさせる。
「……分かった。もし異世界に行けたなら、そのときは愛莉と結婚するよ」
そう言うと、愛莉は先程までの曇った表情をパァっと晴れさせる。
「言質取りましたからね! 絶対、ぜぇぇったいですよ!」
「分かった、分かったからそんな迫ってくるな!」
ぶつかりそうなくらいに近付いてきた顔を、俺は両手で押さえる。
「コホン。少し興奮しすぎました。それではお兄様、早速支度をしましょう。出発は1時間後で」
「まて、もしかして今日出るのか!?」
慌ててそう尋ねると、愛莉はきょとんとした顔で「勿論ですよ?」と言う。
「……はぁ、分かったよ」
ため息を吐き、俺は返事をする。
愛莉は「では1時間後に!」と言いながら部屋を出ていった。
俺は再びため息を吐き、支度を始めた。
♡
大き目のリュックに着替え、非常食、水や懐中電灯、財布を詰め込み、俺は愛莉の部屋に向かった。
コンコン、と二度ノックをして扉を開ける。
「なぁ愛莉、支度終わったけど──」
俺は言い終わる前に、言葉を失った。
何故なら、部屋中に俺のポスターやぬいぐるみが複数あったからだ。
よく見れば、机には写真が、ベッドには俺が印刷された抱き枕が置いてある。
「あ、お兄様、こちらも支度は終わりました」
愛莉は何食わぬ顔でそう言う。
俺は「さぁ行きましょう」と横を通ろうとする愛莉の肩を掴み、
「ちょっと待て」
と制止した。
「ふぇ? どうしましたか、お兄様」
が、相変わらず何食わぬ顔で愛莉は首を傾げる。
不意に可愛いなと思ってしまったことが少し恥ずかしいが、俺は気にせずに疑問を口にする。
「この部屋は何だ?」
「え? 私の部屋ですよ?」
「いや、そうじゃない、そうじゃないんだ。……ポスターやぬいぐるみ、そんでその抱き枕、あれはなんだ?」
そう尋ねると、愛莉は「そのことですか」と微笑む。
「お兄様グッズですよ!」
キラッと効果音が聞こえてきそうな程眩しい笑顔で答える愛莉。
「……」
俺は何て返せばいいのか分からずに、黙ってしまう。
その無言を肯定的に受け取ったのか、愛莉は「それでは行きましょう!」と元気に言う。
「……はぁ」
俺はため息を吐き、愛莉の後を追った。
♡
家を出て俺と愛莉はまず新幹線に乗り、都外に出た。
降りた先で電車に乗り継ぎ、県の外れまで行く。
駅から数十分程歩き、バス停でバスに乗り、揺られること30分。
そこから歩いて1時間。空も少し茜色に染まり掛けた頃。
俺たちが辿り着いたのは、既に頽廃空虚と化した神社だった。
「ここが、異世界の入り口なのか……?」
「はい、記してある住所はここですから。取り敢えず進みましょう」
俺は頷き、愛莉の手を握って進み出す。
苔が生え、色の褪せた鳥居を潜る──途端、不意に訪れる頭痛に顔をしかめる。
「ぐっ」
「お兄様、何だか急に頭痛が……」
「あぁ、俺もだ……っ!」
あまりの痛みに、俺と愛莉は足を止める。
少しして視界が暗転し、俺たちの意識は暗闇に沈んだ。
この作品を読んで頂きありがとうございます!
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